いよいよ死刑になりに行くその道中ですら、やりかけたお仕事をやめようとはしなかったのです。
すでに編み終えた十枚のくさりかたびらは、足の下にありました。
いまは十一枚目をこしらえているところだったのです。
人民たちは集まってきて、口ぐちにののしりあざけりました。
「見ろ、あの魔女がなにかぶつぶついっているぞ。
さんびかの本ひとつ持やしないじゃないか!」どうして、まだいやな魔法をやっているのだ。
あんなもの、ばらばらにひき裂いてしまえ。
」
こういって、みんなひしひしとそばへ寄って来て、くさりかたびらを引き裂こうとしました。
そのとき、十一羽の野のはくちょうがさあッとまいおりました。
馬車のうえにとまって、エリーザをかこんで、つばさをばたばたやりました。
すると群衆はおどろいてあとへ引きました。
「あれは天のおさとしだ。
きっとあの女には罪はないのだ。
」と、おおぜいのものがささやきました。
けれど、たれもそれを大きな声ではっきりといいきるものはありませんでした。
そのとき、役人が来て、エリーザの手をおさえました。
そこで、エリーザはあわてて、十一枚のくさりかたびらをはくちょうたちのうえになげかけました。
すると、すぐ十一人のりっぱな王子が、すっとそこに立ちました。
けれどいちばん末のおにいさまだけは片手なくって、そのかわりにはくちょうの羽根をつけていました。
それはくさりかたびらの片そでが足りなかったからでした。
もうひといきで、みんなでき上がらなかったのです。
「さあ、もうものがいえます。
」と、エリーザはいいました。
「わたくしに罪はございません。
」
すると、いま目の前におこった出来事を見た人民たちはとうといお上人さまのまえでするように、いっせいにうやうやしくあたまを下げました。
けれどもエリーザは死んだもののようになって、おにいさまたちの腕にたおれかかりました。
これまでの張りつめた心と、ながいあいだの苦しみが、ここでいちどにきいて来たのです。
「そうです。
エリーザに罪はありません。
」と、いちばんうえのおにいさまがいいました。
そこで、このおにいさまは、これまであったことをのこらず話しました。
話しているあいだに、なん百万というばらの花びらがいちどににおいだしたような香りが、ぷんぷん立ちました。
仕置柱のまえにつみあげた火あぶりの薪に、一本一本根が生えて、枝がでて、花を咲かせたのでございます。
そこには赤いばらの花をいっぱいつけた生垣が、高く大きくゆいまわされて、そのいちばんうえに、星のようにかがやく白い花が一りん吹いていました。
その花を王さまはつみとって、エリーザの胸にのせました。
するとエリーザはふと目をさまして、心のなかは平和と幸福とでいっぱいになりました。
そのとき、のこらずのお寺の鐘がひとりでに鳴りだしました。
小鳥たちがたくさんかたまってとんで来ました。
それから、それはどんな王さまもついみたこともないようなさかんなお祝の行列が、お城にむかって練っていきました。
初級翻訳・野のはくちょう 第8話
アンデルセン ハンス・クリスチャン
コメント