目が覚めてみると、そこはもともといた緑の丘の上でした。ちょうど、あの不思議な桶をかついだ男の人に初めて会った場所です。目をこすって見てみると、夜はすっかり明けて、朝日がキラキラと輝いていました。
木の間では小鳥たちが枝から枝へと飛び移りながら鳴いていて、清々しい山風に乗って、青空をワシが高く舞っていました。
「おや、ここで一晩中寝てしまったのかな?」というのが、リップが最初に思ったことでした。彼は眠ってしまうまでのことを思い出してみました。桶をかついだ不思議な人との出会い、洞窟、不気味な岩の影、どんよりした雰囲気でゲームをしていた仲間たち、そしてあのお酒の瓶。
「ああ、あの瓶のせいだ。あんなお酒を飲んでしまったからだ。さて、奥さんにどう言い訳をすればいいんだろう。これは本当に困ったぞ」
リップは自分の鉄砲があたりに落ちていないかと見回しました。ところが、どうしたことでしょう。そばにあるのは、いつも使い慣れた、ピカピカに磨いて油を塗っておいた鉄砲ではありません。銃身はすっかりサビだらけで、引き金は壊れ、持ち手の木の部分は虫に食われてボロボロになった古い鉄砲だったのです。
リップは、「あの真面目くさった、酔っ払いの山男たちが、俺をだまして酔いつぶし、その隙に鉄砲を盗んでいったんだな」と考えました。
愛犬のウルフも見当たりませんが、きっとリスか鳥を追いかけてどこかへ行ってしまったのでしょう。リップは口笛を吹いてみたり名前を呼んでみたりしましたが、山びこが自分の声を返してくるだけで、ウルフの姿はどこにも見えませんでした。
リップは、昨日不思議な目にあった場所へ行ってみることにしました。もしあのゲームをしていた仲間の一人に会えれば、鉄砲と犬を返してもらえるかもしれないと思ったからです。
さて、そう思って立ち上がろうとしたとき、なんだか体の節々が痛くて、思うように動かないことに気づきました。「やっぱり石の上なんかで寝るもんじゃないな。体がボロボロだ。もしこれがひどくなってリュウマチにでもなったら、奥さんにどれほどガミガミ言われることか」と独り言を言いながら、やっとの思いで谷へ下りて、昨日あの不思議な人と一緒に歩いた道のところまでやって来ました。
しかし不思議なことに、この谷間は山の中の川になっていて、岩から岩へと飛び跳ねる水が、まるでおしゃべりをしているような大きな音を立てて、誰もいないはずの場所をにぎやかにしていました。
苦労して川の岸に生い茂ったカバノキやハシバミ、サッサフラスの小枝をかき分けながら、岸に沿って登っていきました。木の枝にはつるが伸びて、行く手をさえぎる網のようになっており、野ブドウのつるが時々足にからみつきます。その大変さは、昨日の比ではありませんでした。
ようやく昨日の洞窟の入り口まで来てみると、なんと今日は穴も何もありません。切り立った岩はひび一つない壁のようになっていて、しかもその上からは滝がしぶきを上げて落ちてきて、すぐ下にある森の影に包まれた真っ暗な深い淵へと流れ込んでいたのです。かわいそうなリップは、ここから先へ一歩も進むことができません。
彼はまた口笛を吹いたり、愛犬ウルフの名前を大声で呼んだりしてみましたが、返事をするのは、はるか高い枯れ木のまわりを飛び回っている、のんびりとしたカラスの群れだけでした。
カラスたちは高いところから、このイライラして困り果てている人間を見下ろして、まるで馬鹿にしているように見えました。
さあ、どうしましょう。
お日様はだんだんと沈んでいきます。
朝ご飯を食べていないリップは、だんだんとお腹がすいてたまらなくなってきました。
犬と鉄砲をなくしてしまったことに腹が立ちます。
家に帰れば、奥さんがどんなにひどく怒るだろうかと心配になります。
でも、山の中で植え死にするわけにもいきません。
リップは首を横に振り、ボロボロの古い鉄砲を肩にかけ、不安を胸にいっぱいに抱えながら、家路をたどることにしました。
村に近づいていくと、何人もの人たちとすれ違いましたが、一人として知っている顔はありません。
リップは、この村で知らない人なんて誰もいなかったはずなのに。
しかも、出会った人たちの服は、みんな見たこともないようなデザインでした。
その人たちはみんなリップを見てびっくりした様子で、そしてまるでお互いに合図でもしたかのように、あごをなでました。
リップも思わず自分のあごをなでてみて、腰を抜かすほど驚きました。なんと、ヒゲが三十センチメートルも長く伸びていたのです。
リップが村の入り口に入ると、見たこともない子どもたちの群れが後ろからついてきて、彼の白いヒゲを指さして笑ったり、大声をあげて騒いだりしました。
犬のいる場所を通りかかるたびに吠えられるので、よく見てみると、どれもこれも見たことのない犬ばかりでした。
村の様子もすっかり変わっていて、大きくなり、人も増えていました。
見慣れた家が跡形もなくなっているかと思えば、昨日まで家なんてなかった場所に、のきを連ねた新しい街並みができていて、それぞれの家の入り口には知らない名前が書いてあり、窓からは知らない人が顔を出していて、何もかもが知らないものばかりでした。
リップの胸には大きな不安がわき起こり、ついに「自分も、まわりの世界も、みんな一緒にキツネか何かに化かされてしまったのではないか」と思い始めました。
でも、ここは間違いなく自分の村のはずです。昨日出て行ったばかりの、自分の村に。
キャッツキル山はあそこにそびえ立ち、ハドソン川の清らかな流れはここに流れていて、丘も谷もいつもの通りなのですから。
リップの心はすっかり混乱してしまい、なんだかとても悲しくなってきました。
「ああ、昨日のあの瓶のお酒さえ飲まなければ、こんな頭がおかしくなったようなことにはならなかったのに」と、彼は深いため息をつきました。
やっとの思いで、彼は自分の家を探し当て、おそるおそる近づいていきました。「今にもあの奥さんのうるさい怒鳴り声が聞こえてくるのではないか」と思ったからです。
しかし、見てみると、家はひどくあわれな姿になっていました。
屋根は崩れ落ち、窓ガラスは割れ、ドアはちょうつがいから外れてしまっています。
どこか愛犬ウルフに似た、お腹をすかせて死にそうになっている犬が一匹、家のまわりをうろうろしていたので、名前を呼んでみました。するとその犬は、牙をむき出しにして、うなって逃げていってしまいました。
これほど悲しくてがっかりするお出迎えはありません。
「俺の飼い犬まで、俺のことを忘れてしまったのか……」と、リップは大きなため息をつきながら言いました。
彼は家の敷居をまたいで中に入りました。
もともとリップの奥さんは、口うるさいかわりに家の掃除だけはとてもきれいにしていたのですが、今見てみると家の中は荒れ果てて、人の気配はまったくありません。
この様子を見て、奥さんへの怖さもすっかり忘れてしまったリップは、奥さんと子どもたちの名前を大声で呼びました。
その声はからっぽになった部屋の中にむなしく響き渡りましたが、それきり、また静まり返ってしまいました。
コメント