山本 周五郎

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へちまの木

初級翻訳・へちまの木 第5話

「この家じゃあ、まともなものなんて食べさせてくれないのさ」と木内が教えてくれた。「一年じゅう麦めしに漬物だけ、十五日と大晦日だけは味噌汁が一杯出るけれど、そのときは汁の中の具を皿に取ったのがおかずになるだけで、ほかには漬物すら食わせてくれな...
へちまの木

初級翻訳・へちまの木 第4話

「ここは一体どこだ!? お前は誰なんだ!?」女は房二郎にしがみつき、その胸に顔をすり寄せながら、小さな声でこうささやいた。「お願い、そのまま寝てちょうだい……。あたし、すぐに向こうへ行くから……」そう付け加えると、彼はまたそのまま眠り込んで...
へちまの木

初級翻訳・へちまの木 第3話

「前の亭主が米相場をやっていて、死ぬ間際に大儲けしたらしい。その金を狙って、あのちょび髭の男が取り入ってものにし、この文華堂を始めたんだそうだ」房二郎は言った。「世の中、物好きな人間もいるもんだな」「しっ、聞こえるぜ」と木内が制した。いま風...
へちまの木

初級翻訳・へちまの木 第2話

この『沢茂』って店もうまい物を食わせると聞いたから、それでためしに寄ってみたんだ」「まことに相済みません」と主人は続けざまに頭を下げ、後頭部を掻いた。「こんなしくじりは初めてでして、いつもはお客さまによろこんでいただいているんですが」「もう...
へちまの木

初級翻訳・へちまの木 第1話

一 房二郎が腰を下ろしたとき、すぐ斜め向こうにいた男は、アジの塩焼きを食べながらお酒を飲んでいた。 房二郎はお酒を注文し、おつまみはいらないと言った。 ほっぺたを膨らませたような顔の店員(小女)は、バカにしたような声で、お酒一本、おつまみは...
ちいさこべ

初級翻訳・ちいさこべ 第13話

「あの人だって、棟梁が好きなのよ」「おい、よく聞け」と茂次はまた言いました。「俺はおゆうさんが好きだ。けれども、女房にするということと、好きだということは別だ。それとも……ああ、面倒くせえ」彼はじれったそうに立ち上がると、布団の上へ行って仰...
ちいさこべ

初級翻訳・ちいさこべ 第12話

以前、茂次に言われたことがあったので、彼には何も告げていませんでしたが、少し前から時折そんなことがあったのです。おりつが寝床に入ってしばらくすると、誰かがそっと廊下を忍んで来て、障子の外から中の様子をうかがっているらしいのです。すぐにまた忍...
ちいさこべ

初級翻訳・ちいさこべ 第11話

それとも忘れているんなら、おれが思い出させてやってもいいぜ。どうだ、そんなことは一度もなかったか」徳二郎はむっとしてやり返した。「それとこれとは話が違うだろう」「たしかに違う」と茂次がうなずいた。「おれたちには親もあり家もあった。だから一度...
ちいさこべ

初級翻訳・ちいさこべ 第10話

それじゃあ、お父さんやおっ母さんに対してあまりにひどいじゃないの」おりつはまた前掛けで顔を覆い、肩を震わせて泣きじゃくりました。茂次は頭を垂れ、しばらくおりつのすすり泣く声を聞いていました。「これだけは黙っているつもりだったが、言っちまおう...
ちいさこべ

初級翻訳・ちいさこべ 第9話

高輪やあべ川町に肩代わりしてもらい、まずひと落ち着きしてからのことにしただろう。けれども――留守のお前たちは、大留を立て直す一心で請け負った。その気持ちがわかるから、無理だとは思ったが何も言わなかったんだ」三人は頭を垂れました。「これこれの...
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