初級翻訳・金魚撩乱 第8話

岡本 かの子

そして実際は、わずかな期間で終わってしまった秀江との関係を、今はまだ続いているかのように誇張して手紙に書きながら、復一は自分がいよいよ真剣に真佐子との「戦い」を始めたのだと感じ、一人で興奮していたのです。

真佐子にわずかでも女としての要素があるのなら、どんな返事を書いてくるにしろ、その中に何かしら匂わせるものがあるはずだ。もしこれが真佐子の父親にバレて、たとえ学費を打ち切られたとしても、真佐子を試すことは、今の復一にとって金魚の研究よりもずっと焦りを感じる問題でした。

「その女性は、あなたほど美しくはないけれど……」と書きかけて、「あなたほど冷たくはない」とは書くことができず、復一は苦笑しました。

だんだんと刺激を強くして、復一は手紙のたびに秀江との関係を情熱的に匂わせていきましたが、真佐子からの返事には、復一が求めているような女性の生々しさは少しも感じられませんでした。代わりに書かれていたのは、真佐子が父と共に金魚に興味を持ち始めたことや、父にとっては産業としての利益が混ざっているけれど、自分にとっては不思議なほど無心な好みや愛情からであることなど、金魚のことばかりでした。

金魚の研究さえ怠らなければ、復一が何をしようと、どんな女性と付き合っていようと構わないという書きぶりだったのです。復一が真佐子に対する感情をはぐらかされ、ほとほと嫌気が差してきたころ、真佐子から次のような手紙が届きました。

「あなたはいろいろと打ち明けてくださったのに、私だけ黙っていてごめんなさい。私、もうすぐ赤ちゃんが生まれます。それから結婚します。少し、順番は狂ってしまったけれど。どっちにしても、それほど情熱的な関係というわけではないの」

復一は、むしろ呆然としてしまいました。結局、真佐子は生まれながらに、自分たちのような人間が歩む道よりもずっと上空を軽々と飛んでいく女なのです。

「相手は、あなたが知っている三人の青年のうちの誰でもありません。もう少しあっさりしていて、不親切にしたり傷つけたりするような質の男ではなさそうです。私にはそれで十分です」

復一はまたしても、自分のこせこせとした小細工だらけの知性や才能が、全く無駄なところに向けられていたことを思い知らされました。この太い一本の線だけで生きていけるような女が現代にもいるのだと思うと、かえって彼女に新鮮なモダンさを感じてしまうほどでした。

「何ということもないけれど、あなたもその方と結婚した方がいいんじゃないかしら。自分が結婚するとなると、人にも勧めたくなるものよ。でも、金魚の研究は一生懸命やってね。素晴らしくて、見ていると何もかも忘れてうっとりするような新種を作って。私、なぜだか自分が産む赤ちゃんよりも、あなたの研究から生まれる新しい金魚を見るのが楽しみなくらいよ。私、父に勧めて、いよいよ金魚に力を入れるよう決心させたわ」

これと前後して、鼎造(ていぞう)からの手紙も復一に届きました。そこには、正直に恐慌以来の家の財政が苦しいことが記されていました。しかし、断固たる切り捨てによって小規模ながらも陣形を立て直すことができたため、今後は輸出産業として見込みが百パーセントある金魚の飼育と販売に、すべての資金と力を尽くす方針が冷静に書かれていました。

「だから君は、これからは単なる道楽の給費生ではなく、商会の技師として、事業の目的のために働いてもらいたい。給料として送金は増やすことにする――」

復一は、生活の見通しが立ったという安堵よりも、「崖邸(がてい)の連中め、親子そろって俺を食い物にする気だな」と、むやみに反抗的な気持ちになりました。復一は真佐子にも、真佐子の父にも返事を出さず、金魚の研究も一時すっかり放り出して、京都の街をあてもなく遊び回りました。

しかし、一ヶ月ほどして帰ってきたときには、すでに復一の心の中で覚悟が決まっていました。それは、まだこの世に存在したことがないような、珍しく美しい金魚の新種を作り出すこと。それを生涯の仕事として取り組む自分を、人知れぬ悲壮な幸福を抱えた男だと考え、神秘的な運命に捕らえられた無名の英雄のように思い込み、命を賭けてもやり遂げようという覚悟でした。

それが結局、崖邸の親子に利用されることになるとしても――たとえそうであっても、それが自分にとってどうしても諦めきれない真佐子の喜びになるのなら、その喜びが真佐子と自分を繋ぐものになる……。

それにしても、あの非現実的な美女が、非現実的な美しい魚に惹かれるなんて、不思議で、哀れなことだ。復一は試験室の窓から、飴のようにとろりとした春の湖を眺めながら、子供の頃に真佐子に食べさせられた桜の花びらが、今も上あごの奥に貼り付いているような記憶を、舌で何度もなぞり返しました。

「真佐子、真佐子」と名を呼ぶと、復一は自分でもおかしいほど、センチメンタルな涙がこぼれ落ちました。復一の神経衰弱はひどくなる一方で、ついに「少し頭がおかしくなってしまったのではないか」という噂まで広まりました。
実際、しんしんと更けゆく深夜、研究室にたった一人で残って標本を作っている復一の姿は、鬼気迫るものがありました。
周囲が真っ暗な研究室の中で、復一は自分の机の上の電気スタンドだけを点け、次から次へと金魚を縦に裂き、輪切りにし、切り刻んで取り出した臓器を机一面に散乱させていました。それをじっと拡大鏡で覗き込んだり、ピンセットでいじり回したりする姿は、夜が明けるまで続きました。その一心不乱な様子は、まるで夜の猛獣が、予想外にたくさんの獲物を見つけて、食べるのも忘れてしばらく弄んでいるような不気味さがありました。
切り刻まれた金魚の首は、電灯の光を透かしてルビーのように輝く目を見開き、まるで何かを思い出したかのように時折口をパクパクと開閉させていました。
都会育ちで、刺激に対して頭脳が敏感に反応するよう育てられてきた青年・復一にとって、専門分野の中でもさらに絞り込んだ、根気と単調な作業の連続である「金魚の遺伝と生殖」の研究は、自分の才能を狭い焦点に押し込めるだけでも人一倍骨が折れることでした。
頬も目も窪ませた復一は、もう力尽きたと感じると、ぐったりとして窓辺へ行き、そこに並べてあるガラス鉢の一つに手をかけます。
指先は冷え切っていて氷のように冷たいのに、溜め込んだ興奮のせいでビリビリと震えていました。
やっと蓋を取ると、目を開けたまま眠っていた小石の上の「キャリコ」という名品が、電灯の光を浴びて目を覚まします。一か所に固まっていた二匹は、ゆったりと連れ立ったり離れたりして泳ぎ出します。
体長や幅の三、四倍もある尾びれは、黒いまだらの星が散らばる薄絹の布を振りまくように広がり、しばらくの間、魚の体も頭も見えなくなるほどでした。
やがてその中から、少し太ったフランス美人のような、あるいは天平時代の貴婦人のようにおっとりとした、雄大な姿が現れます。その丸い瞳と、まるで弓のような眉を描きたくなるような口元がぽっかりと浮かび上がってきました。
二、三年前にO市で開催された水産共進会で金賞を勝ち取ったこの名品は、試験所に寄付され、大切に育てられていたのです。

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