ただ、以前にトウィールを捕まえようとした、あのヒモのような腕を持つ黒い化け物は別格だったけど。
いまのところ現れる気配はみじんもないけれど、あいつらは獲物が自分から近づいてくるのをじっと待ち構えているらしいんだ。
ぼくが眠っているあいだに襲われなかったのは、もしかするとトウィールが一晩中一睡もせず、じっと辛抱強くそばに座っていてくれたおかげだったのかもしれないな。
あいつらがどうやってトウィールを罠にはめたのか、とても不思議だったけれど、それをトウィールに尋ねる手段はなかった。
まあ、それもあとになってからよーく分かったんだけどさ。
とにかく、ぼくたちはザンサス崖のふもとを歩きながら、登りやすそうな場所を探してまわった。
少なくとも、ぼくにとって登りやすい場所をね。
トウィールなら、あんなのひとっ飛びで簡単に飛び越せただろうさ。スーリ崖よりもずっと低かったんだから。
おそらく十八フィートくらいだったかな。
手頃な場所を見つけて、ぼくたちは登り始めた。
背中にしっかりと縛りつけた水タンクの重さを呪ったけれど、崖をよじ登っているとき以外は、そんなに苦にならなかったよ。
そのとき、突然音が聞こえたんだ。
どこかで聞き覚えのある音だった。
みんなも知ってのとおり、こんなに空気の薄い場所では、音がどれほどあてにならないものか……」銃声はコルクがポンとはじけるような音だ。
しかしこの音はロケットの轟音だ。
間違いない、わが第2予備機が、十六※西方、俺と夕日の間を通過した。
「それが私であります。
君を探しに来たのであります」
とプッツが叫んだ。
「ああ、知っていた。
だが、何かよくなったか。
壁につかまって、大声で叫んで片手を振った。
トウィールもそれを見て、クワッ、クワッと鳴いて、壁のてっぺんに飛び上がり空中高く飛んだ。
見ると、機体はグウォーンといいながら南の物陰へ消えて行った。
俺も崖のてっぺんへ駆け上った。
トウィールは、なお興奮して鳴きながら、空高く上がって頭を下に突進して、くちばしを砂上に突き立てた。
俺は南と自分を指差した。
トウィールがイエス、イエス、イエスと言った。
俺は思ったね、やつは飛行物体を俺の身内、たぶん親だと考えた。
やつの知性を間違ったかも。
今そう思う。
発見されず、がっくりきた。
俺は温調袋を引っ張り出して、中に潜り込んだ。
もう夜の冷気が降りた。
トウィールはくちばしを砂に突き立て、足と腕を引っ込め、あたかも枯れ木のようになった。
一晩中こうやっているのだろう」
「保護擬態です。
でしょう? 砂漠の生き物です」
とリロイが口をはさんだ。
ジャービスは続けた。
「朝になって、再び出発した。
ザンサス砂漠を百※も進まないうちに、何か変なものに出くわした。
プッツが写真に撮ってないことを請け合うぜ。
小さなピラミッドの行列が現れた。
高さ十五※以下の建物がザンサスの向うまで続いていた。
小さな建造物はレンガで出来ており、中は空っぽ、先端は無いか、少なくとも壊れており、空洞だった。
指差してトウィールに何だと聞いたが、否定的な鳴き声しか返ってこないので、たぶん知らないのだろう。
それで俺達はピラミッドの行列に沿って進んだ。
ピラミッドも北へ伸びていたし、我々も北へ行くところだった。
いやあ、何時間もあとをつけた。
しばらくして、また奇妙なことに気づいた。
だんだん大きくなっている。
どれもレンガの数は同じだが、だんだん大きくなっている。
昼頃になると、肩の高さまで大きくなった。
いくつか調べたがすべて同じ、天井が壊れ、空っぽだ。
同じようにレンガを1つ2つ調べたところ、珪素だ、しかも天地創造ぐらい古い」
「どうしてわかりますか」
とリロイが訊いた。
「風化して角が丸くなっているからだ。
地球では、珪素は容易に風化しない、ましてやこの気候では」
「どれくらい古いと思いますか」
「五万年~十万年。
言えるか。
朝見た小さいのはもっと、おそらく何十倍も古い。
ぼろぼろだった。
そうなるにはどれほど古いか。
五十万年か? 誰が知るか」
ジャービスがしばらく間を置いて続けた。
「で、行列をたどった。
トウィールはこれを差してロックと1~2回言ったが、すでに以前何度も言った。
まあ、大体これについては正しい。
やつに聞いてみた。
ピラミッドを指差して、人間か? と言って俺達|2人を指した。
やつは否定的なそぶりを見せて、ノ、ノ、ノ、1・1・2。
ノー、2・2・4と言いながら、胃をさすった。
俺はただ見つめるばかり。
やつはまた同じ事をした。
ノー、1・1・2。
ノー、2・2・4。
俺は唖然と見とれた」
「それでわかったぞ。
やつはあほだ」
とハリソン隊長が叫んだ。
ジャービスが冷ややかに尋ねた。
「そう思いますか。
私は違ってると思います。
ノー、1・1・2は、隊長には分からんでしょうね」
「分からん。
君もだろ」
「私は分かります。
トウィールは数少ない英単語を使って、かなり込み入った考えを伝えた。
聞きますが、隊長は算数というと何を考えますか」
「そうだな、天文学か、論理学だな」
「それですよ。
ノー、1・1・2と、トウィールが私に言ったのは、ピラミッド建造者は人間じゃない、即ち知性のない非論理生物だということです。
わかった?」
「ほう、これは驚いた」
「そうでしょう」
「なぜ、腹をこするのですか」
とリロイが口をはさんだ。
「なぜって、それはだね、生物学者さんよ、脳が腹にあるからだよ。
脳はちっちゃな頭の中になくて、腰にあるんだ」
「シ・パシーブラ、あり得ないです」
「火星じゃなければそうだろう。
ここの植物群、動物群は地球的でない。
例の生物塊が証明している」
ジャービスが、にやりと笑って話を続けた。
「とにかく俺達はザンサスをのろのろ進んだ。
午後の中頃、何か奇妙なことが起こった。
ピラミッドが終わった」
「終わりましたか」
「そう。
最後が奇妙だった。
今や3※、蓋がある。
分かるか。
誰が造っているにせよ、いま中にいる。
俺達は五十万年前の昔から、現在まで辿ってきた。トウィールと俺は同時にハッと気がついた。
俺は自分の自動拳銃をぐいと引き抜いた。
中に1発のボランド弾がはいっている。
トウィールは手品のように、自分の袋から奇妙で小型のガラス拳銃をパチンと取り出した。
俺のと同じような武器だったが、例外的に握りのところが太くて、4本の鉤爪に合うようになっている。
俺達はいつでも撃てるように構えながら、そっと空ピラミッドに忍び寄って行った。
最初にトウィールが変化に気づいた。
レンガの最上段が持ち上がり、揺れて、突然ドスンと側面を滑り落ちた。
すると、何か、何かが出てきた。
長い銀灰色の腕が現われ、鎧を着けた体を引きずり出した。
鎧は鱗で、銀灰色、にぶく光っている。
怪獣は腕で穴から体を持ち上げ、砂の上にドスンと落ちた。
得体のしれない生物だ。
体は大きな灰色の樽のよう、片方に腕と口の穴があり、他方に硬い尖った尾がある、これだけだ。
足、目、耳、鼻はない、何も。
怪獣は体を数※引きずって、尖った尾を砂に差し、体を垂直に上げて、そのまま止まった。
初級翻訳・火星旅行 第5話
奥 増夫
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