初級翻訳・魔法博士 第16話

江戸川 乱歩

ね、あいつをつかまえて、ひどいめにあわせてやろうよ。」
井上君は、顔をまっかにしておこるのでした。
しかし、小林君は、なにか、べつの考えがあるらしく、すこしもさわぎません。
こわがって、ふるえているノロちゃんと、目をむいて、おこっている井上君を、力づけたり、なだめたりするように、ニコニコ笑っていいました。
「まあ見ていたまえ、いまにわかるよ。
あの子どもが、ほんとうに殺されたのかどうか、いまにわかるよ。」
そのとき、まっすぐに立っている縄を、スーッと、すべりおりてきたものがあります。
あの恐ろしい黒人です。
かた手で大ダンビラをにぎり、かた手だけで、すべってきたのです。
ギラギラ光る大ダンビラには、まっかに血がついています。
「小林さん、あの血をごらん。
やっぱり、ほんとうに殺されたんだよ。
ね、あいつを、とっつかまえよう!」
小林君は、かけだしそうにする井上君の手を、ぐっとつかんで、ひきとめました。
「いまにわかるよ。
じっとしていたまえ。」
すると、そのとき、とっぴょうしもない笑い声が、聞こえてきました。
「ワハハハハハ……。」
地上におりた大ダンビラの男が、三少年のほうを向いて、さもおかしそうに笑っているのです。
大魔術

黒人は、やっと笑いやむと、大ダンビラを地上に投げすてて、なにかしゃべりはじめました。
「おれは、とうとう、あのにくい子どもを、バラバラにしてやった。
どうだ、すごい腕まえだろう。
え、びっくりしたかね。
なんだ、そっちの子どもは、ガタガタふるえているじゃないか。
いくじのないやつだ。
なにもきみを、バラバラにするわけじゃないよ。」
黒人は、そのままだまって、地上にころがっている子どもの首や手足をながめていましたが、そうしているうちに、だんだん、悲しそうな顔になってきました。
「だが、こうしてバラバラになってころがっているのを見ると、なんだか、かわいそうだな。
クスン、ああ、おれはとんだことをしてしまった。
なんて、むごたらしいことをしたもんだ。
クスン、おれは悲しくなってきた。
うう、悲しい……。
きみたちも、悲しそうな顔をしているね。
もっともだ。
うう、悲しい……。」
そして、黒人の大きな白い目から、ポロポロと、涙がこぼれてきました。
はては、声をだして、ワアワア泣きだしたではありませんか。
さっきまで、こわい顔をしていたやつが、子どものように泣きだしたのですから、なんだか、こっけいです。
少年たちは、それを見て、きみがいいと思いました。
「ああ、おれは後悔した。
どうしても、この子どもを、もとのとおりに、生きかえらせなければならない。
首や手足をつぎ合わせて、もとの姿にするんだ。
いいか、おれは、かならず生きかえらせてみせるぞ。」
しかし、バラバラにした手足を、いくらつぎ合わせてみたところで、子どもが生きかえるはずはないのです。
だいいち、人間の手や足が、ノリやセメダインで、つなげるものではありません。
「おや、きみたちは、へんな顔をしているね。
このバラバラの手足を、つぎ合わせるなんて、できっこないと思っているのだろう。
ところがね。
魔法の国では、どんなことでも、できないことはないんだよ。
え、わからないかね。
人間の手足が、ちゃんとつなげるんだ。」そして、生きかえらせることができるんだ。
うそだと思うなら、ほら、見ているがいい。」
 黒人は、そういったかとおもうと、いきなり、そこに落ちていた一本の足をつかんで、ヤッとばかりに、洞窟の向こうのほうへ投げつけました。
赤白だんだらのズボンをはいた足が、スーッと、宙をとんで、洞窟の正面の暗いところへとどきました。
すると、ああ、ふしぎ! ふしぎ! その足が、ちょんと、そこへ立ったではありませんか。
くつを下にして、まるで人間が立っているように、一本の足だけが、まっすぐに立ったのです。
「ほうら、どうだ。
こんどは右の足だぞ。」
 黒人は、そう叫んで、もう一本の足を投げつけました。
すると、その足も、まえの足とならんで、ちゃんと立ったのです。
「ウフフフ、うまいもんだろう。
おつぎは、胴体だ!」
 ヤッと投げると、これはどうでしょう。
子どもの胴体が二本の足の上に、ちょんとのっかったではありませんか。
それから、同じようにして、両手を投げると、それが胴体の両側の肩のところに、ピッタリくっつきました。
「おしまいは首だよ。
さあ、よく見ててごらん。
首がくっつけば、もとのからだだ。
生きかえるかどうか、そこが問題だよ。」
 赤白の運動帽をかぶった少年黒人の首が、大きなまりのように、スーッと、宙をとんで、ああ、うまいっ! 胴体の上に、チョコンと、こちらを向いて、のっかったではありませんか。
「あっ、笑った! 首が笑ったよ。」
 ノロちゃんが、とんきょうな声をたてました。
ほんとうです。
胴体の上にのっかった子どもの首が、パッチリ目をひらいて、白い歯をだして、ニコニコと笑ったのです。
みんなが、びっくりして、見つめていますと、ふしぎにつながった子どものからだが、ゆらゆらと、動きだしました。
あっ、あぶない! そんなに動いたら、またバラバラになるじゃないかと、手に汗をにぎりましたが、子どもはへいきです。
ニコニコしながら、いきなり両手をふって、歩きだしたのです。
そして、だんだん、こちらへ近づいてくるではありませんか。
「ばんざーい!」
 悪者の黒人が、さもうれしそうに、こおどりして叫びました。
「どうだ、おれのいったことは、うそじゃないだろう。
あの子は生きかえった。
ニコニコして歩いてくる。
かわいらしいな。
おれは二度と、あんなむごたらしいまねはしないよ。
そして、あの子どもと仲よしになるんだ。」
 黒人は、こちらもニコニコしながら、両手をひろげて、子どものほうへ、かけよりました。
そして、いきなり、小黒人をだきあげると、さも、かわいいというように、ほおずりをするのでした。
「こんなめでたいことはないよ。
さあ、お祝いに、みんなで、おどろう。
そこにいる三人も、こっちへ来たまえ。
みんなでおどるんだ。
おどるんだ!」
 黒人は、生きかえった子どもの手を取っておどりながら、三少年のほうへやってきました。
そして、ひとりずつ、手を取っては洞窟のまん中へ、ひっぱりだすのでした。
そのとき、洞窟の中が、にわかに明るくなりました。
電灯の光が強くなったのです。
それといっしょに、どこからか、音楽の音が聞こえてきました。
うきうきするような楽しい音楽です。
「さあ、おどった、おどった!」
 黒人が、さきにたって、手ぶりおもしろく、おどりながら歩きだしました。
三人の少年たちも、子どもが生きかえったうれしさに、つい、おどりの仲間にくわわりました。
洞窟の中の、ふしぎなフォークダンスです。
盆おどりです。
ゆかいな音楽に、調子をあわせて、ひらりひらりと、おどったり、はねたり。
そうなると、いちばん、はしゃぎまわるのは、ノロちゃんです。
ノロちゃんは、目をむいたり、口をまげたりして、おどけたかっこうで、おどりだしました。
それにつられて、三人とも、とらわれの身をわすれて、夢中になっておどりつづけるのでした。

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