初級翻訳・空知川の岸辺 第3話

国木田 独歩

案内くらいはできるはずですよ」
と、どこまでも親切に言ってくれるので、私は感謝の言葉も見つからないほどでした。

なるほど、縁とは奇妙なものです。もし私が別の宿屋に泊まっていたら、決してこれほどの便宜と親切を受けることはできなかったでしょう。主人はどこまでも快活で、度胸があり、それでいて他人の目を気にしないような雰囲気がありました。彼の親切、見ず知らずの私にまで惜しげもなく投げ出す親切は、彼の人間性そのものから自然に湧き出ているようです。世界を我が家とし、行く先々に故郷を見出すような人は、どこへ行ってもその山や川、そして接する人々が皆、友人となるのでしょう。だからこそ、人の困り事を見れば、相手が誰であろうと、憎み合うような因縁さえなければ、十年来の交友と同じように同情を寄せるのです。

私は主人の口から彼のこれまでの話を聞くうちに、彼という人物が私の予想に近いことを知りました。彼は故郷でそれなりの財産を持っていましたが、二人の弟が兄の相続した財産をひどく羨み、ついには骨肉の争いにまで発展したそうです。しかも、七十歳になる父親までもが弟たちを可愛がり、事あるごとに兄である彼に財産を分配するように迫りました。もし三等分すれば、三人とも一家を立てることなどできません。
「だから私は考えたのです。これっぽっちの物を兄弟で争うなんて、あまりに器が小さい。よろしい、お前たちに全部くれてやろう。ただ五分の一だけくれ。私はそれを持って北海道へ飛ぶから、と言ってね。当時、息子が九歳のときでした。親子三人でポイとこちらへやって来たのです。いやあ、人間というものは、どこへだって住めば住めるものですよ、ハハハ」
と笑ってから、こう続けました。
「ところが面白いものでしょう。弟の奴ら、今では私が分配してやった財産をほとんどなくしてしまって。それなのに相変わらず小さな村をこの世の終わりのような場所だと思い込んでいて、私が何度も『北海道へ来てみろ』と手紙で勧めても、外へ出てくることができないんですよ」

私はこの男の振る舞いを見て、その語る言葉を聞いて、大いに得るところがありました。仮にこの小さな旅籠の主人が、私の想像していた通りの人物と同一でなかったとしても、あるいは私が抱いた人物像が、この主人をベースにして私自身の空想を加えて作り上げたものだとしても、彼は見事に自由で、見事に自立していました。社会の中に住みながら社会に押しつぶされることなく、果てしない天地に堂々と立ち、安らぎを見出している。海も山も原野も、あるいは市街地も、自分の庭のように闊歩して少しも屈託がない。世界のどこへ行っても花の香りを嗅ぎ、人の情けの中に住んでいる。これこそ、男というものはあるべき姿ではないでしょうか。

そう感じると同時に、私の胸は大きく開かれました。札幌を出てから歌志内に着くまで、雲とともに重く沈み、雨とともに萎れていた心でしたが、ふと空の一角が深い紺色に澄み渡り、どこまでも広がっていくのを見上げたような気分になりました。
夜の十時頃、散歩に出かけてみると、雲の流れは速く、その切れ間から星が光っていました。暗い町を通り抜け、家並みを離れると、谷を隔てて屏風のように黒く横たわる山の上に月が現れました。山をかすめて飛ぶ雲が、時折その月を隠したり、また照らしたりしています。
空気は重く湿り気を帯び、空には風が吹いていますが、地上はしんと静まり返り、ただ谷川のせせらぎがかすかに聞こえるだけです。
私は、片側が山、もう片側が崖になっている急な道を登り、少し開けた場所に出たかと思うと、突然、耳の中に三味線の音や歌声が飛び込んできました。
見ると、山に沿って長屋が二棟建っており、その騒ぎはそこから聞こえてくるのでした。
長屋はいくつもの部屋に分かれていて、どの部屋も障子を閉め切っています。障子には中の灯りがぼんやりと映り込み、三味線の調子が乱れて狂い、歌う声や叫ぶ声、笑い声が混ざり合って響いています。牛小屋のようなこの長屋が、坑夫たちにとって山奥の寂しい場所で見つけた唯一の楽しみの場所だとは、一体誰が想像したでしょうか。
流れてきて遊女になった者、同じく流れてきて坑夫になった者。売る側も買う側も、この世は夢だとばかりに歌い、踊り狂っているのです。
私はその長屋の小路に入ってみました。雨上がりの道はぬかるみ、水たまりには灯りが映っています。
家は遠くから見た以上に、なんともわびしい造りでした。新しく開拓された場所らしく、軒先の障子などは白木のまま夜目にも生々しく見えます。床も屋根も低く、立てかけられた障子は地面から軒まで届くほどの長さですが、すでに歪んでいて、隙間からはランプの笠などがのぞいています。
肩をはだけた荒くれ男の影が鬼のように映ったり、髪を乱した酌婦の姿が夜叉のように見えたり。床が抜けるのではないかと思うほどの足音と共に、どっと笑い声が起きる家もあります。
「飲めよ」「歌えよ」「殺すぞ」「殴るぞ」という哄笑(こうしょう)、激しい言葉、罵り合い、歓声、怒鳴り声。艶っぽい歌の文句は胸を切り裂くほど切なく、三味線の音色は嗚咽(おえつ)のように聞こえます。かと思えば、嵐のような激しさを見せたかと思えば、春の雨のように静かになる。
よく見れば、その歓楽の中には殺気がこもっており、殺気の中には血の涙が混じっています。泣いているのか笑っているのか、怒っているのか歌っているのか。ああ、なんと儚い人生の川の流れでしょう! 数年前までは熊が眠り、狼が住んでいたこの谷間に流れ落ちて、ここで淀み、ここで激しく渦巻き、ここで沈んでいく。月影だけが冷ややかに、その様子を照らしています。
私は通り過ぎてから振り返り、しばらく立ち止まっていました。すると突然、すぐ近くの障子が開いて一人の男がひょいと顔を出しました。
「おっ、月が出た!」と顔を上げたその男は、二十六、七歳くらいの、背が高く肩幅の広い屈強な若者です。
きょろきょろとあたりを見回していましたが、ぷっと酒気を吐き出し、舌打ちをして、またふらふらと部屋の中へ戻っていきました。

三

宿の主人の息子がテキパキと準備をしてくれ、明けて九月二十六日の朝九時、いよいよ空知川の岸辺へと出発しました。
晴れたり曇ったりと落ち着かない天気です。薄日が差したかと思うと、すぐに峰や林から霧が湧き出し、山も道もすっぽりと包み込んでしまいます。
山道は思ったよりも歩きやすく、私は宿の息子と色々な話をしながら、心も体も軽く歩きました。
林はすっかり黄色に色づき、蔦(つた)は真っ赤に染まっています。霧が湧くと、まるで霞の向こうに花を見ているようで、日が差すと、露を帯びた葉の一枚一枚が何千万もの真珠や宝石を連ねたように輝き、山全体が燃えているかのように見えました。
宿の息子は、空知川沿いにいる熊の話をしてくれ、続いて子供の頃に聞き集めたという熊にまつわる物語をいくつも熱心に語ってくれました。
坂を下りて熊笹が茂る場所に来ると、彼はふと足を止めました。
「聞こえるでしょう、川の音が」と耳を傾けます。「ほら……聞こえるでしょう。あれが空知川です。もうすぐそこですよ」
「見えそうなんだけどな」
「どうして見えるものですか。

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