初級翻訳・怪塔王 第36話

怪塔王

僕はそれをお守りのようにして、いつもポケットの中に入れているんです」
 と言って、少年はポケットを探って鍵を取り出しました。
それは銅色に光る大きな鍵で、なるほど握りのところが猿の顔になっているものでした。
「おお、なるほどこれは見事な鍵だ。では、はまるかどうか、さっそく試してみようではないか」
 塩田大尉は少年からその鍵を受け取ると、隅の鍵穴にあててみました。
すると鍵は、うまく穴の中にするすると入りました。

4

 猿の鍵は、ついにするすると鍵穴に入ったのです。
さあ、この大利根博士の地下秘密室に、これからどんなことが始まるのでしょうか。
塩田大尉と一彦少年は、鍵穴の前にかがんで、ちょっと一息つきました。
「うまく鍵が入りましたが、回してみましょうか」
「うん、うまく入ったね。一体これは何の鍵だか分からないが、まあとにかく回してみよう」
 まことに、変な隅っこに鍵穴があるのですから、二人とも、この鍵を回したときにどんなことが起こるのか、一向に見当がつきませんでした。
「じゃあ、回しますよ。いいですか」
 一彦少年は、猿の鍵を右へひねってみました。
すると「ガチャン」と音がして、錠はうまく外れました。
「錠が外れた!」
「うむ、外れたか!」
 二人が顔を見合わせた直後の出来事でした。
どこか地の底で、ゴーゴーというモーターの回る音が聞こえだしたかと思うと、ギリギリと金属がきしむ音がして、二人の目の前にある壁全体が、静かに上へ上がっていくではありませんか。
「おやっ、壁が上へ上がっていく!」
「うむ、そうか! この壁の向こうに、まだ部屋があるんだ。一彦君、こっちへ寄っていたまえ」「中から何が飛び出してくるかわからないから――」
 塩田大尉は、少年を自分のうしろにかばいました。そして、なおも不気味な音を立てて上へ上がっていく壁を、じっと注意深く見守っていました。
 ギリギリ、ギリギリ。
 重い扉は、なおも上へ上がっていきます。壁の下からは、その奥にある部屋の床が見えてきました。しかし、その部屋の中にどんなものがあるのかはわかりません。わかっているのは、血のあとが中まで続いているということだけです。

怪しい機械

1

 大利根博士の地下秘密室の重い壁扉は、まだギリギリと音を立てて上がっている最中です。新しい科学兵器の研究者として名高い大利根博士は、今どこへ行っているのでしょうか。この前、軍艦「淡路」に姿を現したきり、誰も博士の姿を見た者はいません。磁力砲にやられた軍艦「淡路」の鉄板をたくさん切り取って持ち帰った博士は、それを調べてくれるはずでしたが、博士は本当に調べているのでしょうか。
 一彦少年は、大利根博士のことを、たいへん怪しい博士だと思っています。塩田大尉は、それとは反対にかなり信用しているようです。どちらが本当か、それはいずれはっきりわかるでしょうが、一彦にしてみれば、いくら秘密の研究をしている学者にしても、屋敷の中にずいぶんと怪しい仕掛けをしているのが、なによりも不審でたまりません。
 大利根博士の実験室が、部屋全体がエレベーターのように下へ降りる仕掛けになっていたり、またさっき見つけた隅っこの鍵穴に、あの「怪塔王」の持っていた猿の鍵がぴったりはまったりすることを考えると、大利根博士と怪塔王とは、なんだか深い関係があるように思われます。その深い関係とは、はたしてどんな関係なのでしょうか。
 重い壁扉はギリギリと上へ上がっていきました。そしてついに、壁だったところがすっかり開放されました。今こそ、室内がよく見えます。おお、その部屋は、ちょっとした倉庫ほどもある広い部屋です。しばらく開けたこともなかったとみえて、中からはプーンとかびくさい臭いが漂ってきました。
「こら、出てこい!」
 塩田大尉は、暗い部屋に向かって叫びました。しかし、室内はたいへん静かでした。

2

「誰もいないようだ」
 塩田大尉は、一彦を振り返って言いました。
「でも、中が暗くて、よくわかりませんね」
「待った。そこに電灯のスイッチが見える。今つけるから――」
 と、壁の内側にあったスイッチを押すと、室内はパッと明るくなりました。
「ほう、あれは何だろう」
 塩田大尉は、その部屋の真ん中に、横倒しになっている妙な機械のそばへ寄りました。
「なんでしょうね」
 一彦もそばへ寄って、その機械をじっくりと眺めました。それは、全く「妙な機械」としか言いようのない機械でした。まず、それに似たものを思い浮かべてみますと、熱帯地方に棲んでいるニシキヘビという大きな蛇が、とぐろを巻いていて、そして鎌首を持ち上げているところを想像してください。ただし、その大蛇の首は一つではなく、七つの首を持っています。その首をよく見ると、先がラッパのように開いているのです。その部分は、ちょうど聴音機みたいです。それが横倒しになって、長く首をだらんと伸ばしているのです。全体はすべて大小の違いはあれど管でできているので、ミミズの化け物のようでもあります。まことに不思議な機械です。
 これをじっと見ていた塩田大尉は、だんだんと息をはずませてきました。その顔色は、はじめは赤く、そしてのちには青く変わりました。
「塩田大尉、これはどうした機械なのですか?」
 一彦も、なにかしらゾッとするものを背中に感じ、大尉のそばへ寄っていきました。
「ふうん、これはね、多分大利根博士が研究中だと言っていた『あべこべ砲』の一種らしい」
「あべこべ砲とは、何のことですか?」
 あべこべ砲というのは、聞いたことのない名前です。一体この七つの首の化け物機械は、何をする機械なのでしょうか。

3

「あべこべ砲というのはね」
 と言って、塩田大尉はブルブルと身震いをしました。
「そんなに恐ろしい機械ですか?」
「うん、もしこれが完成したら、これまでの兵器はみな役に立たなくなるという恐ろしい機械だ。しかし、それはたいへん難しくて、ここ十年や二十年のうちにはできないだろうという話だった。つまり、あべこべ砲というのは、たとえば、自分がピストルを敵に向けてドンと撃ったとする。すると当たり前なら、弾丸は敵の胸板を撃ち抜くはずであるが、このとき、もし敵があべこべ砲を持っていたとすると、その弾丸は敵に当たらないで、あべこべに自分の胸に当たって死なねばならぬというのだ」
「なるほど、それで『あべこべ砲』ですか」「しかし、そんなことが本当にできるのでしょうか」
「うむ、まあ不可能だという話だったが、今こうして床に横たわっている機械を見ると、かねて大利根博士がちらりと口にしていた機械によく似ているんだ。待っていたまえ、もっとよく調べてみよう」
 そう言って、塩田大尉は機械を綿密に調べはじめましたが、やがて大声で叫びました。
「あっ、わかった!」
「えっ、わかりましたか!」
「『対磁力砲のあべこべ砲』と書いてある。一彦君、ここを見たまえ。機械の裏側に、博士の筆跡で管の上に彫りつけてある」
 一彦がのぞき込んでみると、なるほど一番太い管の裏側に、「対磁力砲のあべこべ砲」と彫りつけてありました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました