そして、ふくろからほつれた糸がちらほら、イバラに引っかかっていました。
ベンジャミンは石がきをのりこえて、むこうの野原へ。
しかけたばかりのモグラわなが、またひとつ見つかりました。
この先にあなぐまトミーがいるのは間違いありません。
日ぐれも近く、夜風をたのしもうとウサギのみんなもだんだんと外に出てきました。
なかでも、青い上着をきたウサギがひとりでいそいそとタンポポをさがしていて――
「いとこのピーター! あなうさピーター、あなうさピーターか!」
と、ばにばにベンジャミンは声をはりあげました。
青い上着のアナウサギは前足をあげて、耳をぴんっと立てます。
「いったい何ごとだよ、ベンジャミン。ネコかい? それとも白イタチのなつあかジョンかい?」
「ちがう、ちがう! あいつが、オレの子どもをみんなくすねたんだ――あなぐまトミーが――ふくろにつめて――見なかったか?」
「あなぐまトミー? ベンジャミン、子どもをみんなって?」
「7ひきだよ、ピーター。ななつごなんだ! あいつ、この先に行ったんだろ? たのむ、早く教えてくれ!」
「き、来たよ。まだ10分もたってない……。中身はイモ虫だって言ってたけどさ。そういえばやけに足がじたばたしてたな、イモ虫にしてはさ」
「どっちだ? どっちに行った? なあ、ピーター!」
「なかに生きものの入ったふくろを持ってて、見てる目の前でモグラのわなをしかけてたな。わかったよベンジャミン、そもそもどういうことなんだい?」
ベンジャミンからかくかくしかじか、事情を説明します。
「なるほど、あの叔父さんも年だから、ついにもの忘れがひどくなっちまったんだな」
ピーターもしみじみと言いました。
「でも、風向きはまだわるくない。足がじたばたしてたってことは、子どもたちは生きてるってことだし、あなぐまトミーもはらごしらえしたばかりだ。たぶん、これからひとねむりするから、まだみんな朝ごはんにはされないはずさ」
「で、どっちなんだよ!」
「ベンジャミン、落ち着いてってば。あいつの行き先なんて、ぼくにはまるわかりさ。きつねめさんが枝ごやにいるなら、あいつはきつねめさんのもう一つのおうち、おうし土手のてっぺんに行ったんだ。たぶん間違いないよ」だって、あいつがカトンテルねえさんのうちへ伝言を頼んでくれるって、ちょうど通りかかったときに言ったからね。
(カトンテルは黒ウサギと結婚して、丘の上に引っ越してくらしていたのです。)
ピーターは摘んだタンポポをしまい、うちしがれたベンジャミンに付きそいます。
親としてはもう気が気ではありません。
ふたりはいくつもの野原をこえたあと、丘をのぼりだしました。
あなぐまトミーがのこしたあとははっきりしています。
どうやら十メートルごとにふくろをおろしてひと休みしていたようで。
「つまり、息が上がってたんだな。
においからすると、あとはすぐそこだ。
それにしてもくさい!」とピーター。
日ざしはまだぽかぽかと、丘の牧草地にさしこんでいます。
丘のなかほど、戸口に腰をろしているカトンテル。そのかたわらでは、育ちざかりの子ウサギが四、五ひきはしゃぎまわっていました。
ひとりだけが黒で、あとはみんな毛が茶色です。
カトンテルは、あなぐまトミーが通りがかるのを遠くから見ていました。
ご主人にごきげんいかがとあいさつされると、そういえば見えなくなるまでに二回、あなぐまトミーはひと休みしたとの話で。
あいてはこうべをたれるとふくろを指さして、身をよじるほど笑ったとかで。
――「行こう、ピーター。
やつはそのうち火を入れ出すぞ。
いそげ!」と言うのは、ばにばにベンジャミン。
ふたりして丘の上へ、上へ。
――「うちにいたよな。
穴から黒い耳がのぞいてたし。」
「住まいが岩場に近いんだ。
おとなりさんとはもめたくないんだよ。
まあ行こう、ベンジャミン。」
おうし土手のてっぺんにある森の近くまで来たふたりは、気をとがらせます。
木々のおいしげるごつごつした岩場。
そして見えてくる、岩おの下、きつねめさんのこしらえたおうちのひとつ。
土手の坂をのぼりきったところにあって、岩やら枝やらにおおわれています。
ウサギたちはこっそりしのびより、耳をすまして目をこらしました。
このおうちは、ほら穴とろうやとあばらやを足して三でわったみたいなものでした。
がんじょうなドアがかたくとざされています。
夕やけにてらされたまどガラスは赤くもえているように見えますが、台所に火がついているわけではなく。
きちんとつんであるたきぎが、ウサギたちにはぎりぎりまどからのぞくと見えました。
ベンジャミンはほっとひといき。
とはいえ台所のテーブルにはしたくがしてあり、ぞっとします。
何も入っていない青のやなぎもようの大きなパイざら、切り分け用のナイフとフォーク、それにほうちょうまで。
そのおくのほう、テーブルのはしにだけテーブルクロスが広げてあって、そこに取りざらとタンブラー、ナイフとフォーク、しお入れにからしとイスがあり――つまるところだれかさんの夕ごはんのしたくなのです。
ひとっこひとりすがたがなく、子ウサギもいません。
台所はもぬけのからでしーん。
時計もとまっています。
ピーターとベンジャミンはまどにはなをこすりつけ、うすくらがりに目をこらしました。
そのあとふたりはおうちのまわりをぐるり、うら手へまわります。
そこはじめじめにおうところ、トゲやイバラがびっしり。
ウサギたちはがたがたふるえました。
「あああかわいそうに子どもたち!こんなおそろしい場所に!もうあいつらの顔を見ることはかなわないのかよ!」とためいきまじりのベンジャミン。
ねどこのまどにしのびよるふたり。
台所とおなじくしっかり戸じまり。
ところがこちらのまどにはついいましがた開けられたあとが。
はらわれたクモのすに、つけられたばかりのきたない足あと。
へやのなかはまっくらなので、はじめは何もわかりません。
ただ物音が耳に入って――ゆっくりきっちりくりかえされるぐーぐーという太いいびき。
ふたりの目がやみにもなれてくると、見えてきたのはきつねめさんのベッドでもうふにくるまってねむっているだれかさん。
――「くつをはいたままベッドに入ってる」と耳うちするピーター。
ベンジャミンはいてもたってもいられなくなり、ピーターをまどから引きはがします。聞こえてくるのは、きつねめさんのベッドのほうから聞こえる、あなぐまトミーのぐーぐーというぶっとい、きっちりとしたいびきだけ。
子どもたちの姿は、どこにも見えません。
日が暮れました。
そろそろフクロウがホーホーと鳴き出す森には、せめて埋めてあげればよかったと思うような不気味なものがゴロゴロと転がっています。
ウサギの骨とか、ガイコツとか、ヒヨコの足とか、ほかにもゾッとするものばかり。
身の毛もよだつ場所で、まわりはまっくら闇の中です。
ふたりはおうちの表にもどりました。
あらゆる手をつくして、なんとか台所の窓のカギをはずそうとします。
窓枠のすきまにサビたくぎを押し込もうとするのですが、こんなに真っ暗ではどうにもうまくいきません。
ふたりは窓のまえで身を寄せ合って腰かけ、ひそひそとお話をしました。
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