それじゃあ、いつまで話し合っても、話がまとまらないのは当たり前だろ?そこで僕が思うにはね、この金貨を元手にして、君が僕たちとトランプをするんだ。そうしてもし君が勝ったら、石炭に戻そうが何にしようが、君が自由に決めればいい。だけど、もし僕たちが勝ったら、金貨のまま僕たちに渡してくれ。そうすればお互いの言い分も通って、すっごく満足できるんじゃないか?」
それでも僕はまだ首を振って、なかなかその提案に賛成しようとはしませんでした。
ところがその友だちは、ますますバカにするような笑みを浮かべながら、僕とテーブルの上の金貨をずる賢そうにジロジロ見比べて、
「君が僕たちとトランプをしないのは、つまりその金貨を僕たちに取られたくないと思ってるからだろ?それなら、魔法を使うために、欲張る気持ちを捨てたとか何とか言ってた、せっかくの君の決心も怪しくなってくるってことじゃないか!」
「いや、別に僕は、この金貨がもったいないから石炭に戻すんじゃないんだ。」
「それなら、トランプをやればいいじゃないか!」何度もこんな押し問答を繰り返した後、とうとう僕は友だちの言葉通り、テーブルの上の金貨を元手にして、どうしてもトランプで勝負しなければならないことになってしまいました。
もちろん友だちたちはみんな大喜びで、すぐにトランプを一組持ってくると、部屋の片隅にあるトランプ台を囲みながら、まだしぶってる僕を「早く!早く!」って急かすんだ。
だから僕も仕方がなく、しばらくの間は友だちを相手に、嫌々トランプをしていました。
でも、どういうわけか、その夜に限って、普段はそんなにトランプがうまくない僕が、ウソみたいに、どんどん勝ちまくったんだ!
するとまた不思議なもので、最初は乗り気じゃなかったのに、だんだん面白くなり始めて、ものの10分もたたないうちに、いつの間にか僕は全てを忘れて、夢中になってトランプを引いていたんだ。
友だちたちは、最初から僕からあの金貨を全部取り上げるつもりで、わざわざトランプを始めたんだから、こうなるとみんな焦りに焦って、顔色まで変わるんじゃないかってくらい、夢中になって勝負を争い出したよ。
だけど、いくら友だちが必死になっても、僕は一度も負けないどころか、とうとう最後には、あの金貨とほとんど同じくらいのお金まで、僕の方が勝ってしまったんだ!
するとさっきの意地悪な友だちが、まるで狂ったみたいに、僕の前にカードを突きつけながら、こう言ったんだ。
「さあ、引け!
僕は僕の持ってるものを全部賭ける!
土地も、家も、馬も、車も、一つ残らず全部だ!
その代わり、君はあの金貨に加えて、今まで君が勝ったお金も全部賭けるんだ!
さあ、引け!」
僕はその瞬間、心に「欲」が生まれてしまったんだ。
テーブルの上に山積みの金貨ばかりか、せっかく僕が勝ったお金まで、もし今度運悪く負けたら、全部相手の友だちに取られてしまう。
しかも、この勝負に勝ちさえすれば、僕は相手の全財産を一度に手に入れられるんだ!
こんな時に魔法を使わなきゃ、苦労して魔法を習った意味がないじゃないか!
そう思うと、もう我慢できなくなって、僕はこっそり魔法を使いながら、まるで決闘でもするみたいに、こう言ったんだ。
「よろしい。
まず君から引きなさい。」
「九。」
「王様!」
僕は勝ち誇った声で叫びながら、真っ青になった友だちの目の前に、引いたカードを見せつけたんだ。
すると不思議なことに、そのトランプの王様が、まるで命が宿ったみたいに、冠をかぶった頭をグイッと持ち上げて、ひょいっとカードから体を出したんだ!そして、お行儀よく剣を持ったまま、ニヤリと気持ちの悪い笑顔を浮かべたんだ。
「おばあちゃん。おばあちゃん。お客さまはお帰りになるそうだから、寝床の準備はしなくていいよ。」
聞き覚えのある声でそう言うんだ。
そう思った途端、なぜか窓の外の雨の音まで、急にまた、あの大森の竹林にザーザー降り注ぐみたいな、寂しい雨の音に変わったんだ。
ふと気がついて周りを見回すと、僕はまだ薄暗い石油ランプの光を浴びながら、まるでトランプの王様みたいな笑顔を浮かべているミスラ君と、向かい合って座っていたんだ。
僕が指の間に挟んだ葉巻の灰さえ、まだ落ちずにたまっているのを見ても、僕が「一ヶ月くらい経った」って思ったのは、ほんの数分の間に見ていた夢だったに違いないんだ。
だけど、その数分という短い間に、僕がハッサン・カンの魔法の秘密を学ぶ資格がない人間だということが、僕にもミスラ君にも、はっきりと分かってしまったんだ。
僕は恥ずかしそうに頭を下げたまま、しばらくは何も言えなかった。
「僕の魔法を使いたかったら、まず欲張る気持ちを捨てなくちゃいけない。
君はまだ、そこまで修行ができていないんだ。」
ミスラ君は、なんだかかわいそうに思うような目で、赤い花模様のテーブルクロスに肘をつきながら、静かに僕をさとすように言ったんだ。
初級翻訳・魔術 第3話
芥川 竜之介
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