初級翻訳・仔牛 第1話

仔牛

ある日、仔牛が お父さん牛とお母さん牛のところへいって、
「お父ちゃん お母ちゃん、あたし 体の中が むずむずするの。」
と いいました。
お父さん牛も お母さん牛も すっかり よろこんで よだれを たらしました。
そして お母さん牛が いいました。
「坊や、その むずむずするのはね、今に 坊やの 体から 何かが 生えて くるのよ。さあ、それでは、あの 丘の 南の なのはな畑の 中へ はいって、じっと すわっていなさい。何か 生えて くるまで 待っていて さいね。」
と いいきかせて、仔牛を 一人きり 送って やりました。
仔牛が いってしまうと お母さん牛は 胸をおどらせながら お父さん牛に いいました。
「ねえ、あの 子は 世界中で 一番 美しい 仔牛だから、今に きっと 肩の 下から、いつか ほら 丘の ふもとで 池の 上に うかんでた あの 白鳥のような 美しい 白い 羽が 二つ 生えますよ。」
けれど お父さん牛は 大きな 顔を 横に ふりました。
「なにを ばかな。けものに 羽など 生えるもんか。けものに 生える ものは 角に きまってる。だが あれは、なかなか 勇ましい やつだ。だから きっと 鹿の 角みたいに りっぱな、枝の ある 角が できるだろう。」
「おお いやだ、あんな みっともない もの。あんな いやな ものが あの かわいい 子に 生える ものですか。きっと 羽が 生えます。もし あの 子に 羽が 生えないなら あたし、この しっぽを あげても よろしいわ。」
「そんな へんてこな しっぽなんか いらないよ、縄切れの 方が よっぽど ましだ。お前が そう いうなら わしは こう いう。もし あれに 鹿の 角が 生えないなら、わしは わしの ひづめを やろう。」
すると お母さん牛は 大きな 顔を できるだけ しかめて、
「そんな ひづめより 道ばたに おっこっている お椀の かけらの 方が ましですわ。」
と いいました。
丘の 南の なたね畑の 中で じっと まっていた 仔牛の 頭に、やがて ちっちゃく 生えて 来たのは、白鳥の 羽でも なく、鹿の 角でも なく、ふつうの 牛の まるい 角でした。
仔牛が お父さん牛と お母さん牛の ところへ かえって 来ると 二人の 親牛は 目を しばたたいて よろこびました。
そして いいあいました。
「まあ、よかった。でも なんて りっぱな 牛に なった ことだろう。」

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