初級翻訳・木と鳥になった姉妹 第1話

小川 未明

むかしむかし、あるところに、心やさしいおばあさんが住んでいました。
このおばあさんは、たくさんの物語を知っていました。
ドキドキするような怖いお話や、不思議なお話、そしてクスッと笑えるような楽しいお話も知っていました。
今からお話しする物語も、そのおばあさんが聞かせてくれたものです。

遠いむかしのこと、あるところに、とても仲のよい姉と妹がいました。
お姉さんは妹をとてもかわいがり、妹もお姉さんのことが大好きでいつも後をついていきました。
お姉さんは気立てがものすごくやさしくて、すぐにうるうると涙ぐんでしまう人でしたが、顔立ちはあまり美しくありませんでした。
一方の妹は、やさしいことはやさしかったのですが、お姉さんに比べると明るく活発な性格でした。
目はビー玉のようにパッチリと美しく、唇はとこなつの花のようにまっ赤で、黒く長い髪が肩にサラリと垂れ下がる、めったに見られないほどの美人でした。

ふたりは大きくなるにつれて、川辺を歩いているときも、水面に映る自分の姿につい目を止めて見つめるようになりました。

ある日のこと、ふたりはお小川に沿ってのんびりとお散歩をしていました。
川のまわりには、真っ白な花や、ピンク色の花が咲いていました。
そのとき、お姉さんは水に映った自分の顔をのぞき込み、少し顔を赤らめながら言いました。
「ああ、おまえはなんと美しくこの世に生まれてきたのだろう。
それにくらべて私は、なんて不細工な姿で生まれてきてしまったんだろう。
私はだれもうらまないわ。
これもきっと、生まれる前の世界でおまえが良いことをたくさんしたから、神さまがそんなに美しい姿にしてくださったんだわ。
私は、覚えなんかないけれど、よっぽど何か悪いことでもしたから、神さまはこの世にこんな醜い姿で生ませたんだわ……」

これを聞いた妹は、目をパチクリと見開いてびっくりし、言いました。
「お姉さん、なにをそんな弱気なことを言うんですか!
人間は、顔や形よりも、心が一番大事なんです。
心の美しいことが、どれほどすばらしいことか分かりません。
お姉さんのように、やさしくて親切で、親孝行な人がほかにいるでしょうか。
お姉さんの心は、夜空の星よりもずっときれいで、ピカピカと輝いているわ。
いまお姉さんが言ったみたいに、もし人間がまた次の世に生まれ変わるものなら、お姉さんはこの世界中のだれよりも美しく、やさしく、みんなから愛されて慕われる人になるにちがいありません」

するとお姉さんは、妹のその言葉を聞いているうちに、いつの間にか涙ぐんでしまいました。
「ううん、もうおたがいに次の世のことなんて言うのはやめましょう。
ただ私は、いつまでもおまえと仲よくこうして暮らしたいと思うのだけれど、それができなくなってしまうような気がして、なんだか悲しいの。
あの花よりも美しくて、あの蝶々よりもきれいなおまえが、どうしていつまでもこんな寂しいところにずっといられるだろうかと思うのよ。
それを考えると、私の胸がいっぱいになって苦しくなるの……」とお姉さんは言いました。
「お姉さん、私があなたやお父さんを置いて、一体どこへ行くっていうんですか?
私は一生、お父さんとお姉さんのそばで暮らします。
それに、もし次の世があるなら、私は大好きな大姉さんの妹に、絶対にまた生まれ変わってきます!」と、妹は泣きながらお姉さんにしがみつきました。
ふたりはギュッと抱き合い、しばらくの間、言葉を失っていました。

そんなある日、思いがけないことから、姉妹の父親が目を悪くしてしまいました。
はじめのうちは「すぐに治るだろう」と思っていましたが、病気はだんだん悪くなり、普通では考えられないほど不自由な生活になってしまいました。
特に親孝行なお姉さんは、昼も夜も看病をし、「どうかお父さんの目が治りますように」と心を痛めました。
お姉さんが疲れ果てたときは、妹が代わって看病をしました。
けれど、とても治りにくい重い目の病気のようで、一向に良くなりそうにありませんでした。

「おまえは家にいて、しっかりお父さんの看病をしていてちょうだい。
私が薬を探してくるから」
そう言い残してお姉さんは、高い山に登ったり、深い谷に下りたりして、目薬になる草の根っこを探したり、岩の間からポタポタと滴るきれいな清水をくんできて、一生懸命看病をしました。
けれど、どんな薬を使っても、お父さんの目は治りませんでした。

「ああ、私たちの力では、どうしてもお父さんの目を治すことができない……。
どうしたらいいんだろう。
神さま、どうか私たちの命に代えてもかまいませんから、お父さんの目を元のように治してください!」
ふたりは毎日、神さまにそう祈っていました。

するとある日、見慣れない男の旅人が門のところにやってきて、道を尋ねました。
そのときその男は、ふたりが父親の看病をしている姿を見かけて、こう言いました。
「ほう、その目は絶対に治らない重い目の病気だ。
おまえさんたちがいくら看病してやったって、何の効果もないさ」
姉と妹はびっくりして、その男の顔を見上げました。
男は落ち着いた様子でこう続けました。
「なにも疑うことはない……」私は、目の病気のことをとてもよく知っているのです」と、男は言いました。
「それなら、どうかあなたのお力で、父の目をなおしていただけませんか!」と、二人は必死にお願いしました。
「私はここに、目のよくきく特別な薬を持っています。
この薬は、ものすごい数の貝を粉々に砕いて、その中から見つけ出したもので、どんなものにも代えられないほど貴重な品なんだ。
なんでも南の国の王さまが、国じゅうの宝を賭けてでも手に入れたいと探しているという話を聞いて、いまちょうどそれを届けに行く途中なのさ」と、男は答えました。
二人はそれを聞いて、さらにびっくりしてしまいました。
「どうかお願いします!
ごらんのとおり、私たちにはそのお薬と交換できるような立派なものは何も持っていません。
代わりに私たちの命をさしあげますから、どうかそのお薬を少しだけ分けてください!」と、二人は男に向かって必死に頼み込みました。
「たった一つしかない大切な薬だから、分けるわけにはいかないな。
だけど、そうだな……おまえたちの『ほしいもの(くれい)』を私にくれるというなら、この薬をあなたたちにゆずってあげてもいいよ」と、男は言いました。
「私たちが持っているものなら、どんなものでもぜんぶあなたにあげます!」と、二人は力強く誓いました。
すると男は、小さな箱の中から、銀色にキラキラと光る小豆くらいの大きさの石を取り出しました。
「さあ、これだ。この石をお皿の上で、ずーっと時間をかけてすりつぶして、そのお水を目のまわりにつけるんだよ」と、男は使い方のコツを教えてくれました。
姉と妹は、その小さく光る石を、白いお皿の上で一生懸命にとかしました。
そして、できたお薬を父親の目につけてあげました。
すると不思議なことに、今までずっと閉じたままだった目がパッと開き、見るみるうちに、どんどん目が良くなりはじめたのです!
二人は、あまりにもすごいお薬のききめに、目を見張り、びっくりしてしまいました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました