初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第24話

小栗 虫太郎

そして、犬射がウルリーケ夫人に『大変だ!』と知らせに走るなど、みんなが大騒ぎしているその隙を狙って、彼は落ち着き払って八住を仕留めてしまったんだよ」

法水はそう言うと、ヴィデに向かって、どこか哀れむような悲しい視線を向けました。

「ああ、まさに『偶像の黄昏』ですね……。僕はあなたという人を見て、まるで一編の、人間味あふれる生々しい詩を見ているような気持ちになりました。
生きることへの強いこだわり、そしてあちこちをさまよいながら抱き続けた、激しい愛と憎しみ。
ですが男爵。哲学者ニーチェの言葉に、こんなものがありましたね。――『死ぬべきときを間違えた死は、おくびょうな死である』と」

「わかりました。それなら私は、誇り高い死を選ぶことにしましょう」

ヴィデは、自分の目の前――暗闇の中にそびえ立つ、法水という天才のあまりの偉大さにため息をつきながら、こう言いました。

「あの悪魔のようなフォン・エッセンという男を捕まえるか、それとも、自分自身のこれまでの人生をここで終わらせてリセットするか、どちらかですね。
私は今夜、一人で『鷹の城』の中に入ります」

そう言い残すと、ヴィデは部屋を出て行きました。その歩き方は、目が見えないはずの人間にしては、あまりにも足元がしっかりとしていました。

ところが次の日の早朝、潜航艇の乗組員の一人が、背中から心臓を突き刺され、真っ赤な血に染まって冷たくなっているヴィデの死体を発見したのです。

法水が現場へ駆けつけたときには、ヴィデの遺体はすでに陸の上へと引き揚げられていました。
朝の時間を過ぎて昇ってきた太陽の光が、遺体にかけられた白いシートを照らし、その上にはキラキラと陽炎(かげろう)が立ちのぼっていました。しかし、シートをめくると、遺体の全身には赤い斑点が浮き上がっており、まるで法水の心を責め立てるかのように、彼の目に飛び込んできました。

法水は、目の前に広がる緑色の海が、まるで生きているかのように絶えず波打っているのを見つめながら、この恐ろしい事件には、永遠に本当の結末など訪れないのではないか、という気がしていました。

そして、ついに心の中でかたい決意を固めると、その日一日を、たった一人きりで潜航艇「鷹の城」の中で過ごすことにしたのです。
法水は、海の様子を映し出す潜望鏡をじっとのぞき込んだり、あるいは、何着もずらりと吊り下げられている潜水服のコーナーを、くまなく調べたりし始めるのでした。ハッチの下にある部屋から機関室へと向かい、それから前に八住が殺された客室へと入っていきました。そのときの気分は、まるで誰も知らない不気味な世界に迷い込んでいくかのようで、妙にゾクゾクするような不安が胸にこみ上げてくるのでした。

ところが、その部屋から出ようとしたとき、法水はドアの取っ手を握りしめたまま、あっけにとられて立ちすくんでしまいました。

ハッチの開閉する音なんてまったく聞こえなかったはずなのに、一体いつの間に鍵がかけられてしまったのでしょうか。そのドアは、押しても引いてもビクとも動かないのです。

そのとき突然、潜航艇の全体を激しく揺さぶるような大きな振動が起こり、みるみるうちに「鷹の城」は暗い海底へと沈み始めました。

法水は一瞬、自分の頭がおかしくなって、幻でも見ているのではないかと疑いました。

しかし、それは夢ではありませんでした。

ガラス窓の向こうでブクブクと立ちのぼる泡を見つめながら、彼は自分が一刻一刻と、恐ろしい死の底へと沈んでいくのを感じていたのです。

そして、だいたい20メートルほど沈んだと思われるころ、潜航艇は横にゆらゆらと揺れながら、どこかへ向かって進み始めました。

目の前の暗い海底では、まるで深い池のような水の中で、たくさんのムネエソ(斧魚)が怪しく光り、その骨がくしの歯のように透けて見えていました。まるで、姿の見えない「艇長フォン・エッセン」の、煙のような冷たい手に引っ張られていくうちに、法水は「自分はここで死ぬのだろうか、どこが自分の墓場になるのだろう」と、あれこれ考え始めるのでした。

そのとき突然、彼の頭の中にピカッと素晴らしいアイデアがひらめき、暗かった心が一気に明るくなりました。

法水は急いで食器棚から水を取り出すと、それをドアの鍵穴に注ぎ込みました。そしてその中に、氷と塩を混ぜて作った、物をキンキンに冷やす薬(寒剤)を流し込んだのです。そのまましばらくじっと待っていると、カチャリと鍵が外れる音がして、ドアが開きました!

これは、あの恐ろしい犯人が仕掛けた悪魔のようなトリックを逆手に取った方法でした。つまり、水が凍って氷になるときに、体積が大きくふくらむ力を利用して、鍵のロックピンを下から押し上げさせたのです。

急いでハッチの下に脱出した法水は、すぐに潜航艇の操縦かん(潜水操舵器)を握りしめました。「鷹の城」はキィィィンとけたたましい音を立ててうなりながら、ぐるりと方向転換を始めました。やがて、前方に防波堤の下の岩壁がうっすらと見えてくると、今度は舵をうまくコントロールして、その岩壁と並ぶようにまっすぐ走らせました。

すると不思議なことに、少し進むうちに、潜航艇はみるみるうちに水面へと浮かび上がっていったのです。まもなく、ガラス窓の向こうには、青くきらめく太陽の光がゆらゆらと揺れ始めました。――それにしても、不気味な艇長フォン・エッセンは、一体どうして「鷹の城」を水面に浮かび上がらせるような真似をしたのでしょうか?

やがて潜航艇から外へ出ると、法水はみんなに向かって、この恐ろしい事件がすべて解決したことを告げました。

「ところで、犯人がまるで魔法のように姿を消していたあのトリックも、タネを明かしてしまえば、なんてことはない、この白い帯が原因だったのですよ」

法水は、支倉検事とウルリーケ夫人を連れて再び潜航艇の中に入ると、たくさんの潜水服がずらりと吊り下げられているコーナーを指さしました。

どの潜水服も、上着とズボンの間が、前の方だけ少しすき間が空いていて、そこから白い太いベルト(大帯革)の裏側がのぞいていました。

「つまり、犯人はいつも、この潜水服が並んでいる中に紛れて隠れていたのです。ですがその前に、彼がお腹の下半分に、この白いベルトにそっくりな『白いタトゥー(隠し彫り)』を彫っていたことを見落としてはなりません。

普段は目立たないのですが、お酒を飲んだり、お風呂に入ったりして全身が赤くなると、それまで見えなかった白いタトゥーが、くっきりと浮かび上がってくるのです。

そのうえ、この薄暗いコーナーでは、人間の肌の色なのか、それとも潜水服のパーツなのかがよく分かりません。だから私たちは長い間、この『白いベルトの裏側』に見える模様に、すっかりだまされていたのです。

そして、あの恐ろしい犯人は、周りに誰もいなくなるまでここにじっと隠れていて、静かになると、今度は潜望鏡の筒などをうまく使って、外へと抜け出していたのですよ。

さあ、夫人。

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