初級翻訳・海豚と河豚 第4話

佐藤 垢石

よく干したものを削って耳かき一杯分ほど飲むと、体が自然と熱を帯びて精力がみなぎり、夫婦仲が驚くほど睦まじくなるという不思議な薬としても重宝されています。

「抱肝(だききも)」も、恐ろしい部位のひとつです。抱肝とは河豚の肺臓のことで、肩甲骨の下あたりについています。これは絶対に捨てなければなりません。それから青い色の胆嚢(たんのう)や、赤黒い胃袋も警戒すべき場所です。血液は毒の源ですから、ほんの一滴でもついていたら、きれいに洗い流す必要があります。

七

河豚の肉、皮、そして五臓の中で一番おいしいのは、やはり肝臓でしょう。甘くて豊潤な味わいとは、まさにこのことです。食べているうちに、体中の骨がゆるむような心地がして、心までうっとりと酔いしれてきます。肝臓は茶色をしていて、とても柔らかいのです。

それから、雄の河豚の睾丸(白子)も、とびきりの珍味です。白子と呼ばれ、ちり鍋に入れても、味噌汁に入れても最高においしいものです。河豚嫌いで有名な尾崎行雄先生が、以前別府でこの白子を「豆腐ですよ」と言われて食べたところ、そのあまりの美味しさに感激してしまいました。その後、旅行先の下関で「あの丸い輪切りの豆腐を出してくれ」と注文したところ、それが河豚の睾丸だと説明されて、心底肝を冷やしたというエピソードもあります。

口の周りの肉は「鴬(うぐいす)」と呼ばれます。場所が場所だけに量はわずかですが、非常に美味しい部分です。腹の壁の肉は「トウトウミ」と呼びますが、これは「三河の隣(三河の隣は遠江=トウトウミ)」という地名にかけた洒落のようです。エラ(腮)も美味です。白くて半透明で、とても清々しい感じがします。腸は茶色で親指ほどの太さがあり、中にネギの株を詰めて輪切りにして食べると、これがまた格別に乙な味です。皮は青灰色で、お腹のほうが黒くなっています。骨つきの身は、背骨の周りに肉をたっぷりつけたものを指しますが、これを食べると体が芯から温まります。笹身(ささみ)は刺身にして食べますが、本当に河豚を愛する人から言わせれば、他の部位に比べると味は少し落ちるかもしれません。

ヒレは「ヒレ酒」にします。昔から、河豚のヒレを焼いて熱燗の酒に入れると、まずい酒も極上の酒に変わると言われているくらいですから、よほど不思議な魔力を持っているに違いありません。ヒレ酒を一杯飲めば、血管の中までお酒が温かく巡って妖艶な気分になり、まるで全身を温かいミルクの湯に浸したかのように熱気が湧き上がり、体の緊張がほぐれていくと言われています。

兵庫県の加古郡高砂町の漁師は、河豚料理がとても上手だという話です。三浦半島の鴨居や、房総半島の竹岡でも、鯛釣りに行って針に河豚がかかると、漁師たちはすぐにその場で料理して食べさせてくれます。

その手順は、まず頭を向こう側に向けて腹を上にし、右手にしっかり握り、肛門から包丁を入れて下唇まで切り開きます。そこからエラと内臓を取り出し、皮を引いて肉を切り分けるという順番です。そして柳刃包丁で身の表面のトゲをそぎ落とし、エラは出刃包丁で血を抜きます。腸は中身を出して血を洗い流し、裏返してさらによく血を拭い取ります。背骨の中の血は針金を通して掃除し、肝臓は薄皮をはいでサイコロ状に切ります。このとき、血管の血を完全に取り除くために塩をたっぷりとまぶします。塩には血を吸い出す性質があるからです。その後、さらに水で何度も何度もさらします。

トウトウミは一種のゼラチン質ですから、剥ぎ取って塩で血を抜き、白子と笹身は毒が少ないので、水洗いするだけでそのまま食べることができます。

河豚の肉は、かまぼこに混ぜると素晴らしく美味しくなります。伊予(愛媛)のかまぼこには、この肉がたっぷり入っていて評判が良いのですが、これまた河豚嫌いだった犬養木堂先生が、そうとは知らずいつも伊予から取り寄せて食べていたそうです。ある時、そのかまぼこが美味しい理由を聞かされて、急にかまぼこが嫌いになってしまったという話もあります。

姫柚子の絞り汁でちり鍋を食べると最高です。刺身の醤油にもこの柚子の汁を入れれば、いっそう味が引き立ちます。紅葉おろし、刻みネギ、わけぎを薬味として添えましょう。さらに豆腐やナス、春菊などを加えます。

もう、涼やかな秋がやってきました。ちり鍋、すき焼き鍋、雑炊鍋。思い浮かべるだけで、舌の先まで美味しい味が押し寄せてくるのを感じます。今日、上総の国、竹岡の漁師から、脂の乗った河豚が釣れはじめたという嬉しい便りが届きました。

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