四人の少年は、声もなく大峡谷の美しさにうたれて、時間の経つのも忘れて塔の上に立ち尽くすのであった。
一週間は夢のように過ぎた。
さすがに四人の少年は、この本館内での生活に退屈を感じるようになった。
博士にそれとなく聞いてはみたが、当分ここから出してくれそうもない。
困ったことである。
夏休みはもう何日も残っていないから帰りたいといったところ、博士は学校の方には通知を出しておいたからすっかり治るまでここにいていいのだと答えた。
それではもう仕方がない。
ある日、ネッドが顔を輝かして、仲間のところへ戻ってきた。
四人の少年の乗ってきた牛乳配達車が、この本館のある部屋にちゃんとしまってあるのを見つけたというのである。
「本当かい。
それはいいものを見つけたね。
すぐ行ってみよう」
「すっかりそのことは忘れていたね」
四人の少年は、にわかに元気づいて、ネッドを案内に先立たせ、その部屋に行ってみた。
そこは地階七階にある倉庫の一つであった。
彼らの自動車のほかにも、乗用車やトラックが入れてあった。
少年たちはその方にはちょっと目をやっただけで、あとは懐かしい箱車の上によじのぼり、まだ瓶詰などがたくさん残っている箱車の中に入ったりした。
こうして自分たちのボロ車のところで遊んでいると、不思議と退屈しなかった。
それで一日のうち何時間はここで遊ぶことに相談がまとまった。
ただしそれを看護婦なんかに言うと叱られるかもしれないので、ここで遊ぶことは内緒にしておくことに決めた。
そういうことが、また次の大事件に関係する原因になるとは露知らぬ四少年だった。
地階の窓
地下七階にあるこの倉庫に四人の少年が集まると、必ず自分たちの身上がこれからどうなるのか、またこの巨塔は何だろうかということについて論じ合うのが例であった。
その謎は深い。
毎日のように論じ合っても、その謎は解けなかった。
山木が張をからかって言った。
「こうなったら、牛頭大仙人の予言をつつしんで承るより方法がないよ。
おい牛頭の仙ちゃん、一つ水晶の珠で占っておくれよ」
「だめ、だめ。
僕に占いなんかできやしないよ」
牛頭大仙人で村人を黒山のように集めたときの元気はどこへやら、張少年は赤くはにかんで隅っこへうずくまる。
「だめなことはないよ。
じゃあ僕が水晶の珠を持ってくるから、君は占いたまえ」
ネッドが立ち上がって、傍らにほこりだらけになっている牛乳配達車の箱の中へ入っていった。
「だめ、だめ。
本当は、僕は占いなんかできやしないんだ」
「ふふふふ、張君が本当のことを白状したぞ。
占いや予言なんて、あれはでたらめに決まっているさ。
僕は前から知っていた」
と、小さい技師の河合が言った。
「そうもいえないよ」と山木が反対した。
「占いは、一種の魂の働きなんだ。
だから魂を小さいピンポンの球のように固めることができる人は占いができる人だとさ。
張君は、それができるんだろう」
「そういわれると、僕にも思いあたることがあるよ、時によると、僕の魂はピンポンの球ぐらいに固まることがあるよ」
と、張が、真面目な顔つきで膝を乗り出した。
「そうだろう。
そういうときに占いをすればちゃんと当たるのさ。
そうそう、そのことを精神統一というんだ」
「うそだ、当たるもんか」
と、河合はあくまで反対だ。
「そんなら、当たるかどうか、ここでやってみればいい、さあ水晶の珠を持ってきたよ」
ネッドは、水晶の珠を張の前へ置いた。
「いったい何を占うんだい」
「これから僕たちはどうなるか、それを占ってみな」
「よし、やってみるぞ」
張は水晶の珠の前にあぐらをかき、それから両手を珠の方へぐっと伸ばし、目をつぶった。
そうしたままで、張はしばらく眉の間にしわをこしらえ、難しい顔をしていたが、やがて目を大きく開いて水晶の珠を穴のあくほど見つめた。
その大げさな表情を見ていた河合は、ぷっと吹き出して笑いかけたが、山木がそれを見て河合の口を手でふたをした。
「静かに……」
そのとき張が、変な声を出してしゃべりだした。
「……ああら、大変。
僕たち四人の胸に大きな勲章がぶら下がっているよ……」
「でたらめ、いってらあ」
河合が山木の手の下から叫んだ。
「静かにしないか、こいつ……」
山木が河合の口をぎゅうとおさえた。
すると、張は、
「おやおやおや、景色が一変した。
僕たち四人は、牛の背中にのって、ニューヨーク市のブロードウェイを通っているぞ」
「牛の背中にのって……」
ネッドが目を丸くした。「……紙吹雪(かみふぶき)が大雪みたいにわんさか降ってくるぞ。
五色のテープが僕たちの頭の上をひらひらと飛んでいく。
すっごい大歓迎じゃないか!」
「うそだよ、そんなの!
僕たち四人がそんなすごい目にあうわけないじゃないか。
だって僕たち、お小遣いをせっせと貯めて、やっとの思いで自動車旅行をしている身分なんだからね」
河合が山木の手を払いのけながらそう言うと、山木も、
「ふうん、なんだかおとぎ話みたいで現実味がないなあ」
と、急に疑い深くなった様子で首をかしげました。
そのときでした。
どこかでベルがけたたましく鳴り響き出したのです。
それと同時に、人々のわめき声や、バタバタとあわただしい足音が廊下を走り抜けていきました。
「いったい何だろう、あれは……」
「火事なんじゃないか?」
「いや、火事じゃないだろ。
映画の試写会でも始まるんじゃないか?」
「よし、張くんに占ってもらおうぜ!
さあ張くん、占ってくれ!
あのベルの音は、いったい何が起きたっていうんだ?」
「うわあ、困ったなあ……」
「いいから早く、早く!」
ネッドが水晶の玉を張のほうへぐいっと押しつけます。
「まあ待てよ、もっと落ち着かなくちゃ……」
「そんなこと言ってる場合か、廊下に出て誰かに聞いてこなきゃダメだ!」
河合が立ち上がり、扉を開けようとしたその瞬間でした。
ドスッというものすごい大きな音がしたかと思うと、部屋ごと今にも崩れ落ちそうなほどの激しい揺れが襲ってきたのです。
河合は扉のノブをつかんだまま床へ押しつけられ、ほかの三人の少年たちも、ペチャンコのクモのように床へへたばってしまいました。
そして次の瞬間、部屋全体がキリキリキリとコマのように激しく回り出したのです!
室内に置いてあった自動車同士がものすごい勢いでぶつかり合い、ドラム缶はひっくり返り、中からオイルがドロドロと流れ出しました。
空き缶があっちへガラガラ、こっちへゴロゴロと転がり回り、少年たちはその下敷きにならないように必死で逃げ回るなど、それはもう大変な大騒ぎとなりました。
けれど、その大騒ぎも二分ほどでおさまり、あたりはしだいに静かになりました。
ただ、床がずっと細かい震えを続けていることと、天井から下がっている紐がゆらゆらと揺れていること、そしてときどき床がグイッと持ち上げられるような感覚がすること――それだけが、いつものこの部屋とは違っていました。
それにしても、さっきのあの音と揺れは、いったい何だったのでしょうか。
そのとき、河合がようやく扉を開けることに成功しました。
彼は真っ先に廊下へとび出しました。
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