初級翻訳・アーサー王物語 第1話

アーサー王物語

叢書の序

この叢書(そうしょ)は、世の中のすぐれた大家たちが書いたものや、若い人たちが必ず読むべき名作の中から、内容も文章も英語として最高の宝と言えるものを選び出し、特に日本の若い読者のみなさんに、役立つ知識とワクワクする楽しさを届けたいという願いを込めて選ばれたものです。
英語を学ぶときには、文法や単語の意味をはっきりと理解し、むずかしい文を集めた本に出てくるような短い文をしっかり研究することが大切なのは言うまでもありません。しかし同時に、できるだけまとまった一つの物語である名作の著者たちの本を読み、英語を読む楽しさを育てながら、いつの間にかその豊かな言葉づかいや決まり文句に慣れ親しんでいくことを忘れてはなりません。
前者のような文法の勉強は、学校の授業として先生の指導に頼るべきものですが、後者のような多読は、学生のみなさん自身が授業の合間の時間を利用して心がけるべきことなのです。
私たち編集者は、普段から学生のみなさんと直接ふれあう中で、学校の授業以外で一人で勉強するときにどんな助けが求められているのかをよく知っています。それこそが、この叢書を出版しようと思い立った理由であり、本を小さなサイズにしたのは、みなさんがいつでもポケットに入れて持ち歩きやすくするためなのです。
一語一語をそのまま機械的に訳したいわゆる「直訳」や、それと深くつながっている不完全な和英辞典の訳語をそのまま使うことの悪い影響は、昔から世間に知られており、英語を学ぶ人たちにとってまるで呪いのようなものになっていました。しかし、代名詞や助動詞などの訳し方を少し変えただけで、さまざまな事情からこの悪い習慣は未だにすっかりとはなくなっていません。こうした形式だけの訳し方は、元の文章の意味を生き生きと伝えるためにはまったく不十分であるだけでなく、みなさんが一度このような悪いクセに染まってしまうと、その後の勉強に計り知れないほど大きな害をもたらすことになります。
また、これとはまったく正反対の、自由に思いきり意訳する方法も、ただの日本語の読み物として見るならともかく、みなさんが英語を勉強するための助けとしては、不満なところがとても多いのです。
そこで私たちは、原文の決まり文句やまとまった表現を一つの単位としてその意味をしっかりと訳し出し、日本語の文法が許す限りは原文の一つの単語もがおろそかにされないように努めました。さらに、訳文の中にときどき原文をカッコ書きで混ぜ入れることで、訳文と原文がどうつながっているのかを示し、そのカッコに入った原文がそのまま和文英練習の参考になるように心を配りました。
もっとも、これは至難のわざです。ここでは私たちのそのような思いを一言だけお伝えしておき、どれほどうまくそれが成功したのかは、読者であるみなさんの判断にお任せしたいと思います。
最後に、みなさんにぜひ注意していただきたいことがあります。原文と訳文を見比べて、その意味が分かっただけで本を放り出してしまうと、みなさんの頭の中に残るのは、恐らく訳文だけであり、原文の英語そのものではありません。それでは英語の読書と言いながら、実際には日本語を読んだだけで終わってしまいます。
私たちはみなさんに強くお伝えします。訳文と見比べて意味をはっきりと理解したあとで、さらに原文の英語だけを何度も声に出して読み、その響きや印象をしっかりと自分のものにしてください。そして、訳文をヒントにしてもう一度日本語を英語に直す「和文英練習」を試してみるならば、それはものすごく役に立つトレーニングとなり、私たちがこの小さな努力を注いだ最大の価値を、みなさんが受け取ることになるはずです。

訳者の注記

(注意)
翻訳の都合上、元の本の一つのパラグラフをいくつもの段落に分ける必要が生じました。ただし、段落の最初の行を一文字ぶん右に下げてある場所が、元の本におけるパラグラフの始まりだと思ってください。

本篇の緒言

訳者は、この叢書の第6巻である『無人島日記』の緒言の中で、『ロビンソン・クルーソー漂流記』という本が、冒険心に満ち、商売熱心で、現実的なアングロサクソン人(イギリスの先祖となる人々)の性格を具体的に表したものであるとお話ししました。
しかし、そうした特徴だけでは、まだ本当に偉大なる一つの国や国民を作り上げることはできません。さらに個人の人間性をしっかりとさせ、国民の目指す理想を高く気高いものにするために、大きくて強い道徳的・精神的な力がどうしても必要なのです。
訳者はここに、この物語『アーサー王物語』を通して、アングロサクソンという人種を本当の意味で偉大なる国民へと育て上げた、さらに重要で根本的な彼らの性格と理想の姿の一部を、みなさんに紹介できることをとてもうれしく思います。
アーサー王と円卓の騎士たちの物語は、5世紀の半ばから数世紀にわたって、ブリトン人とアングロサクソン人という二つの人種が激しく戦い続けた実際の出来事から生まれました。12世紀の半ばごろ、ジェフリー・オブ・モンマスという人物が書いた『ブリトン王列傳(れつでん)』の中に初めて書き留められたものであり、歴史の正確な証拠こそかけているものの、不思議なことに、アングロサクソン人種の持つ「騎士道(きしどう)の理想」は、このはっきりしないケルト人の古い言い伝えを借りて見事に表現されていったのです。
アーサー王物語は、まるで空に浮かぶぼんやりとした星雲が、何百年、何千何万年という時を経てだんだんときらめく星々へと変わっていくように、あるときは詩となり、あるときは物語となり、マロリーの散文(『アーサー王の死』)に映し出され、スペンサーの詩(『妖精の女王』)の中で輝き、まさにミルトンの大長編詩になろうとしながらも果たされず、ついには19世紀の大詩人テニソン卿の素晴らしいペンによって『国王牧歌(Idylls of the King)』となり、文学界の決して消えることのない輝く星として、世界中の人々にその光を仰がれるようになったのです。
この本は、「19世紀の理想をもって歌い上げた、イギリスの騎士道詩」と呼ばれる『国王牧歌』のあらすじや、その一部を抜き出したものです。
ページ数の制限があって、そのすべてを日本語と英語の対訳(たいやく)にできないのはとても残念ですが、この本に収められている部分だけでも、それ自体ですばらしい一つの物語を作り上げています。
これによってイギリスの騎士道精神のひとコマをのぞき見ることができますし、みなさんが将来テニソンの原作を読むときの大切な手引きともなるはずです。

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