そうだ、あの呪文をどなって歩いたら、どこかの地の底で、扉があく音が聞えるかもしれない」
千二は、呪文をとなえるなんて昔話のようで、ばかばかしいことだと思ったが、ともかくそれをやってみることにした。
あの呪文はどういうのであったかしら。
千二は、はじめてそれを聞いた時、たいへんむずかしい呪文だと思ったが、博士から、いくどもそれを聞いているうちに、なんだかおもしろい口調なものだから、口の中でくりかえしているうちに、おぼえてしまったのである。
ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレ。
たしか、この通りであった。千二は砂浜に立ち、岩に向かって、
「ええと、ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレ」
と、大きな声でさけびました。
さあ、岩山の入口が開くかと、千二は目を丸くして岩山をじーっと見つめましたが、あてがはずれて、岩山はもとのままビクともしません。
「だめだなあ」
と千二は言いましたが、まだあきらめるのは早いと思い、またその岩山をのぼりはじめたのです。
千二は、岩山のてっぺんまでのぼると、そこでもう一度じゅもんをとなえてみました。
「ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレ。
さあ、どうだ!」
じゅもんの効果はあるかと、千二は耳をすましました。
すると、岩の中から、ごうごうと機械がまわるような音が聞こえてきたではありませんか。
「あっ、何かはじまったぞ!」
と、千二は岩の上にペタッと腹ばいになり、岩の中から聞こえる音がいったい何の音なのか、たしかめようとしました。
ところが、その音の正体がわかるよりも先に、別のおどろきがやって来ました。
なんと、千二のからだが、ぐっと横に動きだしたのです。
まるで、大きな地震のようでした。
「うわっ、岩が動きだしたぞ!」
岩山のてっぺんがぱっくりと割れて、大きな穴があきました。
中へとつづく階段が見えてきたのです。
「やったぞ!
ついにじゅもんがきいて岩が割れたぞ。
ここをおりていけば、洞窟へ行けるにちがいない!」
千二は、からだを起こすと、その岩穴の中へと飛びこみました。
中は、思ったよりもずっと広かったのです。
そして、千二が中に入ると、岩はまたもとのようにピタリと閉じてしまいました。
それと同時に、地下から聞こえていたごうごうという音も、ピタリとやんだのです。
千二が階段を下りていくと、その下は第二の扉で行きどまりになっていました。
でも、千二はもうおどろきません。
さっそく扉に向かって、またあのじゅもんをとなえました。
すると、また機械のまわるような音がして、第二の扉はすべるように岩の中へスーッと消えていきました。
部屋の中は、どこから光がやってくるのか、昼間のように明るいのです。
そこには、机や椅子、そしてさまざまな機械が見えました。
それだけではありません。
なんと、蟻田(ありた)博士と新田(にった)先生がこちらを向いて立っていたのです。千二は、夢を見ているのではないかとびっくりして、大喜びしました。
「おお、千二くんじゃないか!
どこに行っていたんだ。
みんな心配していたんだよ」
新田先生がかけだしてきて、千二の手をギュッと強くにぎりました。
「あぁ、先生……!」
それだけ言うのがやっとで、千二はそのあとにつづく言葉が出てきませんでした。
火星の上でひとりぼっちになって迷子になり、これからどうしようかと不安になりながら、気味の悪い洞窟に入っていったところ、そこで思いがけず新田先生たちに会うことができたのです。
こんなにうれしいことはありませんでした。
博士も、部屋の奥から千二の方を見て、にこにこしながら笑っていました。
千二は、自分が丸木(まるき)につかまってしまったことや、その丸木が今、ペペ山を地底から大爆発させるために、自慢の地底戦車隊に出動の命令を出したことなどを、手みじかに話しました。
それを聞いていた新田先生は、意味深な表情で蟻田博士の方へ顔を向けました。
すると博士は、千二のそばへやって来て、その肩にポンと手を置きながら言いました。
「千二くん。
お前は、その地底戦車隊がペペ山の下をほりはじめたところを、実際に見たかい?」
千二は首を横にふって、
「いいえ、ぼくはそこまでは見ていなかったんです。
丸木が、近づいてくる戦車隊の方に夢中になっているすきをねらって、にげだしてきたのです」
それを聞いた博士は、大きくうなずきました。
「ふむ、いいときによくぞにげだしたものだな」
「そうですか? どうしてですか?」
「いやね、その地底戦車隊は、もう丸木の命令にはしたがわなくなったのだよ。
そして、丸木たちをぐるっととりかこんで、『降服しろ!』とせまったのだ。
もちろん丸木は言うことをきかない。
だから今ごろ丸木たちは、頭の上から大砲の雨をくらっているところなのさ」
そのころ、火星兵団長の丸木は、思いがけぬ地底戦車隊の裏切りによってとりかこまれ、非常にうろたえていました。
彼は、陣地の小高い岡の上に立ちあがり、命がけで地底戦車隊に呼びかけました。
「地底戦車隊の司令官はどこにいる!
なぜおれの命令どおりにしないのか!
ペペ山を攻撃しろと言っているのに、それをしないで、どうしておれのまわりを取り囲んだりするのだ。一体どういうつもりだ!」
すると、地底戦車の一つから、拡声器(かくせいき)をつかって司令官アグラスの声が響き渡りました。
「おい、丸木兵団長――いや、あなたはもはや兵団長でもなければ、戦争大臣でもない!
あなたの役職はすべて、取り上げられたのだ!」
丸木はその声を聞いて、ますます目を丸くしておどろきました。
「なにっ、それは本当か!
おれの役職を、そんなに簡単にうばわれてたまるものか!
いったい誰が、おれの役職をはぎとったというのだ!
それになぜ、おれをこんなひどい目にあわせるのか!」
「おとなしくしなさい。
国王さまのご命令だ!」
「そんなはずはない!
国王は、おれと相談のうえでなければ、すべての火星兵団員の任命もクビにすることもできないことになっているんだ!」ましてや、このおれをクビにするなんて、そんなおかしな話があるもんか!」
丸木は、顔を真っ赤にしてすごいきょおふうで怒鳴りました。
すると、司令官のアグラスがこう言いました。
「丸木どのの言っている前の国王というのは、昔の王さまのことです。
わが火星国には、ここ十五分ほど前に、新しい王さまが誕生されたのですぞ」
「なんだって!
王さまがかわっただと? そんなこと、あるわけがない。
いったい誰が王さまになったっていうんだ!」
「ロロ公爵さまでいらっしゃいます。
そして、ルル公爵さまが副王さまになられました。
前の王さまは、火星兵団を地球へむかわせたものの、こてんぱんに負けてしまったその責任をとって、王の位をおりて、ロロ新しい王さまに忠誠をつかわされたのですぞ。
あなたも、新しい王さまに忠誠をちかうのがいい」
丸木は、これを聞いてすっかり目玉を飛び出させておどろきました。
いつの間にか、ロロ公爵が王さまになっていたなんて。
彼は納得がいかない様子で、こうまくしたてました。
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