初級翻訳・不死の薬 第2話

不死の薬

「これで、もうお話はおしまいなんだよ」
丙が、星がきらめく晴れ渡った空を見上げながら答えました。
「その家来は死んでしまったから、天子さまも死んでしまったんだね」
と、乙が言いました。
「それはそうさ、天子さまも不死の薬を飲むことができなかったから、やっぱり年老いて死んでしまわれただろうさ」
と、丙が言いました。
「ばかだなあ、その家来は自分もその薬を飲んで、それから天子さまの分も徳利に入れて持って帰ればよかったのに。
そうすればふたりとも死なずにすんだのにさ」
と、乙が考え込みながら、家来の知恵の足りなさを笑って言いました。
「だって、天子さまより先に飲むなんて不忠だと思ったかもしれないじゃないか」
と、甲が言いました。
三人の子供たちは、かしの木の下に腰を下ろし、西南の国境にある金峰仙の方角を見つめながら、あの高い山の嶺には今でもまだ不死の泉があるだろうかなどと話し合い、空想にふけりました。
星が瞬く夜空に、高い山のとがった嶺が黒くそびえて見えます。
その嶺のてっぺんのちょうど上に、ひとつの金色の星がキラキラと輝いていました。
三人の子供らは、よくおばあさんやお母さんから、夜ごとに天からろうそくが降ってくるとか、あるいは下界の人々がこの山の神さまに祈りをささげるろうそくの火が、空を泳いで山の嶺へと上っていくのだとかいう、そんな不思議なお話を胸の中で思い出しました。
「神さまというものは、ほんとうにいるのだろうか?」
と、いちばん年下の丙が、たまらなくなってため息をつきながら言いました。
「学校の先生は、いないって言っていたよ」
と、乙が学校の先生の言葉を思い出して言いました。
「先生はどうして、いないってことが分かるんだろう?」
と、甲が乙の言葉に疑問を投げかけました。
「ぼくは、いると思うよ。
もし神さまがいないなら、いっただれがあの星や、山や、この地球や、人間を造ったのだろう?」
と、丙が輝く瞳を星に向けながら、目に涙を浮かべました。
夜風に吹かれて、かしの木がサワサワと音を立てて鳴っています。
「それに、いっただれが、この人間を造ったんだろう?」
と、丙が声をふるわせて叫びました。
三人はしばらく黙り込み、深く思いに沈んでいましたが、
「不思議だなあ」
と、顔を見合わせてつぶやきました。
北国の夏の夜は、もうすっかりふけ渡っているようでした。

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