ちょうどそのとき通りかかったみつこさんは、このようすを見て自分もうみぼうずがにくらしくなり、何か言ってやりたかったのですが、やっぱり気が引けてしまい、そのまま家へ帰って急いでこのことをきみこさんに知らせました。
「それは大変だわ!」
と、きみこさんは子いぬのことを心配しました。
学校がお休みだったので、たけちゃんとさんちゃんを呼びに行くと、ふたりはすぐにやって来ました。
そして、どうしたらいいかみんなで相談しました。
「うんこをしたぐらいで犬を殺そうなんて、本当にめちゃくちゃな乱暴だよ!」
と、たけちゃんはおこりました。
「まだ小さくてかわいい犬で、何も知らないのよ。とても川なんか泳げそうもないわ。きっと流されてしまうと思うから、早く行って助けてあげましょうよ!」
と、みつこさんはみんなを急かしました。
「そのとき、みつこさんが止めればよかったのに」
と、きみこさんが言いました。
「だって、うみぼうずは強そうだったんだもん。わたし、そんな勇気がなかったわ」
「いくら強くても、そんなむちゃな乱暴をするのを黙って見ていられないよ!」
と、さんちゃんが言いました。
「そうだ、ぼくとさんちゃんなら、うみぼうずをやっつけられるよね!」
と、たけちゃんはさんちゃんに賛成しました。
「ううん、けんかをしてはダメよ!それより早く行って止めましょう!」
と、きみこさんが駆け出したので、みんなもいっしょに川の方へ駆け出しました。
川の岸まで来ると、日当たりのいい土手には、一面にみずみずしい緑の草が生えていました。
静かに波を打って水が流れていて、魚がすんでいそうな雰囲気でした。
すると、あちらから釣りざおとバケツを持った子どもが歩いてきました。
「ねえきみ、犬を連れた子どもを見なかったかい?」
と、さんちゃんが聞きました。
その子は今歩いてきた道を振り返りながら、
「さっき、あっちの橋のところで見たよ」
と答えました。
「ありがとう!」
みんなは、すみれやたんぽぽの咲いている土の上を走りました。
十一
橋のところまで来ると、田んぼの細道を歩いていくふたりの子どもの後ろ姿が見えました。
「あそこへ行くのはうみぼうずじゃないか。犬を連れていないから、きっと川へ投げたんだ!」
と、さんちゃんが言いました。
ふたりの姿はだんだん小さくかすんでしまいました。
そのとき、きみこさんが、
「どこかでクンクンって、犬の鳴き声がしない?」
と言って、川の岸を探しました。
「ああ、鳴いている!きっとどこかにいるんだよ!」
と、たけちゃんも土手を降りて、茂みの陰を探しました。
「ここだ!みんな、早く来て!」
と、たけちゃんが叫びました。
白い子いぬが、水際の野バラの下でブルブルとふるえていました。
「助けてやろうよ!」
と、たけちゃんが水際へ降りかけました。
「落ちたら危ないよ!」
と、さんちゃんは言って、たけちゃんのうわぎをしっかりとつかんで押さえていました。
「たけちゃん、だいじょうぶ?」
と、きみこさんは土の上でハラハラと気をもみました。
「今、そこへ抱っこしていくからね!」
たけちゃんは、ぬれてブルブルふるえている犬を抱き上げて土手を上がり、やわらかな草の上に置きました。
「よく流されなかったわね!」
と、みつこさんはハンカチを取り出して犬を拭こうとかがみこみ、きみこさんもいっしょにぬれた体を拭いてやりました。
「うみぼうずは、きっともう死んだと思っただろうな。でも、助かってよかった!」
と、さんちゃんは喜びました。
そして、みんなが犬を取り囲んで座りました。
赤トンボがのぞき込むように頭の上を飛んでいきました。
「だれか、この犬を飼ってあげない?」
と、きみこさんが言いました。
「ぼくはほしいんだけど、ポチのことでおばあさんがすっかりこりているから、許してくれないだろうなあ……」
と、たけちゃんが言いました。
「どうして?」」
「だって、ほかの家のニワトリやウサギを捕まえちゃって、おばあさんがいつも謝りに行っていたんだもの。やっとお姉ちゃんのお友だちから、ポチをもらったばかりなんだよ。」
」
「わたし、お母さんに聞いてみるわ。みんなも来て、お願いしてくれない?」
と、みつこさんが言いました。
「お願いしてあげるよ。優しいお母さんだから、きっと聞いてくださるさ。」
と、さんちゃんが答えました。
それからみんなでみつこさんの家へ行きましたが、お母さんはすぐに「いいよ」とはおっしゃいませんでした。
「生き物を飼うのは、なかなかお世話が大変なんですよ。」
と言われました。
そのとき、さんちゃんが、
「おばさん、僕たちがどんなことでもシロのお世話をしますよ!」
と言いました。
「あら、もうシロっていう名前まで決まったんですか。」
と、お母さんはニコニコと笑われました。
そして、とうとう飼うのを許してくださいました。
ある朝、シロはみつこさんについて学校へ行きました。
すると校門のところで、うみぼうずと出会いました。
「あっ、この犬はお前のところの犬かい?」
と、うみぼうずはびっくりして聞きました。
みつこさんは不思議と勇気がわいてきて、じっとうみぼうずの顔をにらみつけながら、
「あなたがこの犬を川へ捨てたんでしょう。私たちが助けてあげたのよ!」
と言いました。
どう思ったのか、うみぼうずは顔を真っ赤にして逃げていきました。
十二
とても暑い日でした。
坂の下の金魚屋の店先で、学校帰りのたけちゃんとみつこさんが、アップアップと泳ぐ金魚や鯉を眺めていました。
すると、みつこさんが、
「まあ、うみぼうずだわ。なんだか感心ね。」
と言ったので、たけちゃんもそちらを振り返ると、おじいさんの荷車を押して坂を上っていく子どもの姿がありました。
「ああ、あの子供なら三年生のきゅうちょうだよ。」
と、たけちゃんが言いました。
「だって、犬を川へ捨てた悪い子よ。」
「きっと、あとですごく後悔したんだろうな。」
そう聞いて、みつこさんは、この間顔を真っ赤にして逃げていった姿を思い出しました。
この話をさんちゃんやきみこさんにすると、
「やっぱり海のうみぼうずより、人間のうみぼうずのほうがえらいんだな。」
と、さんちゃんが言いました。
「どうして?」
と、たけちゃんが聞きました。
すると、きみこさんが、
「だってお祈りしても、カミナリ様はなかなか雨を降らせてくれないじゃないの。」
と言いました。
夕焼け空が広がり、明日もまたお天気続きそうでした。
畑のナスやキュウリはしおれ、花壇の花たちはぐったりと頭を垂れていました。
「お願いの仕方が足りないのかもしれないわ。」
と、みつこさんが言いました。
「神様、どうか雨を降らせてくださいまし。」
みんなで空に向かってお祈りしました。
その様子を赤い雲の上からおひめさまがご覧になると、さっそくうみぼうずのところへ行かれました。
そのとき、うみぼうずは大きな岩に腰をかけて、カモメが舞う様子を眺めていました。
「みんながお願いしています。早く雨を降らせてあげてください。」
と、おひめさまはお頼みになりました。
うみぼうずは面倒くさそうに顔を向けると、
「人間が生意気だから、困らせてやるのさ。
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