初級翻訳・ひかりの素足 第5話

ひかりの素足

それは灰色のトゲがギザギザと生えた鎧(よろい)を着て、髪の毛はまるで火が燃えているようで、ただれたような赤い目をしながら、太い鞭を振り回して歩いていたのです。
その足が地面に触れるたび、地面はガリガリと音を立てました。
一郎はもう恐ろしさのあまり、声も出ませんでした。
楢夫くらいの、髪のちぢれた子が列の中にいました。しかし、あまりにも足が痛むのか、ついにふらふらとつまずいてしまいました。
そして倒れそうになり、思わず泣きながら、
「痛いよお……。
おっかさん……!」
と叫んだようでした。
すると、すぐ前を歩いていたあの恐ろしい者が立ち止まり、こちらを振り返りました。
その子はよろよろとしながら、恐ろしさに手を挙げ、後ろへ逃げようとしました。しかし次の瞬間、その恐ろしい者の口がピクっと動き、バッと鞭が鳴り響くと、その子は声もなく倒れてもだえ苦しみました。
あとからやって来た子どもたちはそれを見ても、ただふらふらと避けて通り過ぎるだけで、誰一人として一言も発する者はいませんでした。
倒れた子どもはしばらくの間もだえていましたが、それでもいつの間にか、さっきまでの足の痛みなど忘れてしまったかのように、またよろよろと立ち上がるのでした。
一郎は、前へ進むことも戻ることもできず、その場で立ちすくんでしまいました。
その時、急に楢夫が目を覚まし、
「お父さん……!」
と高く叫んで泣き出しました。
すると、ちょうどその下を通りかかった恐ろしい者のひとりが、ゆがんだ赤い目をこちらに向けました。
一郎は息が詰まるように感じました。
恐ろしい者は鞭を振り上げ、下から大声で怒鳴りました。
「そこらで何をしているんだ。
降りてこい!」
一郎は、まるでその赤い目に吸い込まれていくような気がして、よろよろと二、三歩そっちへ歩みましたが、どうにか踏みとどまり、しっかりと楢夫を抱きしめました。
恐ろしい者は頬をピクピクと動かし、歯をむき出しにして獣のように咆哮(ほうこう)しながら、一郎の方へと駆け上がってきました。
そして、あっという間に一郎と楢夫は捕らえられ、あの列の中に引きずり込まれてしまったのです。
一郎にとって一番悲しかったのは、どうしたことか、楢夫がなぜか歩けるようになり、裸足のままその痛む地面を踏みしめながら、一郎の前をとぼとぼと歩かされていることでした。一郎は、ほかの人たちといっしょに追い立てられながら歩きながら、何度も何度も低い声で楢夫の名前を呼びました。
けれども楢夫は、もう一郎のことなんてすっかり忘れてしまったようでした。
ただ、何度もびくびくしながら後ろに手を挙げ、足の痛さにフラフラになりながら、一生懸命に歩いているだけでした。
一郎は、この時になって初めて、自分たちを追いかけているものは「鬼」というものなのだということ、そして楢夫になんの悪いところがあってこんなにつらい目に遭わなければならないのかということを考えました。
その時、楢夫がついにひとつの赤い角(つの)のある石につまずいて倒れてしまいました。
鬼のムチが、その小さな体を切りつけるようにビシッと落ちました。
一郎は頭がグルグルとめまいを起こしながら、その鬼の手につかみかかりました。
「ぼくを代わりに打ってください。
楢夫はなんにも悪いことをしていないんです!」
鬼はぎょっとしたように一郎を見て、それからしばらく口をピクピクさせていましたが、大きな声でこう言いました。
その歯がギラギラと光っていました。
「罪は今回ばかりではないぞ。
歩け!」
一郎は背中がゾクッと凍りつき、まわりがぐるぐると青く見えました。
そして体中から冷たい汗が一気に噴き出しました。
こうして、ふたりの兄弟は追い立てられていきました。
けれども、だんだん慣れてきたのか、ふたりともなんだか少し楽になったような気さえしました。
まわりの人たちの傷ついた足や、倒れていく体を、まるで夢の中の出来事のように横目で見ながら歩いたのです。
急に、あたりがぼんやりと暗くなりました。
それから、すっかり真っ暗になりました。
追い立てられていく子どもたちの青白い列だけが、その闇の中にフワッと浮かんで見えました。
だんだん目が暗闇に慣れてくると、一郎はその中の広い野原に、たくさんの黒い生き物たちがじっと座っているのを見つけました。
かすかな青い光もちらついていました。
それらはみな、体中が黒い長くて硬い髪の毛でいっぱいに覆われていて、まっ白な手足がほんの少し見えるだけでした。
そのうちの一体が、どういうわけかチラッと動いたと思った瞬間、急に体がちぎれるような激しい叫び声をあげて、もだえ苦しみました。
そして、まもなくその声も聞こえなくなると、まるでひと切れの泥のかたまりのようになってゴロゴロと転がるのが見えました。
そしてさらに目が慣れてくると、その暗闇の中の生き物たちは、刀の刃のように鋭い髪の毛で体中が覆われていて、ほんの少しでも動けばすぐに自分の体を切りつけてしまうのだということがわかりました。
その中をしばらく、本当にしばらく歩いてから、あたりがまた少し明るくなりました。
そして、地面はまっ赤でした。
前の方にいた子どもたちが、突然はげしく泣き叫びました。
列もピタッと止まりました。
ムチの音や鬼の怒鳴り声が、まるでヒョウやカミナリのように聞こえてきました。
一郎のすぐ前を、楢夫がよろよろと歩いているのです。
野原のそのあたり一帯は、小さな瑪瑙(めのう)の破片のようなものでできていて、歩く人たちの足をザクザクと切りつけるのでした。
鬼は大きな鉄の靴を履いていました。
その鬼が歩くたびに、地面の瑪瑙がガリガリと音を立てて砕けたのです。
一郎のまわりからも、たくさんの泣き声や叫び声が上がりました。
楢夫も泣き出しました。
「ぼいたちはどこへ行くの?
どうしてこんなにつらい目に遭うの?」
楢夫はすぐ隣の子にたずねました。
「ぼくは知らないよ……痛いよ、痛いよお、おっかさん!」
その子はぐらぐらと頭を振って泣き出しました。
「なにを言っているんだ!
みんなどこキサマらが出かしたことだ。
どこへ行くあてもあるもんか!」
うしろで鬼ふが咆(ほ)え猛り、またムチをビュンと鳴らしました。
野原の草はだんだん荒々しく、だんだん鋭くなっていきました。
前の方の子どもたちは何度も何度も倒れては、また力なく起き上がり、足も体も傷だらけで、叫び声やムチの音に、もうそれだけでも倒れそうでした。
楢夫が、いきなり何かを思い出したように一郎にしがみついて泣きました。
「歩け!」
鬼が叫びました。
ムチが、楢夫を抱きしめていた一郎の腕を激しく打ちました。
一郎の腕はしびれて感覚がなくなり、ただビクビクと動くだけでした。
楢夫がまだしがみついて離れなかったので、鬼がまたムチを振り上げました。
「楢夫だけは許してください!
楢夫は許してください!」
一郎は泣きながら叫びました。
「歩け!」
ムチがまた激しく鳴り響いたので、一郎は両腕でできる限りの力を振り絞り、楢夫をかばいました。

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