承知した、証文を書きなさい」
「さあ大変だ、あたし字なん書けないわ!」とひなげしどもがみんな一緒に思ったとき、悪魔のお医者はもう持ってきたカバンから、印刷された証書をたくさん取り出しました。
そして笑って言いました。
「では、そのわしがこの紙をひとつパラパラとめくるから、みんな一緒にこう言いなさい。『アヘンはみんな差し上げ候』と」
「まあよかった!」とひなげしどもはみんな一度にざわつきました。
お医者は立って言いました。
「では――」パラパラパラパラ、
「アヘンはみんな差し上げ候」
「よろしい。さっそく薬をあげよう。一服、二服、三服とな。まず、わたしがここで第一服の呪文を唱える。すると、ここらの空にな、キラキラ赤い波が立つ。それをみんなで飲み込むんだな」
悪魔のお医者はとても不思議な良い声で、おかしな歌をうたいました。
「真昼の草木と石土を 照らさんことを怠りし 赤き光は集い来て なすすべしらに漂えよ」
すると本当に、そこらのもう浅黄いろ(薄い黄色)になった空気の中に、見えるか見えないような赤い光がかすかな波になって揺れました。
ひなげしどもは、自分こそ一番美しくなろうと、一生懸命その風を吸い込みました。
悪魔のお医者はじっと立ってこれを見渡していましたが、その光が消えてしまうと、また言いました。
「では第二服。真昼の草木と石土を 照らさんことを怠りし 黄なる光は集い来て なすすべしらに漂えよ」
空気へうすい蜜のような色がちらちらと波になって広がりました。
ひなげしはまた一生懸命です。
「では第三服――」とお医者が言おうとしたときでした。
「おいおい、お医者や、あんまり変な声を出してくれるなよ! ここはセントジョバンニ様のお庭だからな」と、ひのきが高く叫びました。
そのとき風がザァッとやって来ました。
ひのきが高く叫びました。
「そこの偽医者、待てっ!」
すると医者はたいへんあわてて、まるでのろしのように急に立ち上がり、滅法(めっぽう)大きく黒くなって、途方もない方へ飛んで行ってしまいました。
その足先はまるで釘抜きのように尖り、黒い診察カバンも煙のように消えたのです。
ひなげしはみんなあっけにとられて、ぽかっと空を眺めています。
ひのきがそこで言いました。
「もう一歩で、お前たちみんな頭をバリバリ食われるところだったんだぞ」
「それだっていいじゃないの! おせっかいなひのきねえ!」
もう真っ黒に見えるひなげしどもは、みんな怒って言いました。
「そうじゃないって。お前たちが青いけし坊主のまんまでガリガリ食われてしまったら、もう来年はここへは雑草が生えるだけだ。それに第一、スターになりたいなんてお前たち、スターって何だか知りもしないくせに! スターというのはな、本当はお天井のお星さまのことなんだ。ほら、あそこへもうお出ましになっている。もう少し経てば、ほら一面にお出ましだ。そうそう、オールスターキャストって言うだろう? オールスターキャストというのがつまりそれなんだからな」つまり、ふたご座はふたご座の場所で、しし座はしし座の場所で、ちゃんと決まった場所できちんと光っているのが「オールスターキャスト」なんだ。な、なのに、ありがたいことに「スターになりたい、なりたい」って言っているお前たち自身が、そのまんますっくりスターで、そのうえオールスターキャストということになるんだよ。
それはこういうことさ。
よく聞きなさい。
天にある花を星といい
この世の星を花という。
」
「なにを言ってるのよ。
ばかひのき! ただのけし坊主なんかになってまで、あたしたち生きていたくないわ。
それに、いまのお医者さまの素敵な声にくらべたら、あんたの声なんて足もとにも及ばないわよ。
わあいわあい! おせっかいで、おせっかいで、背の高いひのきめ!」
ひなげしたちは、まだまだ怒っています。
だけど、もうみんなの顔もすっかりまっ黒に見えるようになっていました。
なぜなら、夕立の雲がぜんぶ崩れてウシみたいな形になり、空のあちこちに星がピカピカと光りだしたからです。
ひなげしは、みんな、しーんと静まりかえっていました。
ひのきはまた何も言わず、夕方の空を見上げました。
西の空はもうまぶしい光をおさめ、東のモクモクした雲もだんだんくずれて、そこから銀色の大きなお星さまがまたたきはじめました。
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