初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第22話

アリスはふしぎの国で

「そもそも、どっち向きだろうが裁判の役には立ちそうもないわ」
ひっくり返されたショックからようやく立ち直った裁判員たちは、見つかった手持ちの黒板とチョークを手に取ると、せっせと仕事に取りかかりました。みんなでこの事故のいきさつを書き留めていましたが、トカゲだけは別です。すっかり参ってしまったのか、腰を下ろして口をあんぐりと開け、裁判場の天井をぼんやりと見上げるばかりでした。
「事件について何を知っている?」とキングがアリスに尋ねました。
「何にも知りません」とアリス。
「これっぽっちもか?」としつこく食い下がるキング。
「これっぽっちも知りません」とアリス。
「なんと重要なことだ!」とキングは裁判員たちの方を向いて言いました。
みんながその言葉を黒板に書き留めていると、白ウサギが口をはさみました。
「『重要』ではなく、『瑣末(さまつ)』と言いたかったのではありませんか?」と言葉こそ丁寧ですが、話している間も眉間にしわを寄せてしかめっ面をしています。
「瑣末、そう、瑣末と言ったのだよ!」とあわてて取り繕うキング。それからぼそぼそとひとりごとを言います。「重要……瑣末……瑣末……重要……」どちらが聞こえがいいか品定めしているようです。
裁判員たちの中には「重要」と書き留めた者もいれば、「瑣末」とした者もいました。かろうじて黒板をのぞける位置にいたアリスは、それを見て「どのみち大差ないわ」と心の中で思いました。
そのときキングは、しばらくいそいそと手元のメモに何かをしたためていましたが、突然大きな声で「静まれ!」と叫び、そのメモを読み上げました。「決まりその42。『背たけが1.6キロを超えた者は何ぴとも裁判から退場とする。』」
みんなの視線がアリスに集中しました。
「あたくし、1.6キロもありませんわ」とアリス。
「ある」とキング。
「3キロ近くはあるはずだ」とクイーンが後押しします。
「ふん、絶対に退場なんてしません」とアリス。「それに、そんなのちゃんとした決まりじゃないわ。たった今でっち上げたんでしょう!」「これは、ここに記されている中で一番古い決まりじゃ」とキング。
「なら、決まりその1のはずじゃありませんか」とアリス。
顔を青くしたキングは、あわててメモ帳をとじました。
「では、おさばきの結果を話し合え」と、ふるふる震える小声で裁判員に命じます。
「まだまだやることがおじゃりまする、キングさま」と白ウサギは飛び上がって大あわてです。
「このような紙が今しがた届いておじゃります」
「中には何と?」とクイーン。
「まだ開けておじゃりませんが」と白ウサギ。「おそらくは手紙かと。とがびとの手になる――だれかしらあてのものですね」
「そうにちがいなかろう」とキング。「あて名がないのでないかぎりは。まあまずあるがな、ほれ」
「だれにあてたものなんです?」と裁判員のひとりが聞きました。
「あて先が何もないでおじゃる」と白ウサギ。
「むしろ、そとみには字は何もおじゃりません」と言いながら紙を広げ、言葉をついで言いました。「つまるところ手紙でないでおじゃる。これはひと続きのポエム」
「字の書き方はとがびとのものですか?」と裁判員がもうひとり。
「いえ、ちがうでおじゃる」と白ウサギ。「そこがたいそうけったいで」
(裁判員はみな、ハテナだらけの顔をしています)
「だれかしらの字の書き方をまねたにちがいない」とキング。
(裁判員みな、顔がまたパッと明るくなります)
「申し上げます、キングさま」とジャックが言いました。「わたくしめは書いてません。そうだと言い切れるだけのものもないでしょう? 終わりに名前もそえられていないんですから」
「名前がないならば」とキング。「よけいに事はまずくなるぞよ。つまりおぬしはお痛をしたことになる。でなければ、いい子としてちゃんと自分の名をそえるはずだからな」
これにはその場一同からぱちぱちぱちと拍手がわきおこりました。キングがこの日初めて、ほんとうにうまいことを言ったからです。
「はっきりした、やったのはおまえぞ、もちろん」とクイーン。
「では首をちょ……」
「そんなの何もはっきりしてなくってよ!」とアリス。
「ふん、何が書かれてあるかもわかっていないのに!」
「読み上げよ」とキング。
白ウサギはメガネをかけました。
「キングさま、どこからお始めに?」とたずねます。
「はじめから始めよ」と述べるキングはものものしい態度です。「そして続けて、とうとう終わりに来たら、そこでやめよ」
静まりかえるおさばきの場、そのなかで白ウサギが読み上げたのは次のポエムでした。

あいつらの話じゃ あの女のところで
おれのことを あの男にしゃべったそうだな
あの女はおれを いいやつと言ったが
おれは泳げないと 言いくさる

あの男があいつらに、 おまえはでかけて
ないと伝えたぞ(おれたちにもたしかなことだ)
あの女がことを おし進めたら
おまえはいったい どうなるやら

おれ→あの女は1 やつら→あの男は2
おまえ→おれたちは3 いやもっとだ
あいつらみんなもどる あの男→おれへ
もともとそいつらは おれのものだったがな

まんがいち おれとあの女が
この件に まきこまれでもしたら
あの男はおまえに やつらのあつかいをまかす
おれたちのときと まったく同じだ

おれが思うに それまでおまえは
(あの女が かっかするまでは)
出しゃばって じゃまするつもりだったんだろ
あの男と おれらとそれのあいだを

あの男にはもらすなよ あの女の1番びいきが
あいつらだって だってそりゃあ
ひみつに決まってる だれにも言うなよ
おまえとおれ ふたりだけのないしょだ

「今まで聞いたなかでも、いちばんのよしありげなわけじゃぞ」とキングは手をもみもみ。「では今こそ裁判員よ……」
「そこのだれかがこのポエムを読みとけたら」とアリスは言いました(このほんの数分でたいへん大きくなっていたので、まったく物おじもせず口をはさんでね)。「銀貨1枚あげてもよくてよ。こんなのこれっぽっちの意味もないと思うけれど」
裁判員もみんな手持ちの黒板に書きとめてね、「こんなのこれっぽっちの意味もないと思うと女」……ところがそのうちのだれも、その紙を読みとこうとはしません。
「もし意味がないのだとすれば」とキング。「すさまじく手間がはぶけるぞ。ほれ、何も探らんでよくなるからの。とはいえどうなのかの」と続けて、ひざ上にそのポエムを広げ、片目でじっと見てみます。「どうにも何かしらの意味はありそうじゃ、やはり。『……おれは泳げないと言いくさる……』おまえは泳げないのだったな」と言葉をついで、ジャックに顔を向けます。
ジャックは悲しげにかぶりをふって。
「見ての通りですよ」と返事。
(たしかにできそうにない、まったくの厚紙だからね)
「ここまではよろしい」」とキング。そして、ひとりごとみたいにぶつぶつそのポエムを読んでいきます。
「『おれたちにもたしかなことだ』――これはもちろん裁判員のことじゃな。――『あの女がことをおし進めたら』――これはクイーンのことにちがいない。

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