半分こげたり、水でびしょぬれになったりした荷物と一緒に、ぼくたち家族六人は、小さな離れで暮らすことになったんだ。
ごはんは、朝・昼・晩の三食とも、官舎(かんしゃ)の人たちが作って持ってきてくれたよ。
その、あつあつの「おにぎり」が、もう最高においしかったんだ!
ゴマがふってあるのや、中から梅干しが出てくるの、海苔(のり)が巻いてあるの……こんなにおいしいごはんを食べたのは初めてだって思うくらいだった。
実は、この火事は泥棒(どろぼう)が火をつけたらしい、ということがわかったんだ。
井戸の水をくみ上げる縄(なわ)が切られていて水が使えなくなっていたことや、焼け跡から一本の短刀(たんとう)が見つかったことから、警察の人は「これは泥棒のような悪いやつがやったことに違いない」と判断したんだ。
それを聞いて、お母さんは「やっと安心できた」と言っていたよ。
お父さんはそれから二、三日の間、毎日警察に呼び出されて、ずっとプンプン怒っていた。
おばあちゃんは、自分の部屋から火が出ているのを見つけたとき、あまりの驚きに声も出なくなっちゃったんだって。でも、火事がおさまって、やっとおしゃべりができるようになった。
その代わり、少し具合が悪くなってしまって、狭い部屋のすみっこに布団をひいて寝たきりになってしまったんだ。
ぼくたち子供は、火事のあった次の日には、もういつもの元気な気持ちに戻っていたよ。
それどころか、いつもよりなんだかワクワクしておもしろいくらいだったんだ。
毎日三人で焼け跡(やけあと)へ遊びに行って、片付けをしている大人たちに「邪魔だぞ!」「危ないよ!」なんて怒られながらも、いろんなものを拾い出したんだ。それをみんなで見せ合ったり、交換したりして遊んでいたよ。
火事から三日たった日の朝、目を覚ますとおばあちゃんが慌てた様子で、「ポチはどうしたんだろう?」ってお母さんに聞いていた。
おばあちゃんは、ポチがひどい目にあう夢を見たんだって。
「あの犬が吠えてくれたおかげで火事に気づけたんだよ。もしポチが知らせてくれなかったら、みんな焼け死んでいたかもしれないのに」とおばあちゃんは言った。
そう言われてみれば、本当にポチの姿が見当たらないんだ。
朝起きたときも、焼け跡で遊んでいるときも、なんだか何かが足りないような気がしていたけれど……それは、ポチがいなかったからなんだね。
お母さんの話では、ぼくがみんなを起こしに行く前に、ポチが離れまでやってきて、雨戸をガリガリ引っかきながら悲しそうに吠えたんだって。それで、お父さんもお母さんも目を覚ましたんだ。
そんなに忠実で賢いポチがいなくなったことを、ぼくたちはみんな、すっかり忘れてしまっていたんだよ。
ポチのことを思い出したら、ぼくは急にさびしくてたまらなくなった。
ポチは、妹や弟の次にかわいい、ぼくの一番大好きな親友なんだ。
外国人が住む町にいるお父さんの友達からゆずり受けた犬で、耳が長くて、しっぽがフサフサした、とっても大きな犬なんだ。長い舌をペロペロと出して、ぼくや妹の首のあたりをなめて、くすぐったがらせる犬。ケンカになれば、どんな犬にだって負けない強い犬。めったに吠えないけれど、一度吠えれば人間も馬も怖がらせてしまうような犬。ぼくたちの姿を見つけると、きっとニコニコ笑いながら駆け寄ってきて、飛びついてくる犬。芸はなにもできないくせに、なんだかたまらなくかわいい犬。芸をさせようとすると、恥ずかしそうに横を向いて、大きな目を細くしてしまう犬。
「どうしてぼくは、あんなに大事な親友がいなくなったのを、今日まで思い出さずにいたんだろう」
そう思うと、ぼくは悲しいだけじゃなく、自分に対して腹が立って、くやしくてたまらなくなった。
ぼくは妹と弟にそのことを話して、すぐにみんなでポチをさがしはじめたんだ。
三人で手分けをして庭に出て、大きな声で「ポチ! ポチ! ポチ来い、ポチ来い!」と呼びながら歩き回った。
官舎の町を一軒一軒、聞いて回ったよ。
「ポチが来ていませんか?」
「いいえ、いませんよ」
「どこかで見かけませんでしたか?」
「見てないねえ」
どこへ行っても、返ってくるのはそんな言葉ばかりだった。
ぼくたちは、お腹がすいていることさえ忘れてしまった。
「ごはんですよ」と、お手伝いさんが呼びに来てくれたけれど、ぼくたちは帰らなかった。
茂木さんの別荘の方から、物もらいの人が住んでいる山の森の方へも行ってみたんだ。
そして、時々思いきり大きな声を出して、ポチの名前を呼んでみた。
それから、じっと立ち止まって耳をすませた。
ポチが「待ってよ!」と大急ぎで駆けてくる足音が、聞こえてこないかと思って。
けれど、ポチの姿も、足音も、鳴き声も、なにも聞こえてはこなかった。
「ポチがいなくなっちゃって、かわいそう……。きっと、殺されちゃったんだわ」
妹は、さびしい山道に立ちすくんで、今にも泣きだしそうな声で言った。
本当に、ポチが殺されたり、誰かに盗まれたりでもしなければ、いなくなってしまうはずがないんだ。
でも、そんなことがあってたまるもんか!
あんなに強いポチが、簡単に殺されるわけがないし、盗もうとする人が来たら、ガブリとかみつくに決まっている。
「どうしちゃったんだろう。もう、嫌になっちゃうな……」
ぼくはだんだんイライラしてきて、妹に言い返してやった。
「もとはといえば、おまえが悪いんだぞ。おまえ、いつか『ポチなんかいやな犬、あっちへ行け』って言ったじゃないか」
「あら、あれは冗談で言ったのよ」
「冗談だって言っちゃいけないんだ」
「それでポチがいなくなったわけじゃないわよ」
「そうだい、そうだい! それじゃあ、どうしていなくなったか知ってるのかよ……ほら、言ってみろよ」
「『あっちへ行け』って言ったって、ポチはどこにも行きはしなかったわ」
「そうさ、それはそうだけど……ポチだって、どうしようかなって考えていたんだぞ」
「でも、お兄ちゃんだって、ポチをぶったことがあったじゃない」
「ぶったりなんかしてないやい!」
「いいえ、本当にぶってたわよ」
「ぶったっていいじゃないか……ぶったって……」
そういえば、ポチがぼくのおもちゃをめちゃくちゃに壊したとき、ポチが「キャンキャン」と鳴くくらい、ひどくぶっちゃったことがあった。
……妹にそう言われたら、なんだかそれが原因でポチがいなくなったような気がしてきたんだ。
でも、ぼくはそう思うのが嫌だった。どうしても妹が悪いんだと思い込みたかった。
妹のことが、急に憎らしくなってきた。
「ぶったって、ぼくはあとでちゃんとかわいがってやったよ」
「私だって、かわいがってたわよ」
妹が山の中で、シクシクと泣きだしてしまった。
すると、つられて弟まで泣きだした。
ぼくも一緒に泣きたくなったけれど、くやしいから一生懸命がまんした。
なんだか、山の中に子供三人だけでいるのが、急に怖くなってきたんだ。
そこへ、お手伝いさんがぼくたちをさがしに来てくれた。家のみんなが、ぼくたちが見えなくなったので心配しているから、早く帰ろうと言うんだ。
お手伝いさんの顔を見たら、妹も弟も急に声を張り上げて泣きだした。
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