初級翻訳・アヒルの庭で 第3話

アヒルの庭で

気をつけるんだね」
「きのうは、ここにはお日さまが照っていたのに」と、小鳥が言いました。
「きょうは、空が灰色にくもっている。ぼくは、悲しくてたまらないんだ」
「おまえは、時の数えかたも知らないんだね」と、ポルトガル奥さんは言いました。
「まだ、一日たっちゃいないんだよ。そんなまぬけな顔をして、つっ立ってるもんじゃないよ」
「奥さんがそんなに怒って、こわい目つきでぼくをにらむところは、ぼくがこの庭の中へ落っこちたときに、ネコがにらんだ目つきにそっくりですよ」
「はじ知らず!」と、ポルトガル奥さんは言いました。
「おまえは、このわたしを、あのけだもののネコとくらべる気かい! わたしのからだの中にはね、わるい血なんか、一てきも流れていないんだよ。わたしはおまえをひきとったんだから、おぎょうぎもちゃんと教えてやらなくちゃならないの」
こう言うと、奥さんは小鳥の頭をくちばしでつっつきました。
すると小鳥はたおれて、死んでしまいました。
「おやまあ、どうしたんだろう!」と、ポルトガル奥さんは言いました。
「これっぱかしのことで死んでしまうなんて! ほんとに、こんなにひ弱じゃ、この世の中には向かないわね。わたしは、この小鳥にとっては母親のようなものだった。それはわたしも知っているわ。だって、わたしにはこころというものがあるんですもの」
そのとき、おとなりのオンドリが、アヒルの庭の中に頭をつっこんで、機関車のような大きな声で鳴きました。
「あなたのその鳴き声を聞くと、命がちぢまるような思いがしますよ」と、ポルトガル奥さんは言いました。
「こんなことになったのも、みんなあなたのせいなんですよ。この子は気をうしなってしまったんです。わたしだって、もうすこしでそうなりそうでしたよ」
「そんなのがたおれたって、たいして場所を取りはしないさ」と、オンドリは言いました。
「もっとていねいな言いかたをしてください」と、ポルトガル奥さんは言いました。
「この子は、すてきな声を持っていました! 歌を持っていました! 高い教養も持っていました! そしてやさしくって、かわいらしい子でしたよ。こういうことは、動物にも、人間と呼ばれるものにも、ふさわしいことなんですわ」
まもなく、アヒルたちが一羽のこらず、死んだ小鳥のまわりに集まってきました。
アヒルたちははげしい情熱を持っています。いつも、ねたみか同情かの、どちらかを持っているのです。今、ここにはべつにねたむようなことは何もありませんので、みんなは同情の気持をいだきました。
あの二羽の中国のニワトリたちも、やっぱりそうでした。
「こんなかわいい歌うたいの鳥は、もう二度とわたしたちの仲間になることはないわ。この子はまるで、中国のニワトリのようだったわ」
こう言って、二羽とも泣きました。そして、クックッと鳴きました。するとほかのニワトリたちも、みんなクックッと言いました。
けれどもアヒルたちは、目をまっかにして歩きまわっていました。
「わたしたちは、こころを持っている」と、みんなは言いました。
「それはだれも、うそだとは言えないよ」
「こころ!」と、ポルトガル奥さんは言いました。
「そうよ、わたしたちはこころを持っているわ。――ちょうど、ポルトガルで持っているのと同じくらいにね」
「さあ、なにか食べ物でもひろうことを考えようじゃないか」と、おすのアヒルが言いました。
「そのほうがずっと大事だからな。おもちゃの一つぐらいこわれたって、そんなものはまだいくらでもあるさ」

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