「お日さまといっしょにさいたもの……」
この花、あまりつつましくもないけれど、心がゆさぶられる……と王子くんはおもいました。
そこへすぐ、花のことばが続きます。
「あさのおしょくじのじかんじゃなくて。このままあたしはほうっておかれるの?」
王子くんはもうしわけなくなって、つめたい水のはいったじょうろをとってきて、花に水をやりました。
こんな調子で、ちょっとうたぐりぶかく、みえっぱりだったから、その花はすぐに、王子くんをこまらせるようになりました。
たとえばある日、花はこの王子くんに、よっつのトゲを見せてこういったのです。
「ツメをたてたトラが来たって、へいきよ」
「トラなんて、ぼくの星にはいないよ」と王子くんはいいかえしました。
「それに、トラは草なんて食べない」
「あたし、草じゃないんだけど」と花はなにげなくいいました。
「ごめんなさい……」
「トラなんてこわくないの。ただ、風にあたるのは大っきらい。ついたてでもないのかしら?」
『風にあたるのがきらいって……やれやれ、こまった花だ』と王子くんはおもいました。
『この花、とってもきむずかしいなあ……』
「夜には、ガラスのおおいをかけてちょうだい。あなたのおうち、すっごくさむい。いごこちがわるい。あたしのもといたところは……」
と、ここで花は話をやめました。
花はタネのかたちでやってきたのです。ほかのところのことなんて、わかるはずがありません。
ついむじゃきにウソをいってしまいそうになったので、はずかしくなったのでしょう。花はえへんえへんとせきをして、王子くんのせいにしようとしました。
「ついたては……?」
「とりにいこうとしたら、きみがしゃべったんじゃないか!」
また花は、わざとらしくえへんとやりました。
その子におしつけるのは、うしろめたかったけれど。
これだから、王子くんはまっすぐ花をあいしていたのに、すぐしんじられなくなってしまったのです。たいしたことのないことばも、ちゃんとうけとめてしまったから、すごくつらくなっていきました。
「きいちゃいけなかった」と、あるときその子はぼくにいいました。
「花はきくものじゃなくて、ながめて、においをかぐものだったんだ。ぼくの花は、ぼくの星をいいにおいにした。でも、それをたのしめばいいって、わかんなかった。ツメのはなしにしても、ひどくいらいらしたけど、気もちをわかってあげなくちゃいけなかったんだ」
まだまだ話はつづきました。
「そのときは、わかんなかった! ことばよりも、してくれたことを見なくちゃいけなかった。あの子は、いいにおいをさせて、ぼくをはれやかにしてくれた。ぼくはぜったいに、にげちゃいけなかった! へたなけいさんのうらにも、やさしさがあったのに。あの花は、あまのじゃくなだけなんだ! でもぼくはわかすぎたから、あいすることってなんなのか、わかんなかったんだ」
9
星から出るのに、その子はわたり鳥をつかったのだとおもいます。
出る日のあさ、じぶんの星のかたづけをしました。
火のついた火山のススを、ていねいにはらいました。そこにはふたつ火のついた火山があって、あさごはんをあたためるのにちょうどよかったのです。
それと火のきえた火山もひとつあったのですが、その子がいうには「まんがいち!」のために、その火のきえた火山もおなじようにススをはらいました。
しっかりススをはらえば、火山の火も、どかんとならずに、ちろちろと長くつづくからです。どかんといっても、えんとつから火が出たくらいの火なんですが。
もちろん、ぼくらのせかいでは、ぼくらはあんまりちっぽけなので、火山のススはらいなんてできません。だから、ぼくらにとって火山ってのは、ずいぶんやっかいなことをするものです。
それから、この王子くんはちょっとさみしそうに、バオバブのめをひっこぬきました。
これがさいご、もうぜったいにかえってこないんだ、とおもって。
こういう、まいにちきめてやってたことが、このあさには、ずっとずっといとおしくおもえたのです。
さいごにもういちどだけ、花に水をやって、ガラスのおおいをかぶせようとしたとき、その子はふいになきたくなってきました。
「さよなら」と、その子は花にいいました。
でも花はなにもかえしませんでした。
「さよなら」と、もういちどいいました。
花はえへんとやりましたが、びょうきのせいではなかったようです。
「あたし、バカね」と、なんとか花がいいました。
「ゆるしてね。おしあわせに」
つっかかってこなかったので、その子はびっくりして、立ちすくんでしまいました。その子は、ガラスのおおいを手に持ったまま、どうしていいかわからず、その場に立ちつくしてしまいました。
どうして花がこんなに穏やかで、やさしい言葉をかけてくれるのか、王子くんにはわかりませんでした。
「ううん、あなたのこと好きなのよ」と花はいいました。
「あなたがそれに気づかなかったのは、あたしのせい。でも、そんなことはもうどうでもいいわ。あなただってあたしと同じで、おバカさんね。どうか幸せになって。……そのおおいなんて、もういらないわ。もう、それだけでいいの」
「でも、風がふいたら……」
「そんなにひどい風邪なんてひかないわ……夜のひんやりした空気にあたれば、かえって元気になると思う。あたし、花だもの」
「でも、虫がきたら……」
「毛虫の一ぴきや二ひき、がまんしなくちゃ。だって、チョウチョとなかよくなるためには、そうしなきゃいけないんですもの。チョウチョはすごくきれいだって聞くわ。そうでもしないと、ここにはだれも遊びに来てくれないし。それに、あなたは遠くへ行っちゃうんでしょう? 大きな虫なんてこわくないわ。あたしには、ちゃんとツメがあるもの」
花は、無邪気に四つのトゲを見せました。
それから、こういいました。
「そんなにぐずぐずしないで、いらいらしちゃうわ。行くって決めたんなら、さあ、早く行って!」
花は、自分の泣き顔を王子くんに見られたくなかったのです。花というのは、そんなふうに弱みを見せるのがきらいなものだから……。
10
王子くんは、小惑星325、326、327、328、329、そして330番のあたりを旅することにしました。
知らないことや、やるべきことを見つけようと、とりあえず立ち寄ってみたのです。
最初の星には、王さまが住んでいました。
王さまは、真っ赤な布地とアーミンの白い毛皮をまとって、飾り気はないけれど立派な玉座に腰かけていました。
「おっ、家来がやってきた!」
王子くんを見るなり、王さまは大声をあげました。
王子くんは不思議に思いました。
『はじめて会ったのに、どうしてぼくのことを家来だってわかるんだろう?』
王さまの世界では、ものごとはとても単純でした。
だれもかれも、みんな王さまの家来なのです。
王子くんはそのことを知りませんでした。
「近くへ寄れ。よく顔を見たい」
王さまは、やっとだれかに王さまらしくふるまえるのがうれしくてたまりません。
王子くんはどこかに座ろうとあたりを見回しましたが、星じゅうが王さまの大きな毛皮のすそでいっぱいでした。
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