初級翻訳・巨男の話 第2話

巨男の話

それでも、王様は「それで十分だ」とはおっしゃいませんでした。
そこで、巨男はふたたび南の国へ向けて旅立ちました。
長い鎖を引きずりながら、白鳥を連れて、巨男は広くて何もない砂漠を、来る日も来る日も歩いていきました。
そして巨男は、また大きな大理石を三つもらって都へと帰ってきたのです。
戻ってくるとすぐその日から、つちとのみを手にとって石を切りはじめました。
塔はますます高くなっていきましたよ。
空がどんより曇って星が見えない夜でも、巨男のランプの明かりは、たった一つの星のようにポツンと夜空に浮かんでいました。
それは、少し風の強い夜のことでした。
都の人びとは、自分の家の窓から塔の上の明かりを見上げました。
明かりは風に吹かれて、ゆらゆらと揺れていました。
そのとき、人びとは生まれて初めて「巨男がなんだかかわいそうだな」と思ったのです。
王様も窓から顔をお出しになって、塔の上をご覧になりました。
ごうごうと吹き荒れる風の音のすきまから、巨男のかなづちを叩く音がかすかに聞こえてきました。
さすがの王様も、巨男のことを気の毒にお思いになったのか、
「こんな風の強い夜に働かせておくなんて、あまりに可哀想だ。それにあの男は、文句も言わずおとなしく働いている。明日はもうあの仕事をやめさせよう」
と、一人をつぶやかれました。
そんなこととはみじんも知らない巨男は、相変わらずコツコツとお仕事を続けていました。
そして、「どうしたら白鳥を泣かせて、お姫様にしてあげることができるだろうか」と考えていました。
ふと、巨男は「もし自分が死んでしまったらどうなるだろう――」と考えました。
そこで、温かい自分の背中ですやすやと眠っている白鳥に話しかけました。
「私が死んでしまったら、お前は悲しいかい?」
すると白鳥は目をパチッとさまして、「そんな悲しいことを言ってはいけないよ」と伝えるように、バタバタと羽を羽ばたかせました。
「私が死んではいけないのかい? それなら、私が死んだらお前はきっと涙を流すにちがいない。
よし! 私はお前のために天国へ行くよ!」
巨男はぐっと立ちあがり、背中から白鳥そっと下ろしました。
白鳥はそれを止めようとして、巨男の服のすそをキュッと引っ張りました。
巨男は、白鳥と最後のほおずりをして、
「それじゃあ、かわいい白鳥よ、さようなら。お前はもとの美しいお姫様に戻るんだよ……」と言うと、高い塔の上から身を投げ出しました。
地面に落ちると、巨男はすぐに息を引き取りました。
それをみた白鳥は、どんなに悲しがり、嘆いたことでしょう。
目からは滝のように涙があふれ出しました。
そして、その瞬間、魔法はパッと解けて、白鳥は気高いもとの美しい王女の姿に戻ったのです。
王女さまはワンワンと泣きじゃくりながら、高い塔の階段をころがるように駆け下りて、お父さまである王様の部屋へとびこみました。
そして、今までにあったすべてのことを、王様に泣きながら話しました。
王様はそれを聞いて深く後悔し、うつむいて巨男に謝り、そして心から感謝しました。
まもなく、王様から都の人びとへそのお話が伝えられると、都の人びともみんな涙を流して巨男に謝りました。
巨男の亡がらは、月桂樹の緑の葉でおおわれ、都の東にあるすなやま(沙丘)に優しくほうむられました。
王女さまは、その後も王様やお母さまの王妃さまに、よくこう話していましたよ。
「私は、あのあともずっと白鳥のままで、巨男の背中にとどまっていたかったわ……」
空がどんより曇っていて、宵の明星(金星)がたった一つだけうるうると光って見えるような夜ふけになると、南国の人びとは今でもこう言って空を見上げます。
「あれは、巨男のランプの灯りだよ」って。

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