初級翻訳・智恵の一太郎 第20話

智恵の一太郎

雪は真白だ、板べいは真黒だ。
君たちの頬っぺたは林檎のように赤くつやつやしている。
こういういろいろな物の色は、いったい何だろう。
それはやっぱり太陽の光なんだよ。
太陽の光が物にあたって、それが僕たちの目にはねかえって来るのだよ。
物によって太陽の光を吸いこんだり、はねかえしたりするやり方がちがうのだ。
そのちがいが、さまざまの色になって、僕たちの目に入るのだよ。白く見えるものは、太陽の光に含まれているいろんな色を、ぜんぶはじき返すんだ。
どの色も吸い込まない。
だから、太陽の光とにている「白」に見えるというわけさ。
むこうに見える洋館には、青いペンキがぬってあるね。
どうして青いペンキは青く見えるんだろう?
それは、太陽の光に入っているいろんな色のうち、青だけをはじき返して、ほかの色はぜんぶ吸い込んでしまうからなんだよ。
黄色でも赤でもそれとおなじで、太陽の光の中から黄色だけをはじき返すものは黄色に見えるし、赤だけをはじき返すものは赤に見えるんだ。
赤と黄色がまじったものは、ほかの色は吸い込んで、赤と黄色だけをはじき返す、というわけなのさ。
なかには、太陽の光の色をぜんぶ吸い込んでしまって、ちっともはじき返さないものもあるんだよ。
そういうものには色がなくて、つまり、まっ黒に見えるんだ。
あの木の板べいでも、さっきの黒い紙でも、すごくよくばり屋さんで、どの色もぜんぶ吸い取って、ひとつもはじき返そうとしないんだよ。
だから、ぼくたちの目にはまっ黒に見えるというわけさ。
黒がよくばりなら、白はまた、すごくあっさりしているんだね。
「どの色もいりません!」と言って、ひとつも吸い取らないで、ぜんぶはじき返してしまうんだから。
ところで、光にはふつう「あたたかさ」がついてくるものなんだ。
光とあたたかさは、いつもいっしょにやって来る。
だから、色をすっかり吸い取る黒は、あたたかさも吸い取るんだ。
そして、色をぜんぶはじき返す白は、あたたかさもはじき返すというわけさ。
ぼくたちが黒いかべの前に立つと、なんだか寒く感じるよね。
黒は光もあたたかさも吸い取ってしまうからなんだ。
逆に、白いかべの前に立つと、あたたかく感じる。
白は光もあたたかさも、ぼくたちのほうへはじき返してくるからなんだよ。
だから、北川くんは、そのあたたかく感じる白い紙の下の雪が、早くとけると考えたんだね。
まちがってはいるけれど、もっともなまちがいさ。
大人だって北川くんとおなじように考える人はたくさんいるんだからね。
だけど、それは外から感じたときのことで、内がわはあべこべなんだよ。
黒いものは光もあたたかさも吸い取って離さないから、その内がわはあたたかい。
白いものは光もあたたかさもはじき返してしまうから、その内がわは寒いんだ。
だから、夏の日は白い着物が涼しくて、冬の日は黒い着物があたたかいというわけなのさ。
白い紙と黒い紙だっておなじことで、上から見てあたたかそうな白い紙の下は、あべこべにつめたくて、寒そうな黒い紙の下は、かえってあたたかいんだ。
だから、黒い紙の下の雪のほうが、早くとけたんだよ。
一太郎くんは、それをみごとに言い当てたわけだね」
 高橋さんは長い説明を終えると、ニコニコしながら、両手をふたりの少年の肩にのせて、やさしく言いました。
「さあ、今日の理科の時間はこれでおしまい。
次のときも、また何かおもしろい実験を考えておくからね」

風のふしぎ

 一太郎くんはふだんから元気な子どもだったのですが、めずらしく風邪をひいてしまって、熱が三十八度五分も出て、今日で三日も学校を休んでおふとんに入っていました。
でも今朝からは、気分もすっかりよくなって、熱をはかってみても三十六度五分ぐらいで、ふだんとかわりないのです。
それなのに、お医者さまが「もう一日だけ用心したほうがいい」とおっしゃったものだから、くやしくてたまらないけれど、しかたなく今日も学校をお休みしてしまったのです。
それは、お昼を少しすぎたころのことでした。
おふとんの上で雑誌を読んでいると、障子の外からお母さんの声が聞こえてきました。
「一太郎や、高橋さんがね、お前のお見舞いに来てくださったんだよ」
 そして、障子がスーッと開いて、そこへ大学の制服を着た高橋さんのニコニコ顔があらわれました。
「やあ、一太郎くん、風邪をひいたんだってね。
でも、もうすっかり元気そうじゃないか」
 高橋さんはそう言いながら、そばにどっかりと座りました。
「うん、もうすっかりいいんだよ。
ぼく、起きありたくてしかたないんだけどさ」
「お医者さまとお母さんが、ダメっておっしゃるんだろう?
ははは……、まあ、今日一日だけがまんするんだね」
 高橋さんと一太郎くんは、年の数はだいぶちがうけれど、まるでお友だちみたいに仲よしなんです。
一太郎くんはひとりで退屈していたので、高橋さんの顔を見ると急におしゃべりになって、いろんな話を次々にはじめました。
そして、やがていつものように、高橋さんにおねだりをはじめたのです。
「ねえ、高橋さん。
何かクイズを出してよ!」
「ほーら、はじまった。
きみは病気で学校を休んでいても、やっぱり科学少年なんだね。
よし、それじゃあひとつ、むずかしい問題を出してあげよう」
 高橋さんはそう言って、しばらく考えていましたが、何かいいことを思いついたような顔をして、ニコニコしながら話しはじめました。
「きみは、さきおとといの晩、お風呂に入ったあとで、北村くんのところへ模型飛行機の設計の相談に行ったんだってね。
そのとき、道で冷たい風にふかれたのがもとで、風邪をひいちゃったんだって?」
「うん、そうなんだ。
あの晩は、すごく風が強かったからさ」
「よし、それが今日の問題だよ。
冷たい風にふかれると、どうしてぼくたちは寒く感じるんだろうね?」「わかるかい」
「え、風にふかれるとなぜ寒いかって」
 一太郎君は、きょとんとした顔をして高橋さんを見つめました。もっとむずかしい問題が出るかと思ったら、あまりにもやさしい質問だったのでびっくりしたのです。
「空気が早く動くと風になるんだろう? そして、冷たいほうの空気がこっちへ運ばれてくるから、風が吹くと寒く感じるんだよ」
 そう答えながら、一太郎君は心の中で、「なんだあ、こんな問題ちっともおもしろくないや」と思うのでした。
「よし、それじゃあ一つ、おもしろい実験をしてみよう!」
 高橋さんはそう言うと、一太郎君の机の上から一枚の紙を手に取り、くるくると丸めて、巻きたばこより少し細いくらいの長い筒を作りました。
「さあ、手を出してごらん」
「えっ、手をどうするの?」
「いいから、出してごらんってば」
 一太郎君が言われるままに手を差し出すと、高橋さんは何を思ったのか、今作った紙の筒を口にくわえ、片方の端を一太郎君の手の甲に向けて、ふーっと強く息を吹きかけたのです。
「うわっ、寒い、寒い!」
 一太郎君は、思わず手をひっこめました。
「どうだ、寒いだろう? ……さて、どうしてかわかったかい?」
「えっ、何が?」
「冷たい空気じゃなくたって、風は寒いということがさ。

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