初級翻訳・羅生門 第2話

羅生門

ヒノキの皮のような色の着物を着た、背が低く、痩せて、白髪頭の、猿のような老婆です。
その老婆は右手に火をともした松の木片を持ち、死体の一つの顔をのぞき込むように眺めていました。
髪の毛が長いところを見ると、たぶん女の死体でしょう。
下人は、六割の恐怖と四割の好奇心に突き動かされて、しばらくは呼吸をするのさえ忘れていました。
昔の記録の言葉を借りれば、「頭の先から足の先まで毛が逆立つ」ような感覚でした。
すると老婆は、松の木片を床板の隙間に差し込み、それから今まで眺めていた死体の首に両手をかけました。まるで猿の親が子供のシラミをとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜き始めたのです。
髪は手に従うように、スルスルと抜けていくようです。
その髪が一本ずつ抜けていくにつれて、下人の心からは恐怖が少しずつ消えていきました。
それと同時に、この老婆に対する激しい憎しみが、少しずつ湧き上がってきました。
――いや、「この老婆に対して」と言うと少し違うかもしれません。
どちらかと言えば、あらゆる悪に対する反感が、一分ごとに強さを増していったのです。
この時、誰かが下人に、さっき門の下で考えていた「飢え死にするか、泥棒になるか」という問題を改めて突きつけたとしたら、おそらく下人は何の迷いもなく「飢え死に」を選んだことでしょう。
それほどまでに、この男の「悪を憎む心」は、老婆が床に突き立てた松の木片のように、勢いよく燃え上がっていました。
もちろん下人には、なぜ老婆が死人の髪を抜くのか分かりませんでした。
だから、理屈で考えれば、それを善と悪のどちらに分類していいのか分かりません。
しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で死人の髪を抜くという行為そのものが、どうしても許せない「悪」だったのです。
言うまでもなく、下人はさっきまで自分が泥棒になるつもりだったことなど、とっくに忘れていました。
そこで、下人は両足に力を込めると、いきなり梯子から上へ飛び上がりました。
そして刀の柄に手をかけながら、大股で老婆の前に歩み寄りました。
老婆が驚いたのは言うまでもありません。
老婆は一目下人を見ると、まるで弓の弦に弾かれたように飛び上がりました。
「こら、どこへ行くんだ!」
下人は、老婆が死体につまずきながら慌てて逃げようとする進路をふさぎ、こう怒鳴りました。
老婆はそれでも下人を突き飛ばして逃げようとします。
下人はまた、それを行かせまいとして押し戻します。
二人は死体の中で、しばらく無言のまま掴み合いました。
しかし勝敗は、最初から決まっていました。
下人はついに老婆の腕をつかんで、無理やりその場にねじ倒しました。
ちょうど鶏の足のような、骨と皮ばかりの腕です。
「何をしていた! さあ、何をしていたんだ。言え! 言わないと、これだぞ!」
下人は老婆を突き放すと、いきなり刀の鞘を払って、白い鋼の刃を老婆の目の前に突きつけました。
それでも老婆は、黙り込んでいます。両手をぶるぶる震わせ、肩で息をしながら、眼球が飛び出しそうなほど大きく見開いて、口がきけない人のように頑なに黙り込んでいました。
これを見て、下人は初めて、この老婆の生死が自分の思い通りになることをはっきりと意識しました。
そして、この意識は、さっきまで激しく燃えていた憎しみの気持ちをいつの間にか冷ましていました。
後に残ったのは、仕事がうまくいって満足した、穏やかな得意な気持ちだけでした。
そこで下人は、老婆を見下ろしながら、少し声を柔らかくしてこう言いました。
「私は検非違使庁の役人ではありません。
さっきこの門の下を通った旅の者です。
だから、あなたを捕まえてどうこうするようなことはありません。
ただ、今この門の上で何をしていたのか、それを私に話してくれればいいのです。」
すると老婆は、見開いていた目をさらに大きくして、じっと下人の顔を見つめました。
血走った、猛禽類のような鋭い目で見たのです。
それから、しわでほとんど鼻と一体になってしまった唇を、何かを噛むように動かしました。
細い喉で、とがった喉仏が動いているのが見えました。
その時、その喉から、カラスの鳴き声のような声が、喘ぎ喘ぎ下人の耳に届いてきました。
「この髪を抜いてな、この女の髪を抜いてな、かつらにしようと思ったのじゃ。」
下人は、老婆の答えが予想外にあっさりしていたのでがっかりしました。
がっかりすると同時に、また前の憎しみが、冷たい侮蔑とともに心の中に入ってきました。
すると、その様子が老婆にも伝わったのでしょう。
老婆は片手に、まだ死体の頭から奪った長い抜け毛を持ったまま、ヒキガエルがうなるような声で、もごもごしながらこんなことを言いました。
「なるほど、死人の髪の毛を抜くのは悪いことかもしれない。
しかし、こういった死人の多くは、皆、そんなことをされても仕方ない人間ばかりである。
現に、私が今髪を抜いた女などは、蛇を四寸ずつに切って干したのを、干物だと言って、太刀帯の陣に売りに行った。
疫病にかかって死ななかったら、今でも売りに行っていたかもしれない。
しかも、この女の売る干魚は、味が良いというので、太刀帯たちが欠かさずおかずとして買っていたのである。
私は、この女のしたことは悪いとは思わない。
しなければ、飢え死にするので、仕方なくしたことだからである。
だから、また今、私がしていたことも悪いこととは思わない。
これもやはり、しなければ飢え死にするので、仕方なくすることだからである。
そして、その仕方がないことをよく知っていたこの女は、私のすることを許してくれるに違いないと思うからである。」
老婆はおおよそこのような意味のことを言いました。
下人は刀を鞘に収め、その刀の柄を左手でおさえながら、冷然としてこの話を聞いていました。
もちろん右手では、赤く頬に膿を持った大きなニキビを気にしながら聞いています。
しかし、これを聞いているうちに、下人の心にはある勇気が生まれてきました。
それは、さっき門の下でこの男に欠けていた勇気です。
そして、さっきこの門の上に上ってこの老婆を捕まえた時の勇気とは、全く逆の方向に動こうとする勇気です。
下人は、飢え死にするか盗人になるかに迷わなかったばかりではありません。
その時のこの男の気持ちからすると、飢え死になどということは、ほとんど考えることさえできないほど、意識の外に追いやられていました。
「本当に、そうか。」
老婆の話が終わると、下人は嘲るような声で念を押しました。
そして一歩前に出ると、不意に右手をニキビから離し、老婆の襟首をつかみながらこう言いました。
「では、私が強盗をしようと恨むな。
私もそうしなければ、飢え死にする身なのだから。」
下人は素早く老婆の着物を剥ぎ取りました。
それから、足にしがみつこうとする老婆を、乱暴に死体の上に蹴倒しました。
梯子の口までは、わずかに五歩ばかりです。
下人は、剥ぎ取った檜皮色の着物を脇にかかえ、あっという間に急な梯子を夜の底へ駆け下りました。
しばらく死んだように倒れていた老婆が、死体の中からその裸の体をおこしたのは、それから間もなくのことでした。

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