初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第21話

アリスはふしぎの国で

このあいだずっとクイーンはたえずぼうし屋をにらみつけていて、ちょうどヤマネがおさばきの場をまたいだときに、その場に控えていた者へこう命じました。「先の音楽会の歌い手の名簿を持ってまいれ!」するととたんに、あわれなぼうし屋はぶるぶる震えだし、両足とも靴が脱げてしまう始末でした。
「次第をのべよ。」とキングはかんかんになって繰り返します。「さもなくば、びくびくしているかどうかなんて関係なく処すぞ。」
「わがはいはつまらぬ者です、キングさま。」と話し出したぼうし屋は震え声で言いました。「それにお茶を始めてから――まだ1週間もございません――パンは次第にかっぴかぴになり――てぇかてかのお茶……」
「てぇかの、何とな。」とキング。
「お茶のことにございますか。」と答えるぼうし屋。
「ふむ、そりゃあお茶は『てぇ』とも言うわい!」とキングの声はとげとげしい。「わしをバカにしておるのか? 続けよ!」
「わがはいはつまらぬものですが、」と続けるぼうし屋、「そのあとあちこちがてかてかと――ただヤヨイウサギが申すには……」
「言わねえ!」と大あわてで口をはさむヤヨイウサギ。
「言った!」とぼうし屋。
「まちがいだ!」とヤヨイウサギ。
「まちがいか。」とキング。「ではその部分は消すがよい。」
「ではとにかくヤマネが申すには……」と続けたぼうし屋は、気づかわしげにあたりを見て、まちがいと申し立てられないかと確かめるも、ヤマネは何も申し立てずぐっすりすやすや眠っています。
「そのあと、」とそのまま話し出すぼうし屋、「わがはいはバターのぬられたパンをもう少しちぎりまして……」
「あの、ヤマネは何と言ったんですか?」と裁判員のひとりがたずねました。
「それが思い出せません。」とぼうし屋。
「思い出せねば、」と言い出すキング、「処すぞ!」
あわれなぼうし屋はティーカップとパンを落として、片ひざをつきました。
「わがはいはつまらぬものでございます、キングさま。」とぼうし屋が言い出します。
「たしかにその方の話はつまらん!」とキング。
ここでモルモットが1ぴき手をぱちぱちとたたいたのですが、控えていた者たちにたちまち取り押さえられてしまいました。
(っていうのはちょっとややこしい言い方かな、どうなったのかちゃんと説明するね。
大きくしっかりした布の袋を持ってきて、口のところをひもでしばるやつなんだけど、そのなかにモルモットを頭から取り入れて、その上からすわっておさえたんだ。)
「うれしい、こんなの見られるなんて。」とアリスは思いました。「新聞では読んだことあったけど、おさばきの終わりに『ざわめく者たちはたちまち役人によって取り押さえられた』って書かれている意味が、今ようやくわかったわ。」
「それだけしか知らんのなら、もう下がるがよい。」と先を続けるキング。
「これより下へは行けません。」とぼうし屋。「床を突き抜けろとおっしゃるのですか?」
「ならば、しりを床につけい。」と答えるキング。
ここでもう1ぴきのモルモットが手をたたきましたが、また取り押さえられます。
「ふうん、これでモルモットはみんな片付いたってわけ!」とアリスは思いました。「ようやくおさばきもはかどるわ。」
「よろしければお茶の方をすませても。」と言うぼうし屋は、気づかわしげにクイーンを見やりましたが、クイーンは歌い手の名簿を読みふけっています。
「かまわん、行け。」とキングが言うので、ぼうし屋はかけ足でおさばきの場をあとにしたのですが、靴をはき直すのをつい忘れちゃいました。
「……そして外でやつの首をはねよ!」とクイーンは追いかけて控えている者に言いつけましたが、控えている者がドアにたどり着くより先に、もうぼうし屋の姿はどこへやら。
「次の者、入れ!」とキング。
その次にわけを聞くのは御前さまのコックです。
手にコショウびんを持っていて、アリスはその人が入ってくる前から誰だか見当がついたのですが、それというのもドア付近の人たちがみんないっせいにくしゃみをしたからです。
「そこな者、わけを話せ。」とキング。
「まっぴらだね!」とコック。
キングの気づかわしげな目にさらされて、白ウサギが小声で言いました。「やむをえませぬ、反対にご自身からこの者に次第をたずねてみては。」
「ふむ、やむをえぬならやむをえぬ。」「タルトの材料は何だ?」と、だるそうなキングは腕を組み、コックをじろりと睨みつけました。そのせいで目はほとんどまぶたに埋もれてしまっています。重々しい声でそう尋ねました。
「ほとんどコショウですね」とコック。
「シロップです」と、その後ろから眠たげな声が聞こえてきました。
「そのヤマネをひっつかまえろ!」とクイーンが叫び声を上げます。
「そのヤマネを打ち首にしろ! つまみ出せ! 取り押さえろ! しょっぴけ! ヒゲをちょん切ってしまえ!」
しばらくの間、裁判の場は大混乱となりました。ヤマネは外へつまみ出され、みんながもとの場所に戻ったときには、コックも姿を消していました。
「かまわん、かまわん!」とキングは大きくほっと息をつきました。「次の者を呼べ。……それにしても」と、それからクイーンに向かって声を潜めて言いました。「やれやれ、次は君が尋問役をやってくれないか。頭がひどく痛むのでね!」

アリスが様子をうかがっていると、白ウサギが名簿をいじいじと調べていたので、次によばれるのがどんな人なのか、とてもワクワクしてきました。「だって、何がどうなっているのか、まだはっきりしないんですもの」とアリスはひとりごちました。
そのとき、白ウサギがふりしぼるような大声で名前を読み上げたので、アリスはびっくり仰天しました。
「アリス!」

12 アリスが証言する

「はい!」とアリスは声を上げました。あまりの突然のことに、この数分間で自分の体がどれほど大きく育っていたかをすっかり忘れていました。あまりにあわてて立ち上がったものだから、スカートのすそが裁判員のいる箱形の座席にひっかかってしまい、裁判員全員が下でおさばきを聞いている人たちの頭上にすってんころりん。みんなが手足をじたばたさせているのを見て、アリスは先週うっかりひっくり返してしまった金魚鉢の光景を思い出し、胸がどきりとしました。
「あら、ごめんなさい!」と口をついて出ましたが、あたふたするばかり。大急ぎで裁判員を拾い上げ始めました。金魚のときの失敗がずっと頭にあったので、今すぐ拾い上げて座席に戻さないと、みんな死んでしまうような気がしたからです。
「裁判が続けられん!」とキングが威厳たっぷりに言いました。「裁判員を全員、それぞれの持ち場にちゃんと戻すまで……全員をだ」と、最後のところを力強く念押ししながら、アリスをじろりと睨みました。
アリスが座席に目をやると、あわてていたせいか、トカゲが頭から逆さまに突き刺さっていました。このかわいそうなトカゲは、しおしおとしっぽを振るだけで、まったく身動きが取れません。アリスはもう一度抜き出してから、きちんと入れ直しました。
「こうして入れ直したところで、大した違いもないでしょうけれど」とアリスはひとりごちました。

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