初級翻訳・文化村を襲つた子ども 第3話

文化村を襲つた子ども

向こう側の子どもたちも、負けないくらい大はしゃぎで騒いでいました。
合わせると、全部で二十五、六人もいました。
「やあ、来た来た!」
「西のチームがやってきたぞ!」
子どもたちは飛び上がって両手を突き上げました。
その中には女の子や、髪の毛が少し薄い子、足を引きずっている男の子もいました。
女の子たちは、総大将の松男が号令をかけても、まだ嬉しそうに線路脇の電柱を抱きかかえて、二、三人でぐるぐる回ってはキャッキャと騒いでいました。
「静かにしてくれ! 今日はこれから文化村に押し掛けるんだから、みんな僕たちの言うことをよく聞くんだぞ。言うことを聞かないやつは、迷子になっても知らないからな」
それを聞くと、みんなおとなしくなりました。
「進めー!」
そして、いよいよ出発しました。
けれど、それはなんだか変な行進でした。
砂利の上ばかり歩いて滑ったり転んだりしてばかりいる子もいれば、わざと狭いレールの上を、おかしな格好をして綱渡りみたいに進む子もいます。
かと思えば、枕木を一つ飛ばしにピョンピョンと跳んでいく子もいました。
みんな「文化村」というお金持ちばかりの村を、早く見たくてたまらなかったのです。
そこにはどんな子どもがいて、どんな木や草や花、そして果物がなっているんだろう? もしかしたら、動物園や公園なんかもあるかもしれない。そんなふうにワクワクしていたのです。
みんな我先にと急ぎだしました。
白い駅の建物が見えてきました。
黄色いのぼりを立て並べたように、ポプラの木がまっすぐ空に向かって立っています。
太陽の光がキンキラと照りつけています。
その右手の方に、なだらかな丘がありました。
丘の上まで、全部がキレイな町になっています。
キラキラと輝いています。
そこが、文化村でした。
子どもたちは思わず立ち止まって、その景色を眺めました。
丘の上の町は、色とりどりの小さな布を吊るしたような木々に囲まれていて、丘全体が、色鮮やかなメリンス(柔らかい毛織物)のハギレを積み上げた山か丘のように見えました。
あちこちに赤、青、黄、水色、草色、栗色などのカラフルな瓦で屋根をふいた、不思議なパズル細工のような家が、太陽の光を浴びてキラキラ輝いています。
中には、女の人の洋傘を開いたような丸みのある赤い屋根や青い屋根、あるいは手まりのような、だんだら模様の屋根をした家もありました。
かと思えば、黒い男の人の洋傘をすぼめて突き立てたような尖った屋根や、まるで下駄箱のフタを跳ね上げたみたいに、ひさしがぐんと深い屋根もありました。そして、町全体がパッとオレンジ色の秋の夕日の光を浴びて、まるで浮かび上がったようにキラキラと輝いているのです。

子どもたちは、思わずみんなでいっしょに「万歳(ばんざい)!」と叫びました。
そして、もっと先を急ごうと、我先にと競い合って進んでいきました。
どこからか、ピアノの音が響いてきました。

「あ、変な音が聞こえてくるぞ! 敵に気づかれたのかな?」
「ばかだなあ! ピアノっていうのは、オルガンのことだよ」

しばらく進むと、女の子が松男のそばへ駆け寄ってきて言いました。
「ねえ、絶対に公園もあるよねえ?」
「公園? あるよ、あるとも!」
今度は、別の女の子が駆け寄ってきて、松男に尋ねました。
「動物園はないの?」
「あるよ、あるとも!」
「じゃあ、ブランコは?」
「あるとも、あるとも! なんだってあるよ。すべり台だってあるぞ!」
「わあ! そんなものまであるのかい?」
「あるとも、あるとも! なんだってあるんだ。お金持ちの村だからな。きっと何だってあるよ」
「じゃあ、木馬(もくば)はある? 木馬はあるかい?」
「木馬? 木馬ってなんだい?」
「木で作ったお馬さんさ。乗れるんだよ。耳があって、背中があって、そこにまたがるんだよ」
「あるある! そんなものなら、100個だってあるよ。木で作った牛だって、ゾウだってあるさ!」
「ハハハハハ!」

松男はすっかり得意げになっていました。
吉と二人で並んで、いちばん先頭に立って歩きました。
吉は、どんぐりの入った袋をぶら下げていました。
二人はまるで大人のように、タバコでもプカプカとふかして歩いてみたいような、誇らしい気持ちになっていました。

5

駅の前の踏切を渡って、いよいよ文化村の入り口の大きな通りにさしかかると、二人はなぜか浮かない顔をして、黙り込んでしまいました。
通りの両側にあるお店の先には、大きなムク犬や、足の長いほっそりとした大きな犬がゴロゴロしていました。
お店の人たちは、働きながら、子どもたちをのぞき見していました。

「遠足かな?」
「先生がいないみたいだぞ!」
「どこへ行くんだろう?」
「1年生か? いや、大きな子もいるぞ」

松男も吉も、だまったままでした。
子どもたちは、男の子は男の子どうし、女の子は女の子どうしで、それぞれかたまり合って歩いていました。
だんだんと丘を登って、文化村の中に入ってきました。
ピアノの音が、はっきりと聞こえはじめました。
変わった形の家が、あちこちに見えはじめました。
けれど、不思議なことに、とても人通りが少ない町でした。

ある家の広い芝生の庭には、ブランコやすべり台がありました。
けれど、子どもは一人もいなくて、人の声さえ聞こえません。
別の庭では、首から上がやけどしたように赤い、ツルのような鳥がケロケロと鳴いていましたが、やっぱり誰もいないらしく、入り口の扉は蔵のようにピシッとカギがかけられていました。
また、空き家もたくさんありました。
玄関から高い窓のところまでツタのツルが伸びていて、門の石の柱の上では、焼き物の唐獅子(からじし)が番犬のように見張っていました。
けれど不思議なことに、家の裏の方にある物干し台の竿には、洗濯したばかりの色々な着物や洋服がぶら下がっていたのです。

「ねえ、いったい人がいるんだろうか、いないんだろうか?」
吉は、案内役の松男に聞きました。
けれど、松男にもはっきりとはわかりませんでした。
「空き家が多いみたいだね」
「そうさ。ここも、そこも空き家だね」

子どもたちは、だんだんと元気になって、お祭り気分でウキウキしてきました。
そして、がやがやと騒ぎはじめました。
「公園はどこなんだよー!」
「動物園はまだ遠いのー?」
「ぼく、お腹がすいちゃったよ」
「あいつら、ちっともいないなあ。見つけたら、思いっきりお仕置きしてやるのに」

吉は、歩きながら松男に聞きました。
「なあ、公園はどこにあるんだい?」
すると松男は立ち止まって、頭を振り振り考えながら、「待てよ、ぼく、忘れちゃったぞ」と言いながら、首を伸ばしてあたりをキョロキョロと見回しました。

そのとき、すぐ目の前にある空き家のような大きな家から、まるでライオンみたいなムク犬が、二匹もワンワンと吠えながら飛び出してきました。
「わあ!」と、子どもたちは一斉にときの声をあげました。
「やっつけろーっ!」
「わあーっ!」
「爆弾(ばくだん)だぞー!」

男の子たちは、それぞれ地面の石を拾って投げつけました。
バラバラと、小石は門や塀、そして玄関の奥にまで飛び込んでいきました。

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