初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第8話

レモンの花の咲く丘へ

女子 その一つの願いは、私にとってまるで呪いのようにも思えてならないのです。
お話しすることは簡単なことですけれど、たとえお話ししたところで何の役にも立たないことですから……。

若様 それはあまりにも、冷たいお言葉というものじゃないか。
だが、その冷たい言葉は今に始まったことではなく、昔からのことだ。
あの裏庭のイチジクの木の陰で、寂しげな花びらを一枚一枚ちぎっては泉へと流しながら、僕がどれほど心を込めて自分のすべてを打ち明けた時も、君は甘く言葉をかわして、はっきりとしたお返事はくれなかった。
また、海のすぐそばの岩陰で、人だかりや桜貝に囲まれた、海の草の香りが強く漂う洞窟の中で、まるで人魚たちが語り合うように親しく話し合った時も、いざ恋の物語になりそうになると、君は決まっていつも話題をそらしてしまう。
そうかといって、冷たくきっぱりと突き放すわけでもなく、恋に狂いそうな僕をもじもじとじらして遊ぶ、いじわるなお姫様のように、こうして僕の気をきらきらと苛立たせるそのお心が、僕にとっては憎らしいというよりも、むしろ懐かしく、そして愛おしくてたまらないんだ。本当によく惚れ込んだものだと自分でも思うよ。

(語りながら、若様はそっと女子のそばへと腰を下ろします。
女子は困ったような様子で、少し体を離します)

若様 いつだったか、二人で川沿いの牧場を歩いていたとき、女の子たちが摘み残したワスレナグサが咲いていたのを、僕がそっと摘み取って君の髪に挿してあげたことがあったね。なのに君は、いつの間にかそれを引き抜いて捨ててしまった。
あのとき、僕の悲しみがどれほどだったか。
潤んだ目からこぼれ落ちた二筋の熱い涙が、僕の頬を伝って、そのときまさにワスレナグサの上に散ったのを見ても、君には分からないというのかい。

女子 そんなふうに昔のことを一つ一つおっしゃらなくても、私はとうの昔からあなたのお心はよく分かっております。
……ですが、もうこれ以上何もおっしゃらないでください。
そんなふうに言われれば言われるほど胸の苦しさが増すばかりですし、あなたにいたしましても、そうやって私の心を苦しめるのは、本当の意味で私を愛してくださるそのお気持ちに背くことになってしまいますわ。

若様 「言うな」とおっしゃるなら、もう一言だって口には出さないさ。だがその代わり、せめてこの花を、そのまるで彫刻のように美しい手で、受け取ってはくれないか。(そう言って、若様はヤマスズランの花束を差し出します)
白木の戒名よりも寂しげな花かもしれないけれど、君のその手に取ってもらえれば、この白い花だってきっと紅く色づいて見えるはずだ。

女子 (花をそっと押し戻し)谷間にひっそり咲いてこそ、この花はいじらしいのでございます。
どうして私ごときの手に取ることができましょうか。

若様 自然というのは冷酷なものだ。
だからこそ、人間の温もりというものは懐かしく尊いものなんだよ。
いつまでこの花を、冷酷な自然のままに放っておくつもりかい。
(そう言ってさらに花を差し出しながら)さあ、早く受け取ってくれよ。

女子 (しばらくの間、沈黙が流れます――)やがて、寂しそうに切ないため息をつくと、女子はついに胸に挿していた真っ赤な薔薇の花を抜き取り、若様に差し出しました。

女子 「あぁ! あなたのように心の清い方は、恋の贈り物になさるにも、深山のすずらんのような、清らかで寂しげな野生の花束を選ばれるのですね。
その温かいお心に対して、私も素直に従うべきなのですが(と言いながら、薔薇をそっと唇にあてて)、どうぞご覧になってくださいまし。この真っ赤な薔薇の花が、いつの間にか私の胸にこうして咲いているのです。
白い花とは違って、赤い花は、その色合いから艶やかさ、香りまでが一層引き立って見えるものですね。
私の心は、ずっと前からこの赤い薔薇の花に強く引きつけられているのです。
(悲しげな表情で)そしてそれが、自分でも恐ろしいほどの強い執着になってしまっているのです」

公子 (失望した様子で、深山のすずらんを床へ放り投げながら)
「いつも真っ赤な薔薇の花があなたの胸に挿してあるものだから、一体どうしてだろうとずっと思っていたんだ。もし下手に尋ねて、聞き捨てならないほかの男の名前でも聞かされたら、苦しみのうえにさらに苦しむことになると思って、これまで見ぬふりをして黙っていたけれど、あなたから今こうして打ち明けられては、これまでの僕の苦心もすべて水の泡となってしまった。
(力強く)どうか頼むから、その赤い花の送り主を僕に教えてくれないか。
それを聞いて祝福するか、それとも呪うか、今の段階では約束できないけれど、あなたの悩みをさらに増やすような、みっともない真似は決してしない。これだけは固く誓うよ。
(そう言って、胸の前で十字を切る)」

女子 (深く感動した様子で)
「そこまで誓うとおっしゃってくださるそのお気持ちを、どうして私が軽んじることができましょうか。
(少し間を置いて)はい、赤い薔薇の送り主についてお話ししろとおっしゃるなら、お話しできないわけではありません。ただ、これからお話しすることを、あなたが浅はかな迷信だと笑い飛ばされるのではないかと心配で……」

公子 「どうして僕が迷信だなどと笑ったりするものか。
あなたのその美しいお姿には、迷信などが入り込む隙間なんて全くないよ。
それに、もしそれが世間で言う迷信だったとしても、美しいあなたが『それは迷信などではない』と固く信じるなら、やがて世間の人々も、それが迷信ではないと思い込むようになるさ。
力とは権力であり、その力の源は個人の力にある。
そして個人の力の本質は、美しさにほかならない。
あなたはまさにその『美』の権化なのだから、いわばあらゆる権力の源だと言っても過言ではないんだよ」

女子 「そのように私を信じ、心から褒め讃えてくださる方は、ほかに一人もいらっしゃいません。
そんなたった一人の若様に、これからお話しするような、まるでアラビアの童話に出てくるような幻のような不思議な物語を聞かせるのは、とても気が引けるのですが……。
(少し間を置いて)思い切ってお話しいたしましょう。
けれど、今から私がお話しする、夢よりもはかない物語をお聞きになったあとで、あなたが私に見切りをつけることに決められたなら、それはあなたのお気持ちひとつに任せます。ただ、それと同時に、こんな頼りない私のことを軽蔑するようになられてしまうのかと思うと、悲しくて寂しくて仕方がありません」

公子 (女子の手をそっと取りながら)
「それは全く君の勘違いというものだ。僕は決してそんな薄情な人間ではないよ。
たとえその物語が、祭りの夜に偶然見かけた裸の男に一目惚れしたというような話であっても、あるいは、猛獣が牙をむく砂漠の中で、メッカを目指して旅をするキャラバンの男の一人に恋い焦がれたというような話であっても、僕は決して君を軽蔑したりなどしないさ。
(少し間を置いて)昔から、恋のためなら天上の乙女だって土竜の穴まで降りていき、気高い女王だって蛇の巣穴に忍び込んだではないか。

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