初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第7話

レモンの花の咲く丘へ

やがて、主屋の方から馬のいななき、騎士たちが吹く角笛、そして真鍮のラッパの音に小太鼓の音が重なり合い、領主の万歳を叫ぶ声が、騒がしく賑やかに響き渡ってくる。
二人はその音に驚いて立ち上がる。
間もなく左手の入口から使いの小僧が慌てて駆け込んできたり、領主の前に進み出て一礼する)
小僧 ただいま、お呼びになられました騎士や音楽家の方々がお着きになりまして、玄関のほうでお殿様のお出ましを待ちかねておられます。
領主 (うなずき)おお、そうか。それで、その中に紫のローブを着て月桂樹の冠をかぶり、銀の竪琴を持った、若く美しい音楽家の姿は見えなかったか。
小僧 いいえ、そのようなお方はお見受けしませぬ。
領主 (がっかりして)そんなはずはないのだが……。
(間)とにかく玄関まで出迎えることにしよう。
(領主を先頭に、従者、小僧が退場。
間もなく玄関の方で再び領主の万歳を呼ぶ声が高く上がり、やがて静まり返る。三分間の静寂。
――正面の入口から、二人の召使いの女性を伴って、海岸から連れてこられたあの女が現れる。
女は桃色の長袖の上衣に白い袴姿。
美しい金髪。
肩と腕をあらわにしている。
若く美しい容姿。
胸元には深紅の薔薇の花が一輪さしてあり、彼女は終始それを気にしている)
使女A 大勢の立派な騎士や音楽家がいらっしゃいましたね。
使女B 白い馬にまたがり、水色のローブを着て、銅の盾と象牙の笛、そして猫目石をちりばめた一弦琴を持った二十五、六歳の音楽家の方角、なんと美しいお方ではございませんでしたか!
使女A 銀の鋲(びょう)がついた兜をかぶり、赤いローブの上に銀と真鍮で作った胴着をつけ、濡れ烏よりも黒い髪を左右の肩に垂らして、それを片手でもてあそびながら小さな声で歌を歌っていた二十七、八歳の騎士の方こそ、男らしくて素敵でしたよ。
使女B だけどあの方の目は、まるで東洋人のように瞳もまつげも真っ黒で、なんだか残酷な心の持ち主のように思えました。
使女A そんなふうにおっしゃるけれど、あなたの好きな水色の音楽家の方は、口が少し大きすぎますし、おまけにちょっと太りすぎていて、どこか気品に欠けているように見えたではありませんか。
使女B 気品があるかどうかは知りませんけれど、その代わり愛嬌がたっぷりでしたわ。
使女A 残酷な人かどうかは知りませんけれど、男としての圧倒的な威厳がたっぷりありましたよ。
女子 (窓際に寄りながら、二人の召使いの言い争いを聞いていたが、ふっと軽く笑って)お客さまたちのうわさは、もうそのあたりにしておくれ。
どんなに素晴らしいと思ったって、結局あなたたちのものになるわけではないのだから。
使女B まあ、お嬢様は口がお悪いですこと。そんなふうにおっしゃるなら、いったい誰のものになるというのでございますか。
使女A 決まっているではありませんか。
あの方々は、お嬢様を贈り物としてもらおうと音楽の競技にいらした方々なのですから、みんなお嬢様を狙っていらっしゃるのですよ。
使女B 本当にその通りでございます。
女子 (慌てて話を遮りながら)もう、そんなことを言わないでおくれ。
いつもいつもあなたたちに言っている通り、私にはあらかじめ約束したたった一人の人がいるのだから。
たとえお殿様が、お客さまの一人に贈り物として私をお渡しになったとしても、私は決してその人のところへは行かないわ。
使女A そういえばお嬢様は、この館にいらっしゃる前に、そうお約束をなさった立派な方がいらっしゃると、常々おっしゃっていましたね。
使女B 紫のローブを着て、月桂樹の冠をかぶり、銀の竪琴を持った美しい音楽家でいらっしゃるそうですね。
女子 (うなずきながら)そんな格好をしたお方が、今日のお客さまの中にいらっしゃりはしなかったかしら。
使女A さあ、いらしたのやら、いらっしゃらなかったのやら……(と言って、使女Bと顔を見合わせる。
主屋の方から大勢の笑い声が聞こえてくる)
女子 あの笑い声の中に、その方の笑い声も混じっているのではないかしら。
使女B (気を利かせて)ちょっと行って、こっそり見てまいりましょうか?
女子 お願い、そうしてきてくれたら、私はどんなにうれしいことか知れないわ。
使女A それでは二人でちょっと行って、すぐに見てまいりますね。
(そう言って、二人の使女は左の入口から小走りに退場する)女子は、二人が出て行ったほうを向いたまま、しばらくその場で立ちすくんでいましたが、やがてそのままの姿でベッドに腰をかけ、うつむきました。
夕日が、女子の肩と横顔を温かく照らし出しています。
あたりは静まり返っています。
(三分間の静けさ)
やがて、高い塔へと続く階段に、領主の一人息子である美しい青年の姿が現れました。
天才的な情熱を感じさせる顔立ちで、気高い騎士の服装をしています。
片手には、一束のヤマスズランの花を持っています。
女子が下の階にいるのを見ると、足音を立てないようにそっと忍び足で階段を下り、女子の背後にたたずみました。

若様(公子) (静かでありながらも熱のこもった口調で)普段から冷淡なあなたのことだから、わざわざ僕に会いに来られたわけではないのだろうけれど、こうして一人でうなだれている姿を見ていると、なんだか君が僕だけのもののように思えてならないんだ。

女子 (驚いて振り返り)まあ、若様でいらっしゃいましたか(と、少し戸惑った様子で)はい、おっしゃる通り、あなたにお会いしに来たわけではございませんが、(少し間を置いて)そのように優しくおっしゃっていただけますと、私もなんだか、あなたのものになってしまうのではないかという気がいたします。

若様 そうやっていつもいつも、都合のいいお世辞のような言葉であしらわれるのは、まるで、風の吹くままに揺れる柳の枝が、その実、下の川の水面に自分の姿を映しているようなものだな。
僕はただ風の役目で、では川の水はいったい誰なのだろうね、うらやましいかぎりだよ。

女子 そんなお言葉を聞くたびに、私の心はかき乱されてしまいます。
どうかもう、そんなことはおっしゃらないでくださいまし。

若様 それは君の言う言葉であって、僕が本当に伝えたい言葉は別にある。

女子 そのお言葉を、聞きたい気持ちは山々でございますが、聞いてしまえばかえって後の嘆きとなり、悲しい涙を流すことになりますれば、どうかおっしゃらないでくださいませ。

若様 どうしてそんなふうに言うのだろう。
聞きたい気持ちは山々なのに、聞いてしまったら後の嘆きになり、悲しい涙を流すことになるなんて、いったいどういうわけなのだい。
(少し間を置いて)いやいや、君はまたそうやって巧みな言葉で、僕の本心をかわそうとしているのだろう。僕にはよく分かっているよ。

女子 本当にそうかもしれませんわね。
(少し間を置いて)あれこれと申しましても、私は一つの強い願いに縛られている身でございますから、その願いが叶うまでは、どんなにあなた様が優しくしてくださっても、そのお気持ちにお応えすることはどうしてもできないのです。

若様 一つの願いとは、いったいどんな願いなのだい。
それを僕に話して聞かせるわけにはいかないものか。

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