初級翻訳・二十六夜 第2話

二十六夜

中でもその家の親子二人は、子どもはまだ六つにもならず、母親もこの大飢饉では食べ物を手に入れるすべもなく、明日にも二人そろって餓死するのは目に見えていました。
そのとき疾翔大力さまは、上から様子を見ていて、あまりのことにしばし途方に暮れましたが、『日ごろ受けた恩を返すのは今しかない!』と勇気を出して、疲れた羽を一生懸命に伸ばし、はるか遠くの森まで親子のための食べ物を探しに行かれたのです。
その強い願いが天に届いたのでしょうか。ある大きな森の中で、名前も知らない木でしたが、色も香りもとても気高い、十個の木の実を見つけられました。
そこで疾翔大力さまは、自分を忘れて、十回もその実を自分の住む屋根まで運び、親子のそばへ落としてあげました。
その十回目のときです。あまりの飢えと、身の丈をこえる実の重さに目がくらみ、五回も地面に落ちそうになりましたが、ただ『恩を返したい』という一心だけで、自分ではその実を一口も食べず、思いとどまって十個目の実を無事に親子に届けたとき、あまりの疲れと張り詰めていた心がゆるんで、そのまま倒れてしまわれたのです。
それでもしばらくして正気に戻り、下の様子を見てみると、子どもは少し元気を取り戻し、無邪気に喜んでいるようでしたが、親は『自分は食べず、子どもに』と、ますます飢えて倒れそうになっていました。疾翔大力さまはこれを見て、『もうこうなったら、この身を捧げて親の食べ物になろう』と、いきなり体を固く縮めて、息を殺して屋根から床へと飛び降りました。
その衝撃で、体は砕けるかと思いましたが、まだ命はありました。
それでも慈悲深い人なら、生きている鳥を見ては食べられないだろうと思い、息を殺してじっと目をつぶっておられたのです。
そして、ついに願いは叶い、その親子を養うことができました。
その行いによって、疾翔大力さまは、ついに仏様に出会われたのです。
次第に不思議な力を得て、さきほど言ったように、火の中に入っても毛一本燃えず、水に潜っても羽が一つも濡れないという、偉大な力を持つ菩薩(ぼさつ)となられたのです。
今このお経は、この大菩薩さまが、悪事を働く私たちを哀れんで、救われる道を説いてくださったものなのです。
これがその始まりの部分です。
しばらく休んで、次の講座で詳しくお話ししましょう。
南無疾翔大力、南無疾翔大力。
みなさん、しばらくゆっくり休みなさい」

一番高い木の黒い影が、バタバタと音を立てて、向こうの低い木の方へ移ったようでした。
やはり、それはフクロウだったのです。
それと同時に、林の中は急にバサバサと羽を動かす音や、くちばしをカチカチ鳴らす音、低くゴロゴロとつぶやく音などでいっぱいになりました。
天の川がだいぶ傾き、大熊座(おおぐまざ)がチカチカとまたたき、それから東の山並みの上の空が、ぼおっと古めかしい黄金色に明るくなりました。
さっきの汽車と駅ですれ違ったのでしょうか、今度は南の方へゴトゴトと走る音がしました。
どうやら車の響きがとてもゆっくりで、貨物列車のようでした。
そのとき、黒い東の山並みの上に、何かチラッと黄色くて尖った、変わった形のものが現れました。
フクロウたちは急にざわめき出しました。
二十四日の、黄金の角のような、鎌の形の月だったのです。
月はすぐにスウッと昇っていきました。
沼の底の光のような、ぼんやりとした青い明かりが、林の高い梢を照らし、一羽の大きなフクロウが羽をひるがえしているのも、銀色にキラキラと輝いて見えました。
さっき説教をしていた松の木のまわりの六本の木には、どの木にも四羽から八羽くらいのフクロウがとまっていました。
低く出た三本の並んだ枝には、三羽の子フクロウがとまっていました。
きっと兄弟だったのでしょう、どれも銀色で大きさはみんな同じくらいでした。
その中で、こちらの二羽はだいぶ退屈しているようでした。
片方の羽を広げたり、片足でブルブルと立ったり、枝に爪をひっかけてクルッと逆さまになって、小笠原諸島のコウモリの真似をしたりしていました。
それから、何か言っていました。
「ほら、大の字になって見せようか」「大の字なんて、べつにたいしたことないよ」

「大の字なんて、僕だってできるもん」

「できるのかい? じゃあ、やってごらんよ」

「ほらっ」その小さな子フクロウは、ほんの一瞬だけ、消防士が練習するような逆さまの大の字を見せました。

「なんだい、それだけかよ。それだけなのかい」

「だって、やったんだからいいだろう」

「大の字になってないじゃないか。ただの十の字だよ。足が開いてないじゃないか」

「おい、おとなしくしろ。みんなに笑われるぞ」すぐ上の枝にいたお父さんフクロウが、ギラギラと青く光る大きな目でこちらを見ながら言いました。目のまわりの赤い縁取りもくっきりと見えています。

ところが、小さなフクロウの兄弟たちはなかなか言うことを聞きません。

「十の字だって? おい、縦の棒が二つもあるような十の字なんてあるかよ」

「二つに開かなかったじゃないか」

「開いたよ!」

「なんだ、生意気な!」もう一羽が枝から飛び立ちました。もう一羽もつられて飛び立ちます。二羽はバタバタと蹴り合い、羽が月の光を浴びて銀色にきらめきながら、下の方へ落ちていきました。

お母さんフクロウらしい、さっきのお父さんの隣にいた茶色い少し小柄なフクロウが、スウッと下へ降りていきました。それから下の方で泣き声が聞こえました。けれども間もなく、お母さんフクロウは元の場所へと舞い戻り、小さな二羽も登ってきて、二羽とも元の枝にとまって片足で目をこすっていました。

お母さんフクロウがもう一度叱りました。その目も青くギラギラと光っていました。

「本当にあなたたちったら、しょうがないねえ。みんなが見ているところで、すぐに喧嘩をするんだから。どうして穂吉ちゃんみたいに、じっとしていられないのかしら」

穂吉と呼ばれたフクロウは、三羽の中では一番小さいようでしたが、一番おとなしいようでした。じっと前を向いて枝にとまったまま、最初から最後まで、しんとしていました。

その木の一番高い枝にとまり、体中を銀色にして大きく頬をふくらませ、今の講義の休憩時間中、水銀のような月光を浴びながらゆらりゆらりと居眠りをしているのは、間違いなくフクロウのおじいさんでした。

月はもうずいぶん高くなり、星座もたくさん巡りました。さそり座は西へ沈もうとしており、天の川もすっかり斜めになっていました。向こうの低い松の木から、さっきの年老いたお坊さんのフクロウが、斜めに飛んで、先ほどと同じ説教用の枝にとまりました。

急に林のざわざわがやんで、しんとしずまり返りました。風のせいか、さっきまでは聞こえなかった遠くの瀬の音が響いてきます。

お坊さんのフクロウは、ゴホンゴホンと二つ三つ咳払いをして、また話しはじめました。

「その時、疾翔大力(しっしょうだいりき)さまが、爾迦夷(にかい)というものに告げておっしゃるには、『よく聞きなさい、よく聞きなさい。しっかり心にとどめて考えなさい。わしが今から、お前たちフクロウや鳥たちが、苦しみから逃れて自由になる道を説いて聞かせよう』。

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