初級翻訳・探偵少年 第9話

探偵少年

「グルルルル……、ウォーッ! グルルル……、ウォーッ!」

ダイヤモンドのように光る目がグッとこちらをにらみつけ、真っ赤な口が、今にも飛びかかって噛みついてきそうです。
少年たちは「ワーッ!」と叫び声をあげ、先を争うようにして逃げ出しました。
しかし、もと来たほうへ逃げようとしても、そこには深くて暗い岩の割れ目があるのです。
恐ろしい谷が待ち構えているのです。
前には目もくらむような深い谷、後ろからは金色のトラの化けいもの。
いよいよ、もう絶体絶命です。
トラに食い殺されるか、谷底に落ちて命を落とすか。どちらにしても、助かる見込みなんてありません。

「ワーッ、助けてくれえ……!」

恐ろしい悲鳴が上がりました。
井上君です。
井上君がやられてしまったのです。
井上君は一番後ろから逃げていましたが、そこへトラがパッと飛びかかってきて、その大きな前足で彼を押さえつけてしまったのです。
井上君は仰向けに倒れて、もがき苦しんでいます。
トラはその上に乗りかかり、真っ赤な口をガッと大きく開いて、今まさに噛みつこうとしているところでした。
それを見た少年たちはギョッとして、心臓がのどのところまで飛びあがってくるような恐怖を感じました。

少年たちはそこに立ちすくんだまま、一歩も身動きができなくなりました。ダイヤのように光るトラの目ににらみつけられて、からだがすくんでしまったのです。
トラは、まっかな口でかみつこうとしています。
あの口が、もう十センチさがったら、井上君はやられてしまうでしょう。
ああ、いまにも、いまにも!
「ワハハハハ……。」
そのとき、どこからか、おそろしい笑い声がひびいてきました。
それがどうくつにこだまして、いくin(※何人もの)人が、笑っているように聞こえます。
いったい、だれが笑ったのでしょう。
少年たちが笑うはずはありません。
それに、いまの笑い声は、太いおとなの声でした。
井上君をおさえつけていた金色のトラが、パッと、あと足で立ちあがりました。
少年たちは、いまにも、こちらへとびかかってくるのかと、もう、生きたここちもありません。
「ワハハハハ……。」
またしても、おそろしい笑い声です。
そして、その声が消えていったとき、じつに、ふしぎなことがおこりました。
金色のトラは、あと足で立ちあがって、まえ足で、じぶんの頭を、かかえたかとおもうと、そのまえ足を、グッと上にあげました。
すると、トラの首が胴体からちぎれて、スーッと空中に浮きあがったのです。
首がぬけてしまったのです。
そして、その下から人間のじいさんの顔が、ヌーッと、あらわれてきたではありませんか。
ひげののびた、きたないじいさんの顔です。
トラのなかに、じいさんがはいっていたのです。
「あっ、さっきの山小屋のじいさんだっ!」
少年のひとりが、さけびました。
「ワハハハハ……、おめえら、たまげたか。
日本の山にトラがいるわけはねえ。
おらがトラにばけて、ちょっくら、おめえらを、おどかしてくれただあ。」
やっぱり、あの山小屋の猟師のじいさんでした。
それにしても、じいさんは、こんなりっぱなトラの皮を、どこから手にいれたのでしょう。
また、いったい、なんのために、金のトラなんかにばけたのでしょう。
「エヘヘヘヘ……、いまに、びっくらすることが、おこるだぞ。」
じいさんは、うすきみわるく笑いました。
山小屋のじいさんは、かぶっていたトラの皮を、すっかり、ぬぎすててしまいました。
少年たちが、あっとおどろいていると、こんどは、もっとふしぎなことがおこったのです。
じいさんは、むこうをむいて、なにかやっていましたが、クルッと、こちらにむきかえったときには、まるでちがったおそろしい顔に、かわっていました。
「あっ、魔法博士だっ!」
少年団のだれかが、さけびました。
それは、あのぶきみな西洋悪魔のような、魔法博士の顔だったのです。
「アハハハ……、どうだ、おどろいたか。
わしじゃよ。
わしは山小屋のじいさんにばけて、きみたちのやってくるのを見はっていた。
道しるべのひもを切ったのも、板の橋をはずしたのも、このわしじゃ。
それから、この金色のトラの皮を、スッポリかぶって、べつの道からさきまわりをして、きみたちを待っていたのじゃ。」
それをきくと、小林少年が、ツカツカと前に進みました。
「それじゃ、このあいだの晩、ぼくが自動車のトランクにしのびこんで、尾行したのを、ちゃんと知っていたのですか。」
魔法博士は、にやにや笑ってこたえました。
「きみが尾行したことは、むろん知っていたよ。
はじめから、きみたちを、ここへおびきよせるつもりだったからね。
そして、きみたちのどきょうを、ためしてみたのさ。
だから、この鍾乳洞のなかを、いくらさがしても、黄金のトラは、みつからないよ。
あれは、もっとべつのところに、かくしてあるのだ。
しかし、まだきみたちが、負けたわけじゃない。
はじめに約束したとおり、二ヵ月のあいだに、探しだせばよいのだから。
まだ、たっぷり、よゆうがあるのだよ。
さあ、いよいよ、むずかしくなってきたね。
きみたちは、もう、まったく手がかりが、なくなってしまったのだ。
だが、あんしんしたまえ。
きみたちが、こんな冒険をやったほうびに、手がかりをおしえるよ。
きみたち、黄金のトラは、どこにかくしてあるとおもうね。
もちろん、このどうくつのなかじゃない。
ハハハ……それはね、きみたちの目の前にあったのだよ。
いまに、見せてあげるよ。」
魔法博士は、むこうのほら穴へはいっていって、長い板をもちだしてきました。
岩のさけめにかけてあった、あの板です。
それを、もとのとおりにかけて、みんなが渡りました。

トラのゆくえ

こんどは、魔法博士が、さきに立っているのですから、道しるべのひもなんかなくっても、だいじょうぶです。
少年たちは、なんなく、鍾乳洞の外に出ました。
「黄金のトラのかくし場所を、おしえてあげるから、こちらへ、おいで。」
魔法博士は、そういって、山小屋のほうへ、おりていきます。山小屋へ近づいたとき、さきに歩いていたノロちゃんが、びっくりしたように立ちどまりました。
「あらっ、へんなやつが、のぞいている!」
山小屋のうしろから、ヒョイと顔を出した人間の顔が、その声におどろいて、ひっこんでしまいました。
なんだか、ひげむじゃのきたない顔で、山男のようなやつでした。
「ハハハ……、あれはきみたちの、よく知っている人だよ。
おい、もういいから、出てきなさい。」
魔法博士によばれて、小屋のかげからノッソリあらわれたのを見ると、その男は背広のうえにネズミ色のオーバーをきて、りっぱな紳士のふうをしています。
それでいて、顔だけが、山男のようにきたないのです。
なんだか、気味のわるいやつです。
いったい、だれなのでしょう。
「ハハハ……、まだわからないかね。
これが、ほんとうの山小屋のじいさんだよ。
わしが、このじいさんにばけて、きものをかりたので、じいさんは、わしの服をきているのさ。」
魔法博士の説明で、やっと、わけがわかりました。
そういえば、博士のほうも、ピンとはねた口ひげのある顔ににあわない、きたない服をきているのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました