山本 周五郎

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山本 周五郎

初級翻訳・竜と虎 第2話

でも、本当はお頼りにしているのですけれど」幸枝は慎ましく言いながら、至を見上げた。少しも憂いのない、初夏の空のような明るい瞳だった。しかもその明るい瞳の奥には、かなり以前から至にだけ訴えかけていた淡い感情が、ためらいがちに動き始めていた。「...
山本 周五郎

初級翻訳・竜と虎 第1話

一「気が合わない」というのは、本当に不思議なものだ。西郡至(にしごおり いたる)は、学問も優秀で、岡崎藩の中でも剣術の腕前は指折りだった。家柄も三百石の書院番という立派なもので、見た目も人目を引くし、人付き合いが悪いわけでもない。それどころ...
山本 周五郎

初級翻訳・石ころ 第6話

「あなた……あなたは本当にかっこいい人です」そうつぶやきながら、松尾はこらえきれず、おいおいと声を上げて泣きました。やがて夫が戦から無事に帰ってきたら、そこにはまた新しい石が一つ増えることでしょう。人には見えなくても、数えきれないほどの素晴...
山本 周五郎

初級翻訳・石ころ 第5話

「これがおれのたのしみでね」六「これがおれのたのしみでね、そう言ったときの目の輝きは、本当に穏やかなものでした。つい半時間前まで、戦場の埃(ほこり)を浴びて馬を走らせていた人間だとはとても信じられないほど、のんびりとしていて、どこかぼんやり...
山本 周五郎

初級翻訳・石ころ 第4話

……この急報を受けて、徳川氏もすぐに兵馬を発進させました。けれども物見(ものみ)の報告によると、武田軍の陣形や配置は非常に堅固でした。徳川家康は早くも勝頼の真意を察知して、むやみに前へ進まず、織田信長へ使者を送って援軍を求めました。家康がこ...
山本 周五郎

初級翻訳・石ころ 第3話

多田家は美濃の国から出て武田氏に仕えた家系であり、秋山家は武田家の代々の重臣でしたから、縁談はなんの障害もなくスムーズにまとまりました。そしてその月のうちに、新蔵は新しく屋敷をもらい、そこで盛大な結婚式が挙げられました。……いろいろと風評の...
山本 周五郎

初級翻訳・石ころ 第2話

かえって、余計なうわさの種をまいてしまったかもしれないのに」そう思うだけでも、胸が張り裂けそうにつらかった。そして、その心配はやはり現実のものとなってしまったのだ。何事もないまま半月ほどが過ぎ、毎朝の野原にまっ白い霜がおりるような寒い季節と...
山本 周五郎

初級翻訳・石ころ 第1話

一「ああ、高坂の権之丞さまがお通りなさるわ。また裏打の大きな家紋のついた大口(袴)を召していらっしゃる。あの方のは大紋がうつしてあって、いつもお洒落にお作りになっているけれど、お肌が白くてほっそりしていらっしゃるから、よけいに華奢(きゃしゃ...
山本 周五郎

初級翻訳・水中の怪人 第4話

……それは、現在のような不活発な動きしかできない潜水服ではダメです。魚のように素早く、自由自在に海中を泳ぎ回れるものでなくてはなりません。――僕は苦心しました。そして、まずはリュベッカーの空気補給法を取り入れ、それに魚類の体型を組み合わせる...
山本 周五郎

初級翻訳・水中の怪人 第3話

雑貨店へ現れたとき、宙を掻くような奇怪な身振りをしたと言われていますが、これは店員に強い印象を与えるための仕草に違いありません。彼はこうして三度とも、ただ人の目を驚かせるため、また「河童」という噂を広めるために現れたのです。――そしてその評...
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