「ええっ、君たちは火星人か! あの、火星人だって……!?」
先生は思わず大きな声で叫びましたが、すぐに首を左右にふって、
「うそだ、そんなのうそにきまっている。私はこれまでにたくさんの火星人を見たが、君たちのようなぐにゃぐにゃした体をしていないし、そんなに小さくもない。だから、うそだ!」
と言いました。
すると怪物は、とても不満そうな口ぶりで、
「私たちが火星人でなければ、いったいどこにほんものの火星人がいるっていうんだよ。僕たちは正真正銘の火星人さ!」
「いや、違うね。火星人は、大きくて硬い胴体を持っていて、背も我々人間と同じくらいだ。それに、ちゃんと人間と同じような首もある。もっとも、その首はよくころげ落ちるので、ちょっと変だがね……」
そこまで言うと、先生の話を聞いていた火星人は、急に「からから、からから」と笑い出したのです。
「何がおかしいんだ?」
「いや、それでわかったよ。あなたが言っているのは、『火星兵団』の隊員のことだろう?」
「君たちは、火星兵団を知っているのかね?」
「もちろん知っているとも! しかし、人間なんてばかなものだなあ。僕たちと火星兵団の隊員が、同じ火星人だということに気がつかないなんてね。ほっ、ほっ、ほっ!」
「君たちと火星兵団の隊員が、同じ火星人だって!?」
新田先生は、どうしても信じられないという顔をして、地底の怪物に問い返しました。
「ほっ、ほっ、ほっ! まあ、文化の低い地球の人類には、そのわけがわからないのも無理はないけれどね。ほっ、ほっ、ほっ!」
怪物は檻の中で、体をくねらせておかしそうに笑いました。
それはまるで、川岸に生えているアシが、風にゆられているような姿でした。
「そのわけを話しなさい。でないと、私は君たちを助けるのをやめてしまうかもしれないぞ」
先生はわざと怪物をおどかしてみました。
「ま、待ってくれよ! あなたも蟻田博士も、地球の人間はすぐに怒り出すから嫌になっちゃうな」
怪物はぶつぶつ言いながらも、こう続けました。
「じゃあ、そのわけを教えてあげるよ。といっても、大したことじゃないんだ。さっきも言ったように、僕たちがこの地球の上でちゃんと生きているのは、この檻の内側に、目には見えないけれど蟻田博士の発明した『減圧幕(げんあつまく)』がはってあるからなんだ。ところが、火星兵団の連中は、こんな便利な減圧幕があることを知らないものだから、あの大げさな『入れ物』の中に入っているのさ」
「入れ物だって?」
「そうさ、入れ物だよ。入れ物っていうのは、ほら、さっきあなたが言っただろう? 『たいへん硬い胴! ドラム缶のような胴!』って。あれがその入れ物なのさ!」
「火星人が入っている入れ物……? あのいかめしい胴体の中に、火星人が入っているのかね? 地球の空気があんまり濃すぎるから、あの胴体のような入れ物の中に、火星人が入っているっていうのかい? 本当なのか……いや、本当らしいぞ……! ふうむ、それは驚いた! へええっ!」
新田先生は驚きをかくそうともせず、何度も大きなため息をつきました。
「ふうむ、そうか! 火星人の体にそんな秘密があったとは、まったく気がつかなかった!」
新田先生は、地底でうごめく火星人の話を聞いて、感心のあまり自分のひざをピシャリと打ちました。
もしそれが本当だとしたら、これまで起きた色々な謎がすべて説明がつくぞ。
小学生たちが生け捕りにした火星人が、さいごに胴体ひとつになってころげ回っているうちに、ちょうどそこへ行進してきた戦車にぶつかり、胴体が粉々に割れてしまった。そのとき、中からゴムで作ったタこのようなものがころがり出てきて、大きな犬がそれをくわえてどこかへ行ってしまったという、あの謎めいた事件。
いま、火星人の話を聞いて、あの不思議な謎が一気に解けました。
つまり、火星人を地球の濃い空気の圧力から守っていた「胴体(入れ物)」がこわれてしまい、その中にいた本物の火星人は、たちまち地球の濃い空気に押しつぶされて、あんなに小さく縮んでしまったというわけなのです。
頭のいい火星人たちは、人間に近づくためには、自分たちの本当の姿をそのまま見せては損だと思ったのでしょう。だから怪人丸木のように、また山梨県の山中に着陸した火星兵団の兵士たちのように、胴体の上に作り物の首をつけたり、これまた作り物の手や足をつけたりして、必死に人間の形に似せようとがんばっていたのでした。「なんと用意周到な火星人たちだろう!」
新田先生は、三度目となる感心の声をあげました。
「いやあ、先生、感心してばかりいないで、早く私たちを助けてくださいよ、ねえ」
檻の中にいる火星人が、先生に急かしました。
「おっと、そうだった。
こうなったからには、善良な君たちのことをぜひ助けてあげたいが、いったい蟻田博士は――」
先生がそう言いかけたとき、背後からせき払いが聞こえてきました。
42 人間ぎらい
「なんだ、新田じゃないか。
お前というやつは、まったくけしからん男だな」
しわがれた声が、先生の背中のすぐ後ろからかけられました。
「あっ、蟻田博士!」
いつの間にここへ入ってきたのか、蟻田博士が先生の後ろにぬっと立っていました。
「博士、どうしてここへ?」
「どうしてここへだと? ふん、あたり前だ!
ここはわしの研究所なのだからな。
他人の指図など受けるものか」
博士は相変わらず気が短く、ずけずけと言い放ちました。
そのとき新田先生は、久しぶりに見る博士の姿が、前回会ったときよりもひどくやつれていることに気づき、胸を痛めました。
腰はすっかり曲がり、顔はさらにやせこけ、真っ白な髪の毛はぼうぼうと伸び放題でした。あのカッコよく刈り込んであったあごひげも、手入れされずに伸びきって、まるで擦り切れた竹ぼうきのようになっていたのです。
(いったいどうしたのだろうか。
博士のこのやつれようは……)
博士は鼻の頭からずり落ちそうになる眼鏡をキュッと押し上げながら、言いました。
「おい、新田。
さっき聞いておれば、お前はそこにいるロロとやらとなにやら話をしていたじゃないか。
お前はいつの間にそんな勉強をしたんだ。いや、そもそも、どうして火星語を話せるようになったんだね?」
博士はとても不思議そうな顔をしています。
新田先生は、もう隠し通せないと思い、変話機を取り出してこれまでのいきさつを手短に博士へ報告しました。
博士はうなずきながら、おとなしく先生の話を最後まで聞き終えると、こう言いました。
「ふうん、お前にしては上出来だな、なかなかの手柄だ。
その手柄に免じて、これまでの不始末は許してやろう。もう一度、わしの門下生として教えてやることにするよ」
博士は相変わらず偉そうな口をききます。
しかし、蟻田博士の機嫌がとても良さそうだったので、新田先生はこのチャンスとばかりに尋ねました。
「博士、モロー彗星が地球にぶつかる日がよいよ近づいてきましたが、どうにかして人類を助ける方法はないものでしょうか!」
すると博士はひげをわなわなと震わせ、新田先生の顔をじろりと鋭く睨みつけました。
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