燕(えん)の恵王(けいおう)のお墓の上に、一匹の狐と一匹の狸が住んでいました。
二匹とも千年以上も生きている妖怪でしたが、晋(しん)の国の偉い政治家でとても物知りな張華(ちょうか)のうわさを聞きつけ、「あいつをギャフンと言わせてやろう!」と企んでいました。
ある日、二匹は若くて賢い書生(しょせい)の姿に化け、馬に乗って出かけようとしました。すると、お墓の門を守る神様である「華表神(かひょうじん)」が呼び止めました。
「お前たちはどこへ行くつもりだ?」
すると狸が、華表神の問いかけにこう答えました。
「張華のところへ行って、お話の勝負(議論)をしてくるところさ」
それを聞いた門の木(華表木)の精霊が、心配して止めに入りました。
「張華さまはものすごい天才だ。お前たちが負けて命を落とすだけでなく、その災いが私たちにまで及んでしまうかもしれない。どうか行くのはやめてくれ!」
しかし、狸と狐はその忠告をまったく聞かずに出発してしまいました。
二匹は張華の屋敷へ行き、さっそく議論を始めましたが、そのあまりの賢さに、さすがの張華もタジタジになってしまいました。
(この少年たちは、どう考えても人間じゃないな……。よし、化けの皮を剥いでおやり脱こう)
そう考えていたところへ、知り合いの雷孔章(らいこうしょう)という男がやってきました。
張華は雷孔章の顔を見るなり、ひそひそ声で言いました。
「おい、なんだか怪しい書生が二人来ているんだ」
すると雷孔章は、笑ってこう言いました。
「君は国を支える大黒柱で、賢い人を引き立て、ダメな奴を追い払う立派な人じゃないか。自分より議論が上手いからといって、妖怪扱いにするなんておかしな話だよ。まあ、どうしても怪しいと思うなら、猟犬を連れてきてけしかけてみたらどうだい?」
そこで張華は、猟犬を連れて少年たちのいる部屋へ入っていきました。しかし、少年たちは少しも慌てず、平然としています。
「ぼくたちの知識や知恵は、天から授かったものだ。それなのに、ぼくたちを妖怪扱いして犬を連れてくるなんて、失礼じゃないか!」
と、狸の方が堂々と言い放ちました。
これを聞いた張華は、負けじと言い返しました。
「ただの百年の化け物なら、猟犬を見ればすぐに正体を現すはずだ。だが、千年の妖狐なら、千年の神木の火で見れば、きっと本当の姿を現すはずだ!」
それを聞いた雷孔章が「そんな神木がどこにあるっていうんだ?」と聞き返すと、張華は得意げに言いました。
「燕の恵王のお墓の前に立っている華表木(かひょうぼく)は、千年もの年月を経ているというぞ」
そしてすぐに使いの者をやり、その木を切らせることにしました。
使いの者が木の近くまでやってくると、突然、空から青い着物を着た子供が現れて言いました。
「お前はどこから来たのか?」
使いの者が「張司空(ちょうしくう)の命令で、華表木を取りに来たんだ」と答えると、子供はポロポロと涙を流し始めました。
「あの古狸め、私の忠告を聞かなかったから、ついに私にまで災いが及んでしまった……!」
そう泣くと、子供はあっという間に姿を消してしまいました。
その後、使いの者が華表木を切り倒してみると、なんと木の中から血が流れ出ました。
そして、その木を持ち帰って火を点けてみたところ、炎の中にパッと本物の狸と狐の姿が浮かび上がってきたのです。
張華はその二匹をしっかりと捕らえ、見事に退治してしまったのでした。
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