初級翻訳・銀河鉄道の夜 第13話

宮沢 賢治

僕と一緒に汽車に乗っているのに、あんな女の子とばかり話しているんだもの。僕は本当に辛い。)

ジョバンニはまた両手で顔を半分隠すようにして、窓の外を見つめていました。
透き通ったガラスの笛のような音が鳴り、汽車は静かに動き出しました。カムパネルラも寂しそうに「星めぐり」の口笛を吹いています。

「ええ、ええ、もうこの辺りはひどい高原ですから」
後ろの方で、年配の人が、今目が覚めたばかりだという風に、ハキハキと話す声が聞こえました。
「トウモロコシだって、棒で二尺も穴をあけておいて、そこへ蒔かないと育たないんですよ」
「そうですか。川までは、ずいぶん距離がありそうですねえ」
「ええ、ええ。川までは二千尺から六千尺もありますよ。もう、ひどい峡谷になっているんです」

そうか、ここはコロラドの高原じゃないだろうか。ジョバンニは思わずそう思いました。
お姉さんは弟を自分の胸によりかからせて眠らせながら、黒い瞳をうっとりと遠くへ投げて、何を見るでもなく考え込んでいます。カムパネルラはまた寂しそうに一人で口笛を吹き、男の子はまるで絹に包まれたリンゴのような顔色をして眠っていました。

突然、トウモロコシ畑がなくなって、大きな黒い野原が一面に広がりました。
新世界交響曲が、地平線の果てからはっきりと湧き上がってきます。その真っ黒な野原の中を、一人のインディアンが、白い鳥の羽根を頭につけ、たくさんの石を腕と胸に飾り、小さな弓に矢をつがえて、一目散に汽車を追ってくるのでした。

「あら、インディアンですよ。インディアンですよ。ご覧なさい」
黒い服の青年も目を覚ましました。ジョバンニもカムパネルラも立ち上がりました。
「走ってくるわ。あら、走ってくるわ。追いかけているんでしょうか」
「いいえ、汽車を追っているんじゃないんですよ。狩りをしているか、踊っているんですよ」
青年は、今自分がどこにいるのかを忘れたような様子で、ポケットに手を入れたまま立ち上がって言いました。
確かに、インディアンは半分踊っているようにも見えました。足をかけるにしても、もっと上手に力を入れれば、もっと本気で走れるはずだ。
インディアンは、真っ白な羽根をきらりと光らせて前の方へ倒れ込むようにすると、ぴたりと立ち止まり、素早く弓を空へ向けました。
すると、一羽の鶴がふらふらと落ちてきて、駆け出したインディアンが大きく広げた両手に、そのまま収まりました。
インディアンはうれしそうに立って笑いました。
その鶴を持ってこちらを見ているインディアンの影も、もうどんどん小さく遠ざかっていきます。電信柱のガラスの碍子(がいし)がチカチカと二つほど光ったかと思うと、またトウモロコシの林の中へと景色は変わっていきました。

反対側の窓を見ると、汽車は本当に高い高い崖の上を走っていて、谷の底には川が相変わらず幅広く、明るく流れていました。
「ええ、もうこの辺りから下り坂ですよ。
なんせ今度は一気にあの水面まで降りていくんですから、楽じゃありません。
この傾斜があるものですから、汽車は決して向こうからこっちへは来ないんですよ。
ほら、もうだんだんスピードが上がってきたでしょう」
さっきの年配の方の声がしました。
汽車はぐんぐん、どんどん降りていきました。
崖の端に線路がかかると、川がすぐ下にキラキラと見えました。
ジョバンニの心も、だんだん明るくなってきました。
汽車が小さな小屋の横を通ったとき、その前にしょんぼりと一人の子供が立ってこちらを見ていたので、ジョバンニは思わず「おーい!」と声を上げました。
汽車はどんどん加速していきました。
乗っている人たちは、体が後ろへ倒れそうになるのをこらえて、座席にしっかりとつかまっていました。
ジョバンニは思わずカムパネルラと顔を見合わせて笑いました。
天の川はもう汽車のすぐ横を、さっきよりもずっと激しい勢いで流れているようで、時々キラキラと光を放っています。
うす赤い河原なでしこの花があちこちに咲いていました。

汽車はようやく落ち着いたのか、ゆっくりと走り始めました。
川の両岸には、星の形とつるはしが描かれた旗が立っていました。
「あれ、何の旗だろうね」
ジョバンニがようやく口を開きました。
「さあ、わからないなあ。地図にも載っていないし。鉄の舟が置いてあるね」
「ああ」
「橋を架ける場所じゃないかなあ」と女の子が言いました。
「ああ、あれは工兵の旗だね。橋を架ける練習をしているんだ。でも、兵隊の姿は見えないねえ」
その時、向こう岸の少し下流の方で、見えないはずの天の川の水がギラッと光り、柱のように高く跳ね上がって、ドーンと激しい音がしました。
「発破だ! 発破だよ!」
カムパネルラは嬉しさのあまり飛び跳ねました。
柱のようになった水が消えると、大きな鮭や鱒(ます)が白くお腹を光らせながら空中に投げ出され、丸い輪を描いてまた水の中へ落ちていきました。
ジョバンニはもう飛び上がりたいくらい気持ちが軽くなって言いました。
「空の工兵大隊だ! どうだ、鱒やなんかがあんなにたくさん跳ね上げられたねえ。僕、こんなに楽しい旅はしたことがないよ。最高だね!」
「あの鱒なら、近くで見たらこれくらいの大きさはあるねえ。この水の中には、たくさん魚がいるんだな」
「小さなお魚もいるんでしょうか?」
女の子が会話に引き込まれて言いました。
「いるんだろうね。大きなのがいるんだから、小さいのもいるはずさ。でも遠くだから、いま小さいのは見えなかったね」
ジョバンニはすっかり機嫌が直って、楽しそうに笑って女の子に答えました。

「あれ、きっと双子のお星さまのお宮だよ!」
男の子が、いきなり窓の外を指さして叫びました。
右手の低い丘の上に、小さな水晶で作ったような二つのお宮が並んで立っていました。
「双子のお星さまのお宮って何だい?」
「あたし、前にお母さんから何度も聞いたわ。ちゃんと小さな水晶のお宮が二つ並んでいるから、きっとそうよ!」
「話してごらんよ。双子のお星さまが何をしたっていうの?」
「ぼくも知ってるよ。双子のお星さまが野原へ遊びに出て、カラスと喧嘩したんだろ?」
「そうじゃないわよ。あのね、天の川の岸にね、お母さんがお話してくれたの……」
「それから彗星が、ギーギーフー、ギーギーフーって言いながら来たんだよねえ」
「いやだわ、お父さん、そうじゃないわよ。それは別の話だわ」
「すると、あそこに今、笛を吹いている人がいるんだろうか」
「いま海へ行っているんだよ」
「だめよ、もう海から上がってこられたのよ」
「そうそう、ぼく知ってる。ぼくがお話してあげるよ」

川の向こう岸が、急に赤くなりました。
ヤナギの木などが真っ黒に浮かび上がり、見えない天の川の波も、時々針のように赤くキラキラと光りました。向こう岸の野原には、大きな真っ赤な火が燃え上がっていて、その立ちのぼる黒い煙は、桔梗(ききょう)の花のような冷ややかな色をした天の空まで、今にも焦がしてしまいそうでした。
その火はルビーよりも赤く透き通り、リチウムの炎よりも美しく、まるで何かに酔いしれているかのように燃えていました。
「あれは何の火だろう。

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