初級翻訳・火星探険 第12話

海野 十三

それに続いて、ほかの三人の少年たちも次々ととび出します。
しかし、廊下には人影もなければ、話し声もしません。
ひっそりと静まり返っているのに、何だかまわりの様子がすごく変なのです。
「おや、こんなところに窓なんてあったっけ?
さっきまで窓なんかなかったのに……」
河合がそう言いながら、そのふしぎな窓のところまで歩いていって、恐る恐る外をのぞき込みました。
「うわっ、大変だ!
みんな、早くこっちへ来てくれ……!」
河合は、喉が張り裂けそうなほどの大きな声で仲間を呼びました。
普段はとても冷静な彼が、いったい何に驚いたというのでしょうか。
突然そこに現れた窓を通して、彼は外にいったい何を見たのでしょうか。

空飛ぶ塔

窓ガラスに四人の少年がそれぞれの顔をピタッと押しつけて、顔面蒼白になりながら、言葉も出せずにブルブルと震えていました。
八つの目は、はるか下方のほうへと向けられています。
その下には、息をのむほど美しいコロラド大峡谷の全景が広がっていました。
ふしぎです。自分たちは夢を見ているのでしょうか?
地下七階にある倉庫の窓から、コロラド大峡谷の全景なんて見下ろせるはずがありません。
それなのに、目の前にはまぎれもない事実としてそれが広がっているのです。
絵でもありません。
映画でもありません。
テレビジョンでもありません。
本物の実景が見えているのです。
その証拠に、小さな村が見えます。
白い煙をモクモクと吐きながら走っている列車も見えます。
おお、四発の大型旅客機さえ見えるではありませんか!
その飛行機は、窓のすぐ目の前を飛んでいます――いや、今まさにすれ違って見えなくなっていきました。
ふしぎでたまりません。
自分たちは今、空を飛んでいるのです!
それはもう間違いありませんでした。
窓の外をじっと見ていると……。
でも、いったいぼくらはいつの間に飛行機になんて乗り換えたのでしょう?
いや、そんなはずはありません。
だってそうだ、現に僕たちはちゃんと廊下に立っているではありませんか、あの本館の廊下の上に……!
それなのに、窓の外を見ると、どう考えても僕たちは今、飛行機の中にいるとしか思えないのです。
大峡谷の景色は、さっきの地上から見ていたときに比べると、すっかり小さくなっていました。
その代わり、はるか遠方までの広い風景が、ひと目で一望できるようになっていたのです。
ふしぎで仕方がありませんが、さっきよりももう相当に高度が高くなっているようです。
「おい、これはいったいどういうことなんだろう?」
「どうなっているんだろね……」
「僕たち、頭がおかしくなっちゃったのかな」
「僕たち四人そろって同時に気がおかしくなるなんてこと、あるかよ?」
「変だ、変だ、どうしても変だよ!」
「変どころの騒ぎじゃないぞ!
僕たちは、空中にほうり出されたんだ!」
そうきっぱりと言い切ったのは、河合少年でした。
さすがの彼も、この大パニックの中からしっかりと一つの結論を導き出すだけの冷静さを持っていたのです。
「空へほうり出されたって……?」
山木も、張も、ネッドも、同時にそう叫びました。
「ほら、下をごらんよ!
あそこに見えるのは地上だ。
地あがあんなに小さく、遠ざかっていく……!」
「本当だ……!
じゃあ、僕たちはどうやって空へほうり出されたっていうんだ?」
山木は早口で、河合に詰め寄るのでした。「さあ、わからないね、それは……」
「建物ごと空へ放り上げられるなんて変じゃないか! 飛行機は空を飛ぶけれど、家が空を飛ぶなんて話、聞いたことがないぞ」
「噴火なんじゃないかしら……」
ネッドが、ぶるぶる唇をふるわせながら言いました。
「噴火? 噴火して、どうしたっていうんだよ」
「この塔の下に火山脈があってさ、それが急に噴火したんだよ。だから、この塔が空へドーンと放り上げられたんだよ」
「そうかもしれないね……。とにかく大変だ! もしそれが本当なら、僕たちはもうすぐ、ものすごい勢いで地上めがけてまっ逆様に落ちていくぞ。そして大地に激しく叩きつけられて、紙みたいにうすっぺらくなっちゃうんだ。うわあ、そんなの絶対にいやだよ!」
と、のっぽの山木が大騒ぎし始めました。
「僕だっていやだよ!」
とネッドも叫びます。
「人間が紙みたいにうすっぺらくなっちゃったら、トウモロコシやリンゴやクルミみたいに、立体でできているおいしい食べ物が、もう食べられなくなっちゃうよ!」
「それどころか、僕たちは地上に叩きつけられた瞬間に、きゅーっ……て息絶えて、死んじゃうんだぞ!」
「死ぬのか……? 本当だ、死んじゃうんだな……。ちぇっ、張の占いなんか、全然当たらないじゃないか! さっき君は、僕たち四人が立派な勲章を胸にぶらさげて、牛に乗ってブロードウェイを行進するんだとか、紙の花輪やテープが空から降ってくるんだとか言っていたのに、これからこんなふうに地面に墜落して死んじゃったら、そんな楽しいことには一切お目にかかれないじゃないか!」
「だから、僕の占いなんて当たらないって、最初から言っておいたじゃないか……」
「あーあ、どうしよう、困ったなあ……」
さっきから河合ひとりだけは黙り込んで、しきりに下界の様子や、どこからともなく響いてくる機械的な音に耳をすませていましたが、このとき、突然大きな声をあげました。
「そうだ! 絶対にそれにちがいない!」
他の三人の少年たちは、びくっとして驚きました。
「おい、河合くん、どうしたんだよ?」
「わかったぞ! 僕たちは今、ロケットに乗っているんだ! ロケットに乗って、空中旅行をしているんだよ!」
「ロケットに乗ってって……? でも、そんなのおかしいよ! 僕たちはいつの間にロケットになんて乗り換えた覚えはないぞ。だってここは、あの本館の建物の中なんだからねえ」
「うん、ここは本館さ、あの傾斜した巨大な塔だよ。それが今、こうして空を飛んでいるんだよ!」
「そ、そんなバカなことが……!」
「いや、絶対にそれにちがいないんだ! あの巨塔は、実はロケットだったのさ。半分は地中に隠れていたけれど、それが今こうして、空中へと飛び立ったんだよ。だから、普段なら地下にあるはずの地階の窓から、外の景色が見えるようになったわけさ!」
河合は、思い切った大胆な推理を披露しました。
「へえっ、僕たちの住んでいたあのビルが、実はロケットだったっていうのかい? それは全然気がつかなかったなあ……」
みんなはただただあきれ返るばかりでした。

意外な離陸

河合の大胆な推理は、だいたいにおいてその通り的中していました。
それは、あれから一時間ほどしてからのことです。四人の少年たちは廊下でビル・マートン青年にめぐりあい、そこで初めて、この思いがけない真相を聞くことができたのです。
そのマートン青年――いや、マートン技師が、油まみれになった体を二階の廊下のベンチの上にぐったりと横たえている、そのすぐそばを四人の少年たちが通りかかったときのことでした。
少年たちに声をかけられ、マートンはつらそうに上半身を起こしました。彼はものすごく疲れ切っていたのです。

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