「これほどの大嵐では、あの船はもう助からないだろう」
おじいさんとおばあさんは、ガタガタと震えながら話し合っていました。
夜が明けても、沖のほうは真っ暗で、恐ろしい景色が広がっていました。
その夜、難破して沈んでしまった船は、数えきれないほどだったのです。
不思議なことに、赤い蝋燭が山のお宮に灯る夜は、どんなに天気が良くても、すぐに大嵐になりました。
それからというもの、赤い蝋燭は「不吉なもの」と言われるようになりました。
蝋燭屋の老人夫婦は、「神様の罰が当たったんだ」と言って、その日を境に蝋燭屋を閉めてしまいました。
しかし、どこからともなく、誰が供えるのか、毎晩のように赤い蝋燭がお宮に灯り続けました。
昔は、このお宮に供えられた絵入りの蝋燭の燃えさしさえ持っていれば、海の上で災難に遭うことは決してありませんでした。ところが今では、赤い蝋燭を見ただけでも、その人は必ず災難に遭い、海に溺れて死んでしまうようになったのです。
この噂があっという間に世間に広まると、山の上のお宮にお参りに行く人は、もう誰一人いなくなりました。
こうして、昔はご利益のあった神様も、今では町の「鬼門」と呼ばれるようになってしまいました。
そして、こんなお宮がこの町になければいいのに、と恨まない人はいなかったのです。
船乗りたちは沖からお宮のある山を眺めては、恐れおののきました。
夜になると、北の海の上はいつまでも恐ろしい様子でした。
果てしなく、どこを見回しても、高い波がうねうねと波打っています。
そして、岩にぶつかっては、白い泡が激しく立ち上がっていました。
月が雲の隙間から顔を出し、波の表面を照らしたときは、本当に気味の悪い光景でした。
真っ暗で星も見えない雨の降る晩には、波の上から蝋燭の光がふわふわと漂い、だんだんと高く昇って、山の上のお宮を目指してチラチラと動いていくのを見たという人がいます。
それから何年も経たないうちに、その下の町は滅びて、跡形もなく消えてなくなってしまいました。
初級翻訳・赤い蝋燭と人魚 第3話
小川 未明
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