初級翻訳・新浦島 第5話

アーヴィング ワシントン

がっかりして家を出て、急ぎ足でいつもの居酒屋のところへ行ってみると、なんとその店もどういうわけか消え去っていて、代わりに大きな、古ぼけた木造りの建物が立っていました。
壊れかけた部分をボロ布や古い帽子でふさいだ窓が広く開いていて、ドアの上には「ジョナサン・ドゥーリトルの連邦ホテル」とペンキで書かれていました。

昔、居酒屋の軒先を気持ちよく覆っていた大きな古い木はなくなっていて、その代わりに太い裸の丸太が一本立っていました。そのてっぺんには、寝るときにかぶるナイトキャップ(赤帽子)のようなものがついていて、そこから一枚の旗がひらひらと下がっています。よく見てみると、星としま模様が不思議なデザインで組み合わされており、目にするものすべてがチンプンカンプンで不思議なことばかりでした。

「でも、ジョージ国王の赤い顔が描かれた看板は、まだあそこに掛かっているぞ。いや、違うぞ! 赤かったはずのガウンの色が、青と黄色に変わっている。手に持っているのも、杖ではなくて剣になっている。頭には、つばのそり返った帽子をかぶっているぞ。なんだこれは。看板の下には『ワシントン将軍』と書いてあるじゃないか」

いつものように、入り口には大勢の人が集まっていましたが、やはりみんな知らない顔ばかりです。
なんというか、人々の様子がすっかり変わってしまっていました。以前のような、のんびりとして眠たげな、静かな雰囲気は跡形もなく消え去り、誰も彼もが忙しそうで、がやがやと騒がしく、今にもケンカを始めそうなピリピリした雰囲気に見えるのです。

リップは、あの顔が広くて二重あごをした、きれいな長いパイプからむずかしい理屈の代わりにぷかぷかと煙を吐き出していた賢いニコラス・ベッダーや、古い新聞を読み聞かせてくれた学校の先生のブロンメルはいないかと見回してみましたが、とうとう見つかりませんでした。

このおなじみの人たちの代わりに、痩せこけて不機嫌そうな顔をした男が、コートのポケットにたくさんのビラを詰め込んで、「市民の権利だ!」「選挙だ!」「議員だ!」「自由だ!」「バンカーヒルだ!」「七十六年の英雄だ!」などと、リップにはさっぱりわけのわからない、まるで大昔のバベルの塔の工事現場で飛び交っていた外国語のような言葉を、まくしたてるようにしゃべり散らしていたのでした。リップが、長いヒゲを垂らし、見たこともない変わった服を着て、サビで真っ赤になった鉄砲を肩にかついで現れました。その後ろには、たくさんの女の人や子どもたちがついてきています。その姿を見て、居酒屋に集まっていた政治好きの人たちは、みんな腰を抜かすほどびっくりしました。

彼らは立ち上がってリップをぐるりと取り囲むと、珍しいものを見るような目で、頭のてっぺんから足の先までじろじろと眺めました。

その中でも、おしゃべりが上手そうな一人の男が、人混みをかき分けてリップのそばに寄ってきました。そして、リップの腕を引っ張ってこう言いました。「おい、あんたは選挙でどの党を応援するんだい?」

リップは、何のことだかさっぱりわからず、呆れた顔をしてその男を見つめるだけで、一言も言い返せませんでした。

すると今度は、また別の人をかき分けて、忙しそうな背の低い男がやってきました。その男はリップの腕をぎゅっとつかむと、背伸びをして耳元に口を寄せ、「あんたは連合党の味方か? それとも民政党の味方か?」とささやきました。

リップはやっぱり、わけがわからなくて呆れた顔をしたまま、黙り込んでしまいました。

その時です。また別の老人が、周りの人をヒジでぐいぐいと押しのけて、リップの目の前に現れました。その老人は、いかにも「自分は何でも知っているぞ」という顔をしていて、片手を腰に当て、もう片方の手でつえをついています。そして、つばのそり返った帽子をかぶり、その下から鋭い目を光らせて、リップの心の中まで見透かすような顔でこう言いました。「あんた、こんな選挙の場所に武器を持ってきて、しかもこれだけ大勢の人を連れているとは……。さては、暴動でも起こして大騒ぎしようっていう魂胆(こんたん)か?」

これを聞いて、リップはあわてて答えました。
「とんでもない! どうして私が暴動なんて起こしますか。私はこの村で生まれ育った人間で、国王陛下を心から敬(うやま)う忠実な国民ですよ」

「王様の味方だ」と言ったリップの言葉を聞いた瞬間、周りにいた人たちの間で、ものすごい大騒ぎが起こりました。

「おい、あいつは王様の味方だぞ!」「スパイだ!」「逃げ出してきたやつだ!」「捕まえろ!」「いや、追い出せ!」

さまざまな怒鳴り声が飛び交う中、あの帽子をかぶった老先生は、みんなを静まらせるのに一苦労しました。

老先生は、さっきよりもずっと真面目な顔をしてリップに向き直り(彼にとっては、リップは怪しい犯人のように見えていたのです)、いったいどんな用事で、誰を探しにここへ来たのか、と問い詰めました。

かわいそうなリップは、悪いことなんて何も考えていません。ただ、いつもこの場所に来れば会えた、近所の知り合いを探しに来ただけだと答えました。

「わかった、ではその知り合いというのは誰だ? 名前を言ってみなさい」

リップは少し考えてから言いました。「ニコラス・ベッダーはどこにいますか? どなたか、ご存じの方はいませんか?」

周りの人たちはしばらく黙り込んでいましたが、その中から一人のおじいさんが、か細い悲しそうな声で答えました。
「なに、ニコラス・ベッダーだって? あの男が死んだのは、もう十八年も前のことだよ。お墓のしるしの木に彼のことが書いてあったが、その木もいつの間にか腐ってしまって、今では跡形もないよ」

「それでは、ブロム・ダッチャーはどうですか?」

「ああ、あいつは戦争が始まった時に軍隊に入ったよ。ストーニー・ポイントの戦いで死んだという人もいれば、アントニーズ・ノーズという場所で嵐に遭って、おぼれて死んだという人もいる。どちらにせよ、もう二度と帰ってはこなかったよ」

「それから、学校の先生のヴァン・ブンメルは?」

「あの先生もやっぱり戦争に行ったよ。最後には軍隊の立派な将軍になって、今では議員さまになっているよ」

世の中が恐ろしいほど変わってしまったこと、そして友達が死んだり出世したりしたことを聞いて、自分だけが取り残されてしまったことに気づいたリップの悲しみは、どれほどだったことでしょう。

しかも、みんなの答えが、いちいちリップを混乱させました。何年もかかって起きた歴史上の出来事を、遠慮もなく次から次へと聞かされたからです。戦争、国会、ストーニー・ポイントの戦い……。

リップはもう、ほかの友達の行方を聞く気力もなくなってしまい、ほとほと困り果てた様子でこう言いました。「……では、この中に『リップ・ヴァン・ウィンクル』という男を知っている人はいませんか?」

「なんだって、リップ・ヴァン・ウィンクルだって?」と、二人三人の人が一度に答えました。

「知らないわけないじゃないか。

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