「こうしましょうよ、セーラ。あなたが宮様になって、これは宮中の御宴会なのよ」
「でも、今日の主催者は私じゃないわ。だからあなたが宮様で、私たちは女官になりましょう」
「あら、私なんか太っているから駄目よ。それに宮様がどう振る舞うものかも知らないし。だから、やっぱりあなたの方がいいわ」
「あなたがそう仰るなら、そうしましょう」
セーラはまた何かを思いついたようで、さびた暖炉のところへ飛んでいきました。
「紙屑や塵が溜まっているから、これに火をつけると少し明るくなるわ。そうすれば、本当に火が燃えているような気分になれるでしょう?」
セーラが火をつけると、優雅に手を挙げて、二人を再び食卓へ招きました。
「さあ、お進みなさい、御婦人方。饗宴の席にお着きなさい。わがやんごとなき父君、国王様はただ今長い旅路におわしますが、そなたたちをこの宴に招くよう、妾(わらわ)に御言づてをくださったのですよ。……おや、楽士たちか。六弦琴(ハープ)や低音の喇叭(ラッパ)を奏でておくれ」
そう言ってから、セーラは二人に説明しました。
「宮様方の宴会には、必ず音楽があったものなのよ。だから、あの隅に奏楽場があることにしましょう。さあ、始めましょう」
皆がお菓子に手をかけようとしたその時、三人は思わず飛び上がりました。真っ青な顔で戸口の方を向き、息を殺して耳を澄ましました。
誰かが梯子を上ってくるのです。
「もう何もかもおしまいだわ」と三人は思いました。
「きっと奥様よ」ベッキーは思わず手に持っていたお菓子のかけらを落としてしまいました。
「そうよ。先生に見つかってしまったんだわ」
セーラも顔を真っ青にして目を見開きました。
ミンチン先生が扉を叩き開けて入ってきました。怒りのあまり、先生の顔まで蒼白でした。
「何かこそこそやっているとは思っていたけれど、こんな大胆不敵なことをするとは夢にも思わなかったわ。ラヴィニアが言っていたのは本当だったのね」
告げ口をしたのがラヴィニアだと、三人は悟りました。
ミンチン先生は足音を荒くして進み寄ると、またベッキーの耳を打ちました。
「この畜生め。夜が明けたらさっさと出ていきなさい」
セーラは身動きもせず立ち尽くしていました。目はますます大きく見開き、顔色はさらに蒼ざめていきました。
アーメンガードがわっと泣き出しました。
「どうか、ベッキーを追い出さないでください。伯母さんがこの手籠をくださったので、みんなで……ただの宴会ごっこをしていただけなんです」
「案の定、プリンセス・セーラが上座に座っているね。みんなセーラの仕業なんだわ。ちゃんと分かっているのよ。ベッキー、お前はさっさと自分の部屋へ帰りなさい。セーラ、お前の罰は明日よ。明日は朝から晩まで、何も食べさせないからね」
「今日だって、お昼も晩もいただいていないわ」
「それならなおのこといいわ。何か心にこたえるような罰を与えなければね。アーメンガード、ぼんやり立っていないで、食べ物を全部手籠にしまいなさい」
ミンチン先生は自分でテーブルの上のものを手籠の中へ払い落としましたが、またしてもセーラが大きな目で自分を見つめているのに気づくと、先生は食ってかかりました。
「何を考えているのよ。どうしてそんな目をして私を見るの!」
「私、お父様がこれをご覧になったら、何と仰るだろうかと考えていたんです」
それを聞くと先生は、いつかの時のように腹が立ってたまらなくなりました。思わずセーラに飛びかかり、その体を激しく揺さぶりました。
「まあ、失敬な! ずうずうしいにも程があるわ」
先生は手籠や本をアーメンガードの腕に押し込み、彼女を小突いて先に立たせながら、セーラの部屋を出て行きました。
夢はすっかり覚めてしまいました。炉の中の紙屑は消えて黒い燃え殻となり、テーブルの上に飾った品々は、鞄の中にあった時のように古ぼけて、床に散らばっていました。
セーラはエミリーが壁に寄りかかっているのを見つけると、震える手で抱き上げました。
「もうご馳走どころじゃないのよ。宮様も何もいやしないわ。バスティーユの囚人がここにいるだけなのよ」
セーラはその場にへたり込み、両手で顔を覆いました。
その間にも、さっきの黒い顔が再び天窓の上に現れていましたが、セーラはそれに気づきませんでした。
セーラはやがて立ち上がり、寝床の方へ向かいました。
もう、何かのつもりになる気力も残っていませんでした。「あの暖炉に火が入っていたらいいな。
火のそばには居心地のいい椅子とテーブルがあって、温かい晩ごはんが並んでいたらいいな。
それから……あの――」
セーラは薄っぺらな夜具を体にかけながら、つぶやきました。
「もしこれが、柔らかいベッドで、羊毛の毛布やふかふかの枕がついていたら……そして、それから……」
セーラはそう思い描いているうちに疲れ果て、いつしかぐっすりと眠り込んでしまいました。
* * *
どれほど眠ったのか、セーラには分かりませんでした。
彼女はあまりに疲れきっていたので、ネズミのメルチセデクが騒ぎ回ろうと、天窓から誰かが入ってこようと、何も知らずに深く眠り続けていたのです。
天窓がぱたりと閉まる音を聞いたような気もしましたが、あまりに眠たくて――それに、何だかとてもポカポカと温かくて心地よかったので、すぐには目を開けられませんでした。
あまりの気持ちよさに、セーラはまだ夢の中にいるようでした。
「なんていい夢かしら。
このまま覚めなければいいのに」
間違いなく、これは夢に違いありません。
温かな夜具が体にかかっているようですし、毛布の肌触りも感じられます。
手を伸ばすと、サテンの羽根布団らしい感触が伝わってきました。
セーラはこの夢から覚めたくなくて、一生懸命に目を閉じていましたが、パチパチと火が爆ぜる音が聞こえてきて、どうしても目を開けずにはいられませんでした。
目を開けて、セーラは思いました。ああ、まだ夢を見ているのだと。
暖炉には、真っ赤な炎が燃え上がっています。
炉棚の上では、小さな真鍮の茶釜がふつふつと煮え立っていました。
床には厚手の緋色の絨毯が敷かれ、暖炉の前にはクッションを乗せた椅子が置かれています。
椅子のそばには白いテーブルクロスをかけた小さな食卓が据えられ、ティーカップやポット、小皿、布をかけた料理のお皿などが並べられていました。
ベッドの上には温かそうな寝間着や、サテンの羽根布団がかけられています。
ベッドの足元には、珍しい綿入りの絹の服や、中綿入りのスリッパ、小さな本などが置かれていました。
それに、テーブルの上には薔薇色の傘がついた明るいランプが灯っているのです。
セーラは、夢の国から妖精の国へ迷い込んだのかと思いました。
「消えてなくなったりしないわ。
こんな夢、今まで見たこともない」
セーラはしばらくベッドに肘をついて部屋の中を見回していましたが、やがて夜具を押し退け、足を床に下ろしました。
「夢を見ながら、ベッドから起き出しているんだわ。
このまま続けばいいのに。
私は今、これが現実なんだと夢見ているのね。
夢じゃないと、夢の中で思っているんだわ。
魔法にかかった夢のよう。
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