料理女さんは、気味悪そうに顔をしかめながら、その生きもののハサミをつかんでお皿の上にのせ、食堂へ運んでいく。
大人の人たちが、それを取って食べる。
……生きたまま、目玉も、歯も、足もぜんぶそろったやつを! その生きものは、きゅうきゅうと鳴いて、くちびるにかみつこうともがく。
……
ぼくは、思わず顔をしかめる。
だが……それなのに、なぜぼくの歯は、勝手にもぐもぐとかみ始めるのだろう? 見るからに気味の悪い、おそろしい動物ではないか! それなのに、ぼくは食べたいと思う。
味やにおいのことを考えまいとしながら、がつがつと食べる。
一匹めをペロリと平らげる。
すると、二匹め、三匹めのギラギラ光る目が、目に飛び込んでくる。
……ぼくはそれも食べる。
……しまいには、ナプキンも、お皿も、父さんのオーバーシューズも、あの白い貼り紙も食べる。
……目に入るかぎりのものを、何でも食べる。
――食べさえすれば、ぼくのこの変な病気がおさまるような気がするのだ。
かきは、目をむいてぼくをにらみつけてくる。
見るのさえいやだ。
かきのことを考えると、ぼくはぶるぶる震えてくる。
でも、ぼくは食べたい! 食べずにはいられないんだ!
「かきをおくれよ! ぼくにかきをおくれよお!」という叫びが、胸をついて飛び出る。
ぼくは両手を前へぐっとさしのべる。
「どうぞ、おめぐみを、だんなさま!」ちょうどそのとき、うつろで、のどをしめつけられたような父さんの声が聞こえた。
「お恥ずかしいしだいですが、どうもはや、気力も体力もすっかりつきはてましたんで!」
「かきをおくれよ!」父さんの服のすそを引っっぱりながら、ぼくは叫ぶ。
「ほうほう、おまえがかきを食べるのかい? こんな小さな子どもが!」すぐそばで、笑い声が聞こえた。
ぼくたちの目の前に、山高帽をかぶったふたりの紳士が立って、笑いながらぼくの顔をのぞきこんでいる。
「おい、ちびすけ、おまえがかきを食べるのかね? ほんとうかい? こりゃおもしろい! おまえの食べっぷりを拝見させてもらうかね!」
誰かのがっしりした手が、ぼくを赤々と明かりのともった飲食店の中へと引っ張っていったのを、ぼくは覚えている。
すぐに、大勢の人がぼくのまわりに集まって、おもしろそうに笑いざわめきながら、じっと見守っている。
ぼくは、テーブルにすわって、なんだかすべすべして塩からく、水っぽくてカビくさいものを食べ始める。
自分がいったい何を食べているのか、見ようともせず、知ろうともしないで、ぼくは噛まずにただがつがつと食べる。
もし目を開けようものなら、きっとギラギラ光る目玉や、ハサミや、とがった歯が見えるにちがいない――そんな気がするからだ。
……
ぼくは、ふいに、何かかたいものをガリッとかみしめた。
がりがり、と大きな音がする。
「ははは! この子は、殻まで食べるぜ!」と、まわりのみんなが大笑いした。「ばかめ、そんなものが食えるかい!」
それから、ぼくがおぼえているのは、ものすごく喉がかわいたことだ。
ベッドに横になっていても、胸がムカムカして、口の中が焼けるようにヘンな味がするせいで、どうしても眠ることができない。
お父さんは、部屋を端から端へと歩き回りながら、何度もパタパタと両手をふりまわしている。
「かぜをひいたらしいぞ」と、お父さんはブツブツつぶやく。
「頭がどうもそんな感じだ……まるで、頭の中にだれかがすわっているみたいだ……。ひょっとすると、こいつはわしが……その……きょうなんにも食べなかったせいかもしれん……。じっさい、わしは、なんておかしな、大バカ者なんだろう。あのお金持ちたちが、かきの代金にすごーい十ルーブル札をはらうのを、この目でしっかり見ていながら、なんだってわしは、そばにいって、いくらかでも……ちょっとお金を貸してください――って、頼んでみる気にならなかったんだろう? きっと、貸してくれたはずなのにさ」
朝方近くになって、ぼくはやっとウトウトしはじめ、ハサミを持ったカエルの夢を見た。
カエルは、殻の中にじっとすわって、大きな目玉をギョロギョロと光らせている。
お昼ごろになって、ぼくは喉がカラカラにかわいて目をさました。
目でお父さんをさがすと、お父さんは相変わらず部屋を歩きながら、両手をパタパタとふりまわしていた。
(Устрицы, 1884)
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