豚吉(ぶきち)は、背の高さが普通の人の半分くらいしかないのに、横幅の太り方は普通の人の二倍以上もあったので、村のみんなから「豚吉」というあだ名で呼ばれていました。
また、ヒョロ子も同じ村に生まれた女の子でしたが、背の高さは普通の人の倍もあるのに、体はステッキのようにものすごく細くて痩せていたので、そう呼ばれていたのです。
村の人たちはこの二人を珍しがってみんなでワイワイとはやし立てるので、二人は恥ずかしくて家の外に出ることもできませんでした。
そうこうしているうちに、二人はりっぱな大人になりました。
ある時、村の集まりがあったのですが、その席で誰かがこんなことを言いました。
「あの二人を夫婦にしたら、なおいっそう珍しくて面白いんじゃないか。村の名物になると思うが、みんなはどう思う?」
それを聞いた村人たちは、一斉に、
「そいつはいい! それがいい!」
と手をたたいて大喜びしました。そして、そこに居合わせた二人の両親にこの話を伝えると、両親たちも、
「村の皆さんがそこまで勧めてくださるなら、喜んでお受けいたします」
と答えたのです。
それから本人たちに聞いてみると、二人はまだお互いに会ったことはなかったものの、以前から「お互いに普通とは違う体を持っていて大変だな」と心の中で思いやって、気の毒に感じていたところだったので、喜んでこの結婚を引き受けてくれました。
村の人たちはますます大喜びしました。
「さあ、面白くなってきたぞ! 世界中にない珍しい夫婦が、この我が村に誕生するんだ。村中で力を合わせて、盛大に祝ってやろうぜ!」
と大騒ぎしながら準備を進め、まるで本物の殿様のご婚礼のような、ものすごい大がかりな結婚式の支度が整いました。
そして、いよいよ待ちに待った婚礼の儀式の夜がやってくると、村中の人たちはみんな、持っている中で一番立派な晴れ着を着飾って、神様をまつる広場に集まりました。
神様の前の広場には、作り花でいっぱいに飾られた立派な式場が作られており、そのすぐ後ろにある宴会場には、村の人たちが手作りしたごちそうやお酒が山のように並んでいました。
会場のまわりには大きな篝火(かがりび)がドンドンと勢いよく燃やされていて、あたりはまるで真昼のように明るく照らし出されていました。
そのうちに、町からやってきた音楽隊が賑やかな演奏を始めて、時間が来たことを知らせてくれました。みんなは神様の前に集まり、正装をした神主さんとともに、めずらしい夫婦となる豚吉とヒョロ子がやってくるのを「今か今か」と心待ちにしました。
ところが、いくら待っても二人の姿は一向に見えてきません。
そうしているうちに、二人を迎えに行っていた美しい花馬車が二台、トボトボと帰ってきました。中をのぞいてみると二人の姿はなく、代わりに二人の両親が泣きながら乗っていました。馬車がみんなの前に着くと、両親はこう言いました。
「皆さん、本当に申し訳ありません。二人はどこかへ逃げてしまいました……!」
「なんだって! 大大変だ!」
村中の人たちは大パニックになり、せっかくの儀式のごちそうもそのままほうり出して、大勢の村人たちが夜通し総出で探し回りましたが、二人の姿はどこにも見当たりませんでした。
実は豚吉とヒョロ子は、村中が大騒ぎしているまさにその時、村からずっと離れた山道を、しっかりと手をつなぎながら登っていたのです。
「二人で夫婦になったら、今までよりもっともっと村の人たちに笑われて、恥ずかしい思いをすることになるだろうねえ」
「本当ですわねえ。もうとても村にはいられませんよ。……でも、みんな今ごろ心配しているでしょうね」
「しかたないさ。こうして思い切って飛び出さなければ、一生涯、外の世界に出ることはできなかったんだからね」
「本当に私たちは情けない身の上ですわ。どうにかして、私たちのこの体を普通の人のように直す方法はないものでしょうか……。私はいつもそのことを考えると、悲しくて……」
そう言ってヒョロ子はポロポロと泣き出してしまいました。
「泣くなよ、泣くなよ」
豚吉はやさしくなだめました。
「それはおれだって同じ気持ちさ。今に都へたどり着いたら、腕のいいお医者さんにかかって、この体をすっかり治してもらうんだから。だから泣くなよ、泣くなよ」
そう励ましながら歩き続け、二人が険しい山を越えて広い街道に出たころ、ちょうどあたりが明るくなって朝がやってきました。
豚吉はここまでずっと強がって歩いていましたが、いざ街道に出ると、体が人一倍太っているものだから、もうヘトヘトに疲れ切ってしまいました。
「おれはもう、一歩も歩けないよ……」
豚吉は泣きそうな声で弱音を吐きました。
「まあ、あなたってなんて体力が無い方なんでしょう! じゃあ、私がおぶってあげましょうか? あたしはこんなに痩せてるけれど、力はとてつもなく強いんですよ!」
「バカなことを言うもんじゃないよ。おれは普通の人の三倍も四倍も重いんだぞ。そんなことをして、大事なお前がポキリと二つに折れでもしたら、それこそ大変じゃないか!」
「いいえ、大丈夫ですよ! 私は見た目によらず、普通の人の五倍も六倍も力があるんですから」
「ダメダメ、絶対にダメだ! そんなことをしたら、あとでよけい人に笑われてしまうよ。それより、ちょっと休んだほうがいい。ああ、くたびれた……」
「でも、あとから村の追っ手が追いかけてくるかもしれませんよ!」
「たとえトラが追いかけてきたって、おれはもう一歩も動けないよ。休もう、休もう……」
そう言うが早いか、豚吉はその場の草の上にドタンと大きなお尻もちをついて座り込んでしまいました。
ヒョロ子はすっかり困ってしまい、立ったままあたりをキョロキョロと見回すと、はるか遠くのほうから、一台の馬車がこちらに向かって走ってくるのが見えました。
ヒョロ子は嬉しさのあまり、大声を出して、
「おーい、馬車屋さん――っ! はやくこっちへ来てちょうだいよ――っ!」
と、持っていたハンカチを力いっぱい大きく振りました。「何、馬車が来たって?」
豚吉も慌てて立ち上がりましたが、背が低すぎて何も見えません。
「なんだい、草ばかりで全然見えやしないや」
「そんなことあるもんデスか。さあ、ご覧なさいな」
ヒョロ子はそう言うが早いか、豚吉をひょいと抱え上げ、自分の目の高さよりもグッと高く持ち上げました。
「おっ、見えた見えた! オーイ、馬車屋さん――っ! はやくこっちへ来てくれ――い!」
豚吉も大喜びで、持っていたハンカチをブンブンと振りました。
これを見た馬車屋のおじさんは、目をパチクリさせてびっくり仰天しました。
「なんだかものすごく背が高くて、大きな格好をした人間がこっちを呼んでいるぞ。とにかく急いで行ってみよう」
おじさんはそう思い、馬のお尻をムチでピシャリと叩くと、まるで空を飛ぶかのような勢いで馬車を走らせて駆けつけました。
「やあ、こりゃまた珍しいご夫婦だねえ! わしは今まで、あんた方のような変わったご夫婦は見たことがないよ。どうも、旦那さんはえらく横に丸々と太っているし、奥さんの方はまるで物干し竿のように細くてヒョロヒョロだ。
初級翻訳・豚吉とヒョロ子 第1話
夢野 久作
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