これは『天国の天ぷら』というものですよ。最高級品です」
そう言いながら、キツネは盗んできた角パンを差し出しました。
ホモイが少し食べてみると、これが本当にもう、たまらなくおいしいのです。
そこでホモイが「こんなものは、どの木にできるんだい?」とたずねると、キツネは横を向いて「ヘン」と一つ笑ってから言いました。
「『台所』という木ですよ。『ダイドコロ』という木ね。おいしかったら、毎日持ってきてあげましょう」
ホモイは言いました。
「それじゃあ、毎日きっと三つずつ持ってきておくれ。ね?」
キツネは、話がよくわかったと言わんばかりに目をパチパチさせて言いました。
「へい、よろしゅうございます。そのかわり、私が鶏を盗むのを、あなたが止めてはいけませんよ」
「いいとも」とホモイが言うと、キツネは「それでは今日の分、あと二つ持ってきます」と言いながら、また風のように走っていきました。
ホモイは、それを家に持って帰ってお父さんやお母さんにあげる時のことを考えてワクワクしました。
お父さんだって、こんなおいしいものは知らないはずだ。僕はなんて親孝行なんだろう!
キツネが角パンを二つ口にくわえてきてホモイの前に置くと、「さよなら!」と急いで言い残して、また走っていってしまいました。
ホモイは「キツネはいったい毎日何をしているんだろう」とつぶやきながら、家に帰りました。
今日はお父さんとお母さんが、家の前でスズランの実を天日に干していました。
ホモイが言いました。
「お父さん、いいものを持ってきましたよ。あげましょうか? まあ、ちょっと食べてごらんなさい」
そう言って角パンを差し出すと、ウサギのお父さんはそれを受け取り、眼鏡をはずしてじっくりと調べたあとで言いました。
「お前、こんなものをキツネにもらったな。これは盗んできたものだ。こんなもの、おれは食べない!」
お父さんはそう言うと、もう一つホモイがお母さんにあげようとしていた分までいきなり取り上げ、自分の分といっしょに地面へ叩きつけ、めちゃくちゃに踏みにじってしまいました。
ホモイはわっと泣き出しました。ウサギのお母さんもいっしょに泣きました。
お父さんはあちこち歩き回りながら言いました。
「ホモイ、お前はもうダメだ。玉を見てごらん。もうきっと砕けてしまっているはずだ」
お母さんが泣きながら箱を出すと、玉はお日様の光を受けて、まるで天上に昇っていくかのように美しく燃えていました。
お父さんはその玉をホモイに渡すと、黙り込んでしまいました。
ホモイも玉を見ているうちに、いつしか涙を忘れてしまいました。
*
次の日、ホモイはまた野原に出ました。
キツネが走ってきて、すぐに角パンを三つ渡しました。
ホモイはそれを急いで台所の棚の上に載せてからまた野原に戻ると、キツネがまだ待っていてこう言いました。
「ホモイさん、何かおもしろいことをしようじゃありませんか」
ホモイが「どんなこと?」ときくと、キツネが言いました。
「モグラをこらしめるのはどうです? あいつは本当にこの野原の毒虫ですよ。それに怠け者です。あなたが一度『許す』と言ったのなら、今日は私だけでモグラをいじめますから、あなたは黙って見ていてください」「いいでしょう」
ホモイは、「うん、毒虫なら少しいじめてもいいだろう」と言いました。
キツネは、しばらく地面のあちこちをくんくん嗅いだり、足でトントン踏んだりしていましたが、ついに大きな石を一つひっくり返しました。するとその下には、モグラの親子が八匹、かたまってブルブルと震えていました。
キツネは足をドンドンと鳴らしながら、「さあ、走れ! 走らないと噛み殺すぞ!」と怒鳴りました。
モグラの親子は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら逃げようとしますが、もともと目がよく見えない上に、足もうまく動かないので、ただ草をひっかくだけです。一番小さな子どもは、もう仰向けになって気絶してしまったようです。キツネは悔しそうに歯を食いしばりました。ホモイも思わず、「シッシッ」と言って足を鳴らしました。
その時、「こらっ、何をする!」という大きな声が響きました。キツネは驚いてクルクルと四回ほど回ると、そのまま一目散に逃げ出しました。
見ると、ホモイのお父さんがやって来たのです。お父さんは急いでモグラたちをみんな穴の中へ戻してやり、上から前と同じように石をのせました。それからホモイの首すじをガシッとつかむと、グングンと家の方へ引っ張っていきました。
お母さんが出てきて、泣きながらお父さんにとりすがりました。お父さんは言いました。
「ホモイ。お前はもうダメだぞ。今日こそ『貝の火』は砕けてしまったはずだ。箱を出して見ろ」
お母さんが涙をふきながら箱を持ってきました。お父さんはドキドキしながら箱の蓋を開けました。
すると、お父さんはびっくり仰天しました。貝の火は、今日がこれまでで一番美しいほどに輝いていたからです。
それはまるで、赤や緑や青のさまざまな色の火が激しく戦い合っているようでした。地雷火が爆発したり、のろしが上がったり、稲妻がキラリと光ったり、光の血が流れたりしているようです。そうかと思うと、水色の炎が玉の全体をパッと支配して、今度はヒナゲシの花や、黄色いチューリップ、バラやホタルカズラなどが、一面に風で揺れているように見えるのです。
ウサギのお父さんは黙って玉をホモイに渡しました。ホモイはいつの間にか涙のことも忘れて、貝の火をじっと見つめて喜びました。お母さんもようやく安心した様子で、お昼の支度を始めました。みんなは座って角パンを食べました。
お父さんが言いました。
「ホモイ。キツネには気をつけないといけないぞ」
ホモイは答えました。
「お父さん、大丈夫ですよ。キツネなんかなんでもありません。僕には貝の火があるのですもの。あの玉が砕けたり曇ったりするもんですか」
お母さんが言いました。
「本当にね、いい宝石だね」
ホモイは得意げになって言いました。
「お母さん、僕はね、生まれつきあの貝の火と離れないようになっているんですよ。たとえ僕がどんなことをしたって、あの貝の火がどこかへ飛んでいくなんて、そんなことがあるもんですか。それに僕、毎日百回ずつ息をかけて磨いているんですもの」
「実際、そうだといいがな」とお父さんが言いました。
その晩、ホモイは夢を見ました。高くて高い、錐(きり)のような山のてっぺんに、片足だけで立っている夢です。ホモイはびっくりして、泣きながら目を覚ましました。
*
次の朝、ホモイはまた野原に出ました。
今日は陰気な霧がジメジメと降っています。木も草もじっと黙り込んでいます。ブナの木さえ、葉っぱを一枚も動かしません。ただ、あのツリガネソウの朝の鐘の音だけが、高く高く空に響いていました。
「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン」
終わりの音が「カアン」と向こうから戻ってきました。
そこへ、キツネが角パンを三つ持って、半ズボンをはいてやってきました。
「キツネ、おはよう」とホモイが言うと、キツネはいやらしい笑い方をしながら言いました。
「いやぁ、昨日はびっくりしましたぜ。ホモイさんのお父さんもずいぶん頑固ですな。
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