横町にはいると、ゾウはいくらか気がしずまったらしく、かける速度がにぶくなってきました。
しかし、まだのそのそではありません。
タッタッタッと、いきおいよく進んでいきます。
そのとき、ゾウのゆくてに、さきまわりをした二台の消防車が、横にならんで、とうせんぼうをしていました。
そんなにひろい町ではありませんから、二台の消防車が横にならぶと、まったくすきがなくなってしまうのです。
いくらゾウでも、あの大きな消防車を、とびこすことはできません。
しかたがないので、ゾウはそこで立ちどまり、クルッとむきをかえて、うしろへひっかえそうとしました。
ところが、うしろをむくと、すぐそこに、べつの消防車が二台横にならんで、とおせんぼうをしていました。
そこにも自動車のかべができていたのです。
ゾウはめんくらって、また立ちどまり、もういちど、むきをかえて歩きだしましたが、五十メートルもいくと、さっきの自動車のかべです。
そこでまたむきをかえる。
そうして、ゾウは消防車と消防車のあいだを行ったりきたり、おなじところを、グルグルまわるほかはなくなったのです。
それよりすこしまえ、上野動物園のゾウつかいの名人が自動車でかけつけて、消防車のうしろに待ちかまえていました。
またどこかへあそびに出かけていたサーカスのゾウつかいも、ラジオを聞いて、おどろいてかけつけました。
消防車で前後をふさがれ、グルグルまわっているうちに、だんだん気がしずまっているところへ、ゾウつかいがふたりもきたのですから、もうだいじょうぶです。
ゾウは、なんなくゾウつかいに、つかまえられ、水や、えさをあてがわれて、すっかりおとなしくなってしまいました。
それから、ふたりのゾウつかいは、なるべくしずかな町を通って、ゾウをサーカスまで、つれもどすことができました。
こうして、あれほどのゾウのさわぎも、ひとりのけが人も出さないで、ことなく、おさまったのでした。
さて、ゾウはもどりましたが、ゆくえしれずになった三人の人間がのこっています。
明智探偵は、あの大男と一寸法師は、サーカスのテントの中に、宝冠の少女は、神社の森の中に、ふしぎな魔術をつかって、かくれているというのですが、かれらは、いったい、どのようなかくれかたをしたのでしょうか。
明智は助手の小林少年に、ひとつの命令をあたえました。
小林君は、明智先生にたいしては助手ですが、少年探偵団にたいしては、指揮権をもつ団長です。
そこで、二十人の少年団員を指揮して、明智先生にかわって、三人の悪人がす捜すことになるのです。
おばけ玉
そこで、小林団長は二十人の団員を十人ずつふたくみにわけ、ひとくみの十人には、八幡神社の森の中を見はらせることにしました。
宝冠の少女が、森のどこかにかくれていて、こっそり逃げだすといけないからです。
のこる十人を、また五人ずつ、ふたくみにわけました。
そして、ひとくみの五人には、サーカスの大テントの前に、いろいろな動物がならべてある中の、クマのおりの見はりを命じました。
その鉄棒のはまったおりの中には、曲芸をする大きなクマがはいっているのです。
なぜ、クマのおりを見はらせたか、そのわけは、やがてわかります。
小林団長と園井少年は、さいごの五人のひとくみの中にのこりました。
そして、大テントの曲芸場から、がくやへ出入りするカーテンのところへ集まりました。小林君はさきに立って、大きなカーテンをまくり、がくやの通路へはいっていきました。
通路の両がわには、曲芸に使ういろいろな道具がおいてあります。
その中に、「玉のり」の大きな玉が五つころがっていました。
土でできた重い玉で、白と赤のだんだらぞめになっています。
その上に曲芸師の少女がのって、足でクルクルまわしながら歩きまわる、あの玉です。
「おや、ひとつだけ、でっかい玉があるね。
巨人の玉だね。
」
ひとりの少年が、五つの玉の中の、ひとつをゆびさしていいました。
それだけが、直径八十センチもある、大きな玉なのです。
「これは、きっと、女の子じゃなくて、おとながのるんだよ。
あの大男の道化師が、のるのかもしれないね。
」
べつの少年がいいました。
みんなが「灰色の巨人」のことを、考えているものですから、「巨人」とか「大男」とかいうことばが、つい口にでるのです。
小林団長は、そのとき、くちびるにゆびをあてて、みんなにだまるように、あいずをしました。
そして、その大きな玉のそばへ近よると、両手で玉を動かしながら、なにかしらべようとしました。
すると、ふしぎなことがおこったのです。
小林君が、ちょっと動かした玉が、そのまま止まらないでゴロゴロころがりはじめました。
まるで、いきもののように、ひとりで、むこうのほうへ、ころがっていくのです。
少年たちは、それを見ると、びっくりして、立ちすくんでしまいました。
そこは、べつに、坂になっているわけではありません。
ひとりでころがるどうりがないのです。
しかも、玉のころがる速度が、だんだん早くなっていくではありませんか。
おばけ玉です。
少年たちは、「ワーッ。
」といって、逃げだしそうになりました。
しかし、小林団長だけは逃げるどころか、そのおばけ玉を、追っかけて走りだしました。
「おい、みんな、追っかけるんだ。
あの玉を、追っかけるんだ。
」
団長の命令とあっては、逃げるわけにもいきません。
少年たちは、団長のあとについて、おばけ玉のあとを追いました。
玉は、カーテンの外の、曲芸場の砂場へ出て、そのまん中にある、大きなまるい板ばりのぶたいへ、ころがっていきました。
この板ばりの上で、いつも「玉のり」が、えんじられるのです。
白と赤のだんだらぞめの大きな土の玉は、まるで、目に見えぬ人間がその上にのってでもいるように、右に左に、ゴロゴロ、ゴロゴロ、板ばりの上をころげまわりました。
少年たちは、このふしぎなおにごっこに、だんだん元気づいて、いまは、「ワーッ。
ワーッ。
」と、ときの声をあげながら、おばけ玉を追っかけまわすのです。
ほんとうに、おにごっこでした。
玉は、逃げよう、逃げようとする。
少年たちは、逃がすまいと、さきまわりをして、とおせんぼうをする。
そして、とうとう、おばけ玉は、少年たちに、四方から取りかこまれ、おさえつけられて、もう動けなくなってしまいました。
すると、そのとき、じつに、とほうもないことが、おこったのです。
少年たちは、「ワーッ。
」とさけんで、玉のそばから、とびのきました。
ごらんなさい! 土の玉が、まっぷたつに、われたのです。
そして、モモの中から桃太郎がとびだすように、その玉の中から、へんなやつがとびだしてきたのです。
でっかい頭に赤白の運動帽をかぶり、赤いジャンパーに、はでなしまズボン、顔はおとなで、からだは子どもみたいなやつです。
「あっ、一寸法師だっ。
」
それは、宝冠をぬすみ出した一寸法師でした。
土の玉の中が、くりぬいてあって、そこが一寸法師のかくればになっていたのです。
玉が、ひとりでころがったわけも、これでわかりました。
小林団長が、ポケットから、よびこの笛を出して、ピリピリリッ……と、ふきならしました。
コメント