初級翻訳・魔法博士 第14話

江戸川 乱歩

ふたりは、金色の衣装をつけて、大きな木のみきのかげにかくれていた。
まず、おとなのきみが、山下君のそばをはなれて、一本の木のかげにかくれる。
すると、にせの井上が、きみにかわって、山下君に見えるように歩きだし、はんたいがわの木のみきにかくれる。
そこに、にせのノロちゃんが待っていて、いれかわって、姿をあらわす。
ノロちゃんは、井上君にくらべて、ずっと、せいがひくいのだから、そこで、また黄金怪人が小さくなったように見えたのだ。
」
「うん、よく、考えたね。
そのとおりだ。
しかし、ネズミのように、小さくなったのは、どうしたわけだろう。
まさか、あんな小さな人間が、いるはずはないからね。
」
「あれは、オモチャだ!」
 小林君が、叫ぶように、いいました。
「えっ、オモチャだって、オモチャが、どうして、井戸側をよじ登れるね。
」
「目に見えないぐらい細い糸だ! たぶん、じょうぶな黒い絹糸だ。
それを、古井戸の中に、きみの部下がかくれていて、ひっぱったのだ。
それから、地面を歩いたのは、ゼンマイじかけだ。
ゼンマイじかけのオモチャは、ひとりで歩けるからね。
蔵の窓によじ登ったときも、中から、たぶん、にせの井上が、細い糸を、ひっぱっていたのだ。
」
「うまいっ! きみは、じつに名探偵だよ。
よく、そこまで、考えられたねえ。
そのとおりだよ。
きみのような、かしこい子どもは、このわしの部下にしたいくらいだ。
いや、部下にするつもりだ。
きみばかりじゃない。
明智名探偵も、そのうち、わしの部下にするつもりだよ。
」
「それはだめだ。
ぼくは、けっして、きみの部下にならない。
まして、明智先生が、きみの部下になんかなって、たまるもんか。
いまに、ひどいめにあわされるから、見ているがいい。
」
 小林君も、負けていません。
リンゴのようなほおを、いっそう赤くして、くってかかるのでした。
「ウヘヘヘ……、わしのとりこになった身のうえで、なにを大きなことをいっている。
そっちこそ、いまに見ているがいい。
明智先生が、この部屋に、とらえられてきたときに、べそをかくんじゃないぞ。
」
「とらえられるもんか。
ぼくが、じゃまをしてやる。
けっして、先生は、きみなんかに、だまされやしないよ。
」
 それを聞くと、いままでだまっていた、ほんものの井上君も肩をいからして、どなりだすのでした。
「うん、そうだ。
小林さんと、ぼくと、ノロちゃんの三人で、きみのじゃまをしてやるんだ……。
負けるもんかっ。
」
「ウヘヘヘ……、チンピラたち、なかなか、いせいがいいな。
そんなにどなったって、わしは、ちっとも、おどろかない。
かえって、きみたちが、かわいくなるくらいだよ。
よし、よし、そう、さわぐんじゃない。
いまに、おいしいものを、たべさせてやるからな。
ウフフフ……。
ところで、小林君、きみはまだ、いいわすれたことがあるはずだね。
ほら、今日の夕がたのことさ、小さな黄金人形が、どこまでも歩きだしたじゃないか。
そしてとちゅうで、たちまち、子どもぐらいの大きさになったじゃないか。
あれは、どうしたわけだろうね。
」
「うん、それも、わかっている。
あのオモチャを売ってたじいさんは、きみだよ。
きみがばけていたんだよ。
」
「ウフフフ……、そうかもしれないね。
」
「そして、オモチャの人形が、いつまでも歩いたのは、やっぱり、きみが、細い糸であやつっていたんだ。
きみは、両手を前につきだして、人形を追いかけていた。それで、きみの手は、いつも、人形の真上にあった、あの手で、細い糸をあやつって、人形が歩くように、見せかけていたんだよ。
うす暗い夕がただから、その糸が見えなかったんだ。
それから、とつぜん、子どもぐらいの大きさになったのは、ポストのあるまがり角だった。
黄金の衣装をきた子どもが、あのポストのかげに、かくれていたんだよ。
」
「いや、それでは、まだ、考えがたりない。
いいかね。
あのときは、うす暗いといっても、まだ夕がただった。
それに人どおりがないとはいえない。
いくらポストのかげにかくれていても、金ピカの衣装をきているんだから、すぐ見つかってしまう。
そうすれば、大さわぎになる。
このわしが、そんな、あぶないことを、やるとおもうかね?」
「あっ、そうか。
それじゃあ、あのポストは……。
」
 小林君は、びっくりしたような目で、怪人を見つめました。
「うん、そうだよ。
きみは、じつにすばやく、頭がはたらくねえ。
……あのポストはにせものだったのさ。
うすい鉄板に赤ペンキをぬった、にせものだったのさ。
にせの井上が、金色の衣装をきて、あのポストの中にかくれていたんだよ。
これなら、いくら人どおりがあっても、だいじょうぶだからね。
そして、わしが、あの角をまがったとき、軽いにせのポストを、すばやく持ちあげて、井上をだしてやったというわけさ。
ウフフフ……。
」
 黄金怪人は、さも、おかしそうに、笑いだすのでした。
それにしても、なんというふしぎな怪物でしょう。
なるほど、魔法つかいです。
ふつうの人間には、おもいもよらない奇術を、つぎからつぎへと、つかって見せるのです。
さて、これから、どんなことがおこるのでしょうか。

洞窟の怪黒人

 さて、種あかしがおわりますと、黄金怪人は、三日月がたのぶきみな口で、ケラケラと笑いました。
そして、またもや、ふしぎなことを、いいだすのでした。
「いまもいうとおり、わしは明智探偵を、きっと、ここへつれこんで、わしの部下にしてみせるがね。
それまでには、まだしばらくあいだがある。
そのひまに、きみたち三人に、この地底の国の、びっくりするような魔法を見せてやることにしよう。
ふつうの世界では、とても見られないような、ふしぎなものばかりだよ。
さあ、それじゃ、三人を向こうのインド魔術の洞窟へ、案内してやりたまえ。
」
 怪人が、黒覆面の男に命じますと、黒覆面は、小林君と、ほんもののほうの井上、野呂の二少年を黄金の部屋からつれだしました。
少年たちは、いやだといっても、とりこの身のうえですから、どうすることもできません。
しかし、べつに、ひどいめにあわされるわけではなく、なにか、ふしぎな魔法を見せてくれるというのですから、いくらか、見たいような気もします。
ともかく、黒覆面についていくことにしました。
トンネルのようなせまい洞穴を、すこしいきますと、パッと、あたりが広くなって、恐ろしくでっかい洞窟の中へ出ました。
電灯は、いくつかついていますが、洞窟が広いので、向こうのほうは、まっ暗ですし、てんじょうも、ひじょうに高くて、見とおしがききません。
三人がそこへはいって、キョロキョロと、あたりを見まわしているうちに、黒覆面の男は、暗やみの中へ吸いこまれるように、姿が見えなくなってしまいました。
「へんだね、あの人、どっかへ消えてしまったよ。
これから、なにがおこるんだろう? ぼく、きみが悪いよ。
ねえ、小林さん、あとへもどろうよ。
」
 ノロちゃんが、れいによって、よわねをはきました。
すると、そのとき、洞窟の右手のほうから、ヒラヒラと、白いものが、とびだしてきたのです。

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