初級翻訳・かめれおん日記 第2話

かめれおん日記

疲れることを知らない働き者。
有能な事務処理の達人。
効率的な方法論のプロ。
(本質がどうのこうのなんて、悪魔にでも食わせてしまえ!)とでも言うように、常に勇気満々で、どんなことにも迷わず突き進む男です。
運動会、展覧会、学芸会、学校の雑誌の編集、その他何でも、彼が一人で片付けてしまいます。
彼にとって「抽象的なこと」なんて、意味がないのと同じなのです。

今年のお正月のことでした。どこかのクラスの集まりで、生徒が三、四人、ミカンやせんべいを買い出しに行きました。
学校の前は山の上から降りてくる坂になっているのですが、その坂の途中まで、風呂敷包みをぶら下げた買い出し係の生徒たちが登ってきたとき、一人の持っていた風呂敷がほどけて、中からミカンがこぼれ落ちました。
二つ、三つ、四つ……七つ、八つと、かなり急な坂だったので、鮮やかな色のミカンが次々と転がり出しました。
その生徒は思わぬ失敗にひどく顔を赤らめて、風呂敷を結び直すのが精いっぱいで、転がるミカンを追いかけるどころではありませんでした。
学校以外の人もそこそこ通る道なので、きっと恥ずかしかったのでしょう。
ちょうどその時、坂の上に立っていた吉田さんは、それを見るや否や猛烈な勢いで駆け下り始めました。
小石を蹴飛ばし、砂利で滑りそうになり、つんのめりそうになりながら、途中にいた生徒を突き飛ばして、背の低い彼は背中を丸めてミカンを追いかけました。
一度転びましたがすぐに起き上がり、砂も払わずにまた駆け出し、ついに十五、六個のミカンをすべて拾い上げて、坂の横の溝に落ちるのを防いだのです。
生徒たちも通行人たちも、何が起きたのかと呆気にとられて立ち止まり、彼の猛烈な勢いに見とれてしまいました。
吉田さんはミカンを手に持ち、ポケットにも詰め込んで、「みんなボヤっとして見てるんじゃない!」と生徒たちに小言を言いながら、また登ってきました。
彼の顔が赤くなっていたのは、単に走ったからであって、決して恥ずかしがっていたわけではありません。
その時、私は心から思いました。この男こそ、私の見習うべき模範だと。
この男はいつも、「人間というのは――あるいは生物というのは――こうあるべきだ」と、私に教えてくれるのです。

誰かが彼を「高等小学生みたいな人物だ」と評したことがありました。
小学校の高等科の生徒というのは、中学生のような小生意気さがなく、本当によく働いて、中学生なんかよりずっと役に立つというのです。
影の薄い大学生なんかよりも、元気いっぱいの高等小学生の方がずっと立派だと、私も思います。

話をしながら、吉田さんは上着のポケットから一枚の紙を取り出して私の前に広げました。
私がそれを見せられるのは、今日で二度目です。
それはこの学校の全職員の給料表で(私立学校なので、職員名簿には載っていないものですが)、彼がどこからか聞き出して、丁寧に書き並べたものです。
おまけに、去年のボーナスの推定額まで書き込んであります。
彼はこういう情報を探り出すのが本当にうまく、それを自分でも得意にしています。
自分と関わりのあるすべての人について、彼はまるで探偵のように身辺調査をしているようです。
特に自分が気に食わない相手に対しては、しつこいほど徹底的に調べ上げて、彼らの弱点を探し出すのです。
この給料表の中で、彼よりも不当に給料が多い先生の名前の横には、赤鉛筆で線が引いてあります。
彼はそれを誰彼かまわず見せては、関西弁でグチグチと不平を言うのです。
「割烹のTなんか、女のくせに僕よりたくさんもらってるんや。はじめの交渉の仕方ひとつでどうにでもなるから、決まった基準なんてないんやで。めちゃくちゃや、ほんまに」

この前一度この表を見せられた時も、同じような言葉でTさんという家庭科の先生のことを言っていました。
今見ると、Tさんの名前の上だけは、赤鉛筆に加えて青鉛筆でも濃く何本も線が引かれています。
「それで、あんまりめちゃくちゃやから、僕、校長のところへ文句を言いに行ったんですよ」「とにかくこっちは、それなりに長く勉強してきたんだから、厚かましいと思われるかもしれないけど、『いくらなんでもTさんよりは給料を高くしてくれ』って校長に直談判したんですよ。
そうしたら、なるほど確かにそうだ、ということで、『では、Tさんより3円だけ多くしましょう』と言われてね。
たったの3円ですよ。
たったの。
それでも、今よりはまあマシですけどね」

吉田は、その給料表を広げたまま、続けて職員一人ひとりについて、これまでの経歴や家庭の事情などを話し始めました。
女の先生の中で、誰と誰は「女子高等師範学校を出た」と言って入ってきたけれど、実は臨時教員養成所を出ただけだということ。
国語主任のN先生が、月給を二ヶ月分も前借りしていること。
図画の老先生Hが、絵の具屋や表具屋と生徒との間で、かなりの中抜きをして儲けていること。
英語のS先生が、最近音楽の女の先生とよく一緒に歩いているという噂のこと。
他人の秘密を知っていることが、吉田にとってはたまらなく嬉しいらしく、そんな話しぶりでした。

彼の話によると、彼は今日、主任のN先生と何か口論したそうで、さらには体操の先生とも一戦交えたらしいのです。
これは、先月行われた運動会のプログラムの進行を巡って、吉田と体操の先生たちの間で意見の衝突があり、それがまだこじれているからだそうです。
吉田という男は、事務仕事に追われていないと、胃酸過多の胃が、消化すべきものがない時のように、すぐに他人との間にトラブルを起こしてしまうようです。

一時間ほど彼の話を聞いて、あまりいい気分ではないまま、ハエの詰まったマッチ箱を持って帰りました。
夜、外に出て何気なく東の空を見上げた時、私は思わず「ああっ!」と声を出しました。
葉を落とした榎(えのき)の大木の枝の向こうに、春以来、半年ぶりにオリオン座が昇ってくるのを見つけたからです。
「青い小さなミカンが出始めると、オリオン座の三つ星が見え出すんだよ」と、幼い頃に祖母がよく言っていた言葉が、記憶に蘇りました。
オリオン座の上には、ぎょしゃ座や、赤いアルデバラン、ガラスの器に凍りついた水滴のような「すばる」が、はっきりと姿を見せています。
星はそれだけではありません。
南の空高く、左から同じくらいの距離をおいて並んでいるのは、土星と木星と火星でしょう。
特に木星の白い輝きは、辺りをパッと明るく照らすほどです。
かなり冷え込んではいましたが、風のない静かな夜でした。

三つの惑星を見上げながら、私はゲーテの自伝『詩と真実』の冒頭を思い出していました。
そこには、この詩人が生まれた日の、幸運な星の配置が、自分の偉大さへの自信にあふれた筆致で記されています。
高校の理科三年生の時、第二外国語の教科書としてこの本が使われ、冒頭部分の翻訳を私が担当したので、はっきりと覚えているのです。
急に、教科書に使ったその本の緑色の表紙、金色の文字、初めて手にした時の印刷インクの匂い、ドイツ語の先生の顔や声、当時のクラスメートのことまでが鮮やかに頭に浮かびました。
青春を懐かしむ気持ちに胸を焦がしながら、私は部屋に帰ってきました。

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