安心しな」
そう言って二人は、ヨハンネスが差し出したお金をごっそり受け取ると、「なんてお人好しな子供だ!」とお腹を抱えて大笑いしながら、夜の闇へと去っていきました。
けれどもヨハンネスは、亡くなった人をもう一度きちんと棺の中へ寝かせてあげると、その胸の上で優しく両手を組ませてあげました。
そして、「さようなら」とお別れを言うと、今度も胸がいっぱいになるほど晴れやかで温かい気持ちになって、大きな深い森の中へと足を踏み入れていきました。
森の中を歩きながらあたりを見回すと、木々の間からこぼれ落ちる月明かりのちらちら揺れる中で、可愛らしい妖精の女の子たちが楽しそうに遊んでいるのが見えました。
妖精たちは逃げ出すこともなく、平気で楽しそうに遊んでいます。
それは、いまやって来たヨハンネスが、とっても優しくて良い人間だということを、ちゃんと分かっていたからでした。
心の悪い人間には、どれほど見たいと願っても、妖精たちの姿を見ることは決してできないのです。中には、本当に指の先ほどの小さくて可愛らしい妖精の女の子もいて、それぞれ長い黄金色の美しい髪を、金のくしで丁寧にといていました。
みんな二人ずつペアになって、大きな木の葉っぱや、背の高い草の先についている大きな水滴の玉の上に乗ると、まるでシーソーのようにぎったんばったんと揺らして遊んでいました。
ときどき、この水滴の玉がポロリと転がりだすと、乗っていた二人もいっしょにごろごろと転がり落ちて、長い草の茎の間にすっぽり挟まって止まります。
すると周りの小さな仲間たちから、どっと歓声や楽しそうな笑い声が湧き起こるのでした。
それは見ていてとても面白い光景でした。やがて妖精たちがみんなで歌を歌い始めると、それを聴いていたヨハンネスは、自分がまだ小さな子供だった頃に覚えた懐かしい歌を、はっきりと思い出しました。
頭に銀の冠をかぶった大きな模様入りのクモが、こちらの垣根からあちらの垣根へと糸を張り巡らせ、長い吊り橋や立派なお城のような大きなクモの巣を作り上げました。
そのクモの巣の上にきれいな朝露がポツポツと落ちると、明るいお月様の光を浴びて、まるで透き通るガラスのようにキラキラと輝きました。
こんな素敵な出来事が次から次へと続いていくうちに、やがて東の空から太陽が昇ってきました。
すると、妖精たちはみんな、花のつぼみの中へとスーッと入っていきました。
朝の心地よい風が吹き抜けて、クモの作った吊り橋やお城を包み込むと、そのまま大きなクモの巣ごとフワリと宙に浮き上がり、空の彼方へと飛んでいってしまいました。
さて、ヨハンネスがいよいよ深い森を通り抜けようとしたその時、後ろからハッキリとした男の人声で呼び止められました。
「やあ、旅のお方。どこまで行くんですか?」
「あてもなく、広い世界へ向かっているんです」と、ヨハンネスは答えました。
「ぼくにはお父さんもお母さんもいなくて、頼るあてもない身寄りなしの若者です。けれど、神様がきっと守ってくださると思っています」
「実は、わたしもあてもなく世界へ旅に出るところなんですよ」と、その見知らぬ男の人は言いました。「どうでしょう、二人で一緒に旅の仲間になりませんか?」
「ええ、喜んでそうしましょう!」と、ヨハンネスも答えました。
こうして、二人は一緒に旅立つことになりました。
すぐに二人はとても仲良くなりました。なぜなら、二人とも心根の優しい素晴らしい人たちだったからです。
けれどヨハンネスは、この新しい旅の道連れが、自分なんかよりもはるかに賢くて知識が豊富な人だということに気づきました。この男の人は世界中をほとんど歩き回ったことがあって、知らないことは何一つないのではないかと思えるほど、どんなことでも話してくれたのです。
太陽がすっかり高く昇ったので、二人は大きな木の下に腰を下ろして、朝ごはんを食べることにしました。
するとそこへ、一人の老いたおばあさんが歩いてやって来ました。
いやはや、本当に年老いたおばあさんで、まるで地面を這うように腰を深く折り曲げて歩き、T字型の杖にすがるようにしてやっとの思いで進んでいました。
それでも、森で拾い集めた薪の束を一つ、背中に背負っていました。
前掛けを胸のあたりでギュッと結んでありましたが、ヨハンネスがふと見ると、魔法の木であるシダの柄にヤナギの枝を取り付けた大きなムチが三本、前掛けの間から飛び出していました。
そして、二人の目の前をよろよろと歩いていたのですが、突然片足を滑らせて盛大に転んでしまい、「きゃあーっ!」と甲高い悲鳴をあげました。
かわいそうなことに、このおばあさんは足をくじいてしまったのです。
それを見たヨハンネスは、「二人でおばあさんを支えて、お家まで送り届けてあげましょう」と言いました。
すると旅の仲間である男の人は、自分のリュックサックを開けると小さな箱を取り出しました。
「いやいや、この中にすごい塗り薬が入っているんだよ。これを塗ればすぐに足のケガが治って元通りになるから、一人で家まで帰れるし、足をくじいたことさえ忘れてしまうくらいさ」と言いました。
さらに男の人は、「その代わりと言っちゃなんだけど、なあに、その前掛けに包んである三本のムチをゆずってもらうだけでいいんだよ」と言いました。
「なんてとんでもなく高い薬代なんだい」とおばあさんは言って、なぜか不思議そうにブルブルと首を振りました。
そのため、おばあさんはこのムチをなかなか手放したがらない様子でしたが、足をくじいたまま冷たい地面に倒れているのもつらくてたまらないので、とうとう諦めてムチを譲ることにしました。
その代わり、ほんの少し塗り薬をぬっただけで、おばあさんはすぐさまシャキッと立ち上がり、ケガをする前よりも元気いっぱいに、しゃんしゃんと歩き出しました。
これはまさに、その不思議な塗り薬のすごい効き目でした。けれど、それほど特別な薬ですから、普通の薬屋さんではめったに手に入らないものだったのです。
「そんなムチみたいなもの、一体何に使うんですか?」と、ヨハンネスは旅の仲間に尋ねました。
「何言ってるんだい、三本とも立派な草ほうきになるじゃないか」と、仲間は答えました。「こんなものを欲しがるなんて、わたしも相当な変わり者だねえ」
さて、それから二人は再び歩きだし、しばらく道をすすんでいきました。
「あ、大変だ! 空が曇ってきましたよ」と、ヨハンネスは言いました。「ほら見てください、モクモクと不気味な黒い雲が出てきました!」
「いやいや、心配はいらないよ」と、旅の仲間は言いました。「あれは雲じゃないよ。
山さ。
それも、とっても立派な大きな山なんだ。
あそこに登れば、雲よりも高くなって、すみきった空気の中に立てるんだよ。
そこに行けたら、どんなに素晴らしいだろうね。
明日の今ごろには、ぼくたちはもう、ずっと遠くの世界に行っているはずさ」
けれど、その山までは、こちらから見つめたほど近くはありませんでした。
二人は丸一日たっぷり歩いて、ようやく山のふもとにたどり着きました。
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