そして隣の部屋から聞こえてくる奇妙な物音の中で、苦しみに押しつぶされそうになりながら、私への手紙を書き綴ったのでした。
――
しかし私には、彼に対してどんな助言もしてやることができませんでした。
彼の物語が終わった後、私たちはただ黙り込んでいました。
隣の部屋からは、もうすべてが終わったのか、何の音も聞こえてきません。
そのうちに、私までをもへとへとにさせていた友人の苦しみも、それ自体がようやく疲れ果てて、静まったように見えました。
ようやく私は、自分の体を眠りにゆだねることができたのです。
翌朝、私は畳の上でごろ寝をしている自分の姿に、違和感を覚えながら目を覚ましました。
私のそばには、秦がやはり畳の上に、涙で汚れた顔をくっつけて横たわっていました。私が目を覚ましたことに気づくと、彼は急にこちらを向いて、にこにこと笑いかけました。
その汚れた顔は、すぐに昨夜の私たちの一幕を思い出させました。
しかし、その汚れた顔に浮かんでいる楽しげな表情は、私にはまだ未知のものでした。
彼は自分の顔を畳につけたまま、まるで秘密を打ち明けるような低い声で、私に話しかけてきました。
その言葉をしっかり聞き取るためには、私も横になったまま、顔を畳の上に、そして彼の顔のすぐそばに寄せていなければなりませんでした。
そうした私の強制されたような子供っぽい姿勢は、しかし、彼の子供のように上機嫌な様子を素早く理解するのには大いに役立ちました。
彼が語るところによれば――昨夜、どうしても眠れなかった彼は、私が眠っている間に、睡眠不足のせいで少し頭がおかしくなっていたのでしょう、とうとう部屋を抜け出して、隣の部屋へ忍び込んでいったのです。
もし見つかったら、寝ぼけて部屋を間違えたと言い訳すればいい、そう考えて。
――そして彼は大胆にも、その部屋の電気のスイッチをひねりました。
電気に照らし出されたその部屋の光景は、彼を思わず呆然とさせました。
そこに彼が何を見たか、想像がつくでしょうか? そこには、二人の女の裸体が、手足を絡め合ったまま、異様な格好で転がっていたのです。
同じくらいに白い四本の手足は、それがどちらの体から生えているものか、見分けがつかないほどでした。
……
「あいつは、やっぱり女だったんだよ」秦は私に言いました。
「もしあいつが男だったら、僕はあいつをどんな目に遭わせたか分かったものじゃない。
だが、女だと知ってしまえば……」
そして彼は、いかにも機嫌がよさそうに笑いました。
3
それから一週間ほど、私は秦からの報告を空しく待っていました。
しかし彼からは何の音沙汰もありません。
ある日、私は心配になって彼に電話をかけました。
彼はまだその踊り子を手に入れることができないと、元気がなく答えていました。
そしてすぐに他の話をし始めました。
それに続く日々は、重苦しい雲のように通り過ぎていきました。
公園全体が、いつもとは違ってなんとなく鬱陶しく、一日中眠気をこらえているかのようでした。
私は、それらの日々が何か異常な出来事を引き起こすのではないかという、不安な予感に襲われていました。
ある夜、私は「カフェ・アメリカ」の一つのテーブルに、ぼんやりと座っていました。
私の不機嫌そうな様子を見て、女たちは誰も私のそばに近寄ろうとはしませんでした。
私は一人で、聞くともなく、奥の方で(私の位置からは衝立に遮られて見えませんが)一人の客を中心にして女たちがキャッキャと騒いでいる声を聞いていました。
私には、それがなんだか私の不機嫌の原因であるようにしか思えなかったのです。
私はとうとう一人の女を捕まえて、その客について問い詰めました。
その客というのは、一人の男装した若い女だというのです。
彼女はときどき一人でやってくるのですが、その夜はいつになく酔っ払っているようでした。
彼女は男装しているだけでなく、好んで男のような言葉遣いをしていました。
そればかりか、彼女はどうもここの一人の女給をどこかに連れ出そうとしているらしいのです。
彼女はいつもその女給だけを呼び捨てにしていました。そしてそれが、すべてを疑わせるには十分でした。
それはともかくとして、彼女は急にこの頃、様子がおかしくなってきたらしいのです。
噂によると、彼女は水族館の踊り子の一人に夢中になっていて、その娘が欲しがるものは何でも買い与えていたのに、急に最近その娘が彼女を嫌い始めているそうです。そんなことが原因になっているのかもしれません。
――水族館の踊り子といえば、その踊り子との噂が立ち始めた時分、彼女とここの女給(彼女がいつも呼び捨てにしている娘)とが何やら口喧嘩をしていたことがありましたが、それはいま考えてみると、嫉妬からだったのかもしれません。
――
そんなことを、その女給は事細かに私に話して聞かせたのでした。その女給は、むしろその風変わりな女に対して同情を抱いているようだったので、その話は私にも気持ちよく聞くことができました。
私は尋ねました。
「一体その女は何者なんだい?」
「華族の令嬢だなんて言われていますよ。でも、誰も本当だとは思っていませんけれど。なんでも、実は女記者だなんて噂もあって」
その女が少しおかしくなりかけているという知らせは、私にとって、嵐の前兆のように感じられました。
「カフェ・アメリカ」からその女が出てくるのを、私は待ち伏せしていました。
ようやく彼女が出てきました。彼女はなるほど大きなハンチング帽をかぶり、ひどく酔っ払っているようでした。そして、酔いが彼女にもたらす無意識の動作の一つひとつが、彼女の男装という仮面を裏切っていました。
彼女はふらふらと雷門の前を通り過ぎ、吾妻橋の方へ足を向けました。私は彼女の後を追うことに決めました。
彼女は吾妻橋を渡りました。それから隅田川に沿って、ビール会社の大きな建物の影の中へと滑り込んでいきました。枕橋を渡り、さらに隅田公園の河岸を進んでいきます。川の上からは冷たい風が吹き付け、私達の前を絶えず行ったり来たりしていました。私達は言問橋の横を過ぎ、なおも土手の上を歩き続けました。
だんだん道が凸凹し始め、歩きにくくなりました。それは私達が郊外へと入りつつあることを告げていました。ここまで来ると、もう人通りは全くなくなっていました。ときどき野良犬がどこからともなく現れては私達の匂いを嗅ぎ回り、それからまたどこへともなく消え去っていきました。
私達は白髭橋のところまで来ました。しかし彼女は引き返そうとはせず、ずんずんと土手の上を進んでいきます。私は立ち止まったまま、しばらくためらっていました。彼女の跡をもっと追うべきか、それとも諦めるべきかと迷いながら。
そのとき、彼女が急に土手を降り始めるのを目にしました。私は再び、彼女を追うことに決めました。
しかし、その土手を降りた先がどこへ続いているのか、私には全く分かりませんでした。土手下の道は真っ暗で、ところどころに水たまりができていました。彼女はそれを避けようともしません。ときどき彼女の足が水たまりに入り、鈍くかすかな音を立てました。それが私達の沈黙を破る唯一の音でした。
コメント